第3回、薬剤師のジャーナルクラブが無事に終了いたしました。
詳細はこちらをご参照ください⇒http://syuichiao.blogspot.jp/2013/11/3.html
第3回の内容はこちらから視聴が可能です。
もう一度第3回のシナリオと論文をあらためて記載しておきます。
[仮想症例シナリオ]
あなたは薬局で勤務する薬剤師です。喘息の治療で通院している30代の男性患者さんから質問を受けました。
「今年の春に喘息の状態が悪くなってから、今までのステロイドの吸入から、2つの成分が配合されたこの吸入薬(サルメテロールとフルチカゾンの合剤)になったんだけど、これはよく効くね。今はもう何ともないよ。でもかれこれ半年以上使っているんだけど、こういう薬ってずっと使っていても問題ないのかな?」
この患者さんは喘息以外に特に合併症もなく症状も今は比較的落ち着いているとのことでした。あなたは早速サルメテロール/フルチカゾン合剤吸入薬の添付文書を広げてみました。すると“その他の注意”の項目にちょっと気になる情報が記載されていました
「本剤の有効成分の1つであるサルメテロールについて米国で実施された喘息患者を対象とした28週間のプラセボ対照多施設共同試験において、主要評価項目である呼吸器に関連する死亡と生命を脅かす事象の総数は患者集団全体ではサルメテロール(エアゾール剤)群とプラセボ群の間に有意差は認められなかったものの、アフリカ系米国人の患者集団では、サルメテロール群に有意に多かった。また副次評価項目の1つである喘息に関連する死亡数は、サルメテロール群に有意に多かった。なお吸入ステロイド剤を併用していた患者集団では、主要及び副次評価項目のいずれにおいてもサルメテロール群とプラセボ群の間に有意差は認められなかった」
患者さんは時間に余裕があるとのことで、あなたは添付文書の引用文献から原著論文を手に入れ10分で簡単に読んでみることにしました。
[文献]
Nelson HS et
al The Salmeterol Multicenter Asthma Research Trial: a comparison of usual
pharmacotherapy for asthma or usual pharmacotherapy plus salmeterol.
Chest. 2006 Jan;129(1):15-26. PMID:16424409
[論文を読むと何が分かるか]
少し、前回のジャーナルクラブを振り返ります。論文から得られる情報をまとめてみますと以下のような感じでした。
■喘息患者に通常ケアに加えてサルメテロール吸入を使用すると、通常ケア単独に比べて、プライマリアウトカムである、呼吸器関連死亡と呼吸器関連の生命を脅かす事象(気管挿管や人工呼吸器導入)は明確に差が出なかった。
■プライマリアウトカムに差が出ない原因として、次の2つが考えられる
・プライマリアウトカムに偶然差が出なかった。(効果不明:αエラー)
・試験に参加した対象者が少なく、結果として差が出なかった(症例数不足:βエラー)
論文には必要なサンプルサイズは60000人と記載されており、本試験でプライマリアウトカムに差が出なかったのは症例数が不足していたためによるものかもしれない。症例数が増えれば有意な差が出た可能性が高い。(そのためこのトライアルは中間解析で中止となっている)
■サブ解析を見るとアフリカ系アメリカ人で有意な差がついているものの、白人では差が無い。またステロイド吸入を使用していると有意な差が無く、吸入ステロイドを使用していないと有意な差がついている。
このあたりを症例の患者さんへの適用という事で考えていくと…
・日本人だからあまり関係ないかもしれない?
・この患者さんは吸入ステロイドを使用しているから大丈夫か?
・絶対リスクはそれほどじゃないかも?[NNH909人]
・症状が落ち着いているからそれはそれでいいのでは?
・死亡関連アウトカムは取り返しがつかないので軽視すべきではない?
・ステロイド単独にすべきでは?
・相対リスクは有意差が無いけど、95%信頼区間は上昇傾向だがら安全とは言えない?
・吸入手技の問題は?
・人種間で吸入手技の問題があるのでは?
・人種間での生活水準(十分な医療を受けられる環境にあるか)にばらつきがあるのでは?
などなど様々な意見が出てきましたね!死亡関連アウトカムという衝撃的なテーマだけに慎重に取り扱いたいところです。ステロイド併用の有無や人種間でのリスクの相違はあくまでサブグループ解析によるもので、この論文からでは結論できません。一つの仮説にすぎないという感じです。また一つのランダム化比較試験でわかることは、やはり死亡リスクに関連するかもしれないというあいまいなものですね。
そこで今回のジャーナルクラブではPubMed検索をおこなって、もう一つ論文を検索してみました。一つのランダム化比較試験を読んでもよくわからない、これは本当によくあることです。たくさんの論文を読む暇がない、というのも現実問題としてあるわけです。そんなときとても強い味方となってくれるのが「メタ分析」の論文です。メタ分析とは、同じテーマの研究を何個か集めてきてそれをまとめて解析したものです。
では次回第4回ジャーナルクラブのお知らせです!
[第4回薬剤師のジャーナルクラブ]
ツイキャス配信日時:平成25年12月1日(日曜日)
■午後20時45分頃 仮配信
■午後21時00分頃 本配信
なお配信時間は90分を予定しております。
※フェイスブックはこちらから→薬剤師のジャーナルクラブFaceBookページ
症例4. 喘息の吸入薬はずっと使っていても安全ですか? ②
[仮想症例シナリオ]
あなたは薬局で勤務する薬剤師です。喘息の治療で通院している30代の男性患者さんから
「今年の春に喘息の状態が悪くなってから、今までのステロイドの吸入から、2つの成分が配合されたこの吸入薬(サルメテロールとステロイドの合剤)になったんだけど、これはよく効くね。今はもう何ともないよ。でもかれこれ半年以上使っているんだけど、こういう薬ってずっと使っていても問題ないのかな?」
という質問をうけ、あなたは前回CHEST 2006; 129:15–26の論文を読みながら患者さんへ対応しました。その時は論文を読んでもはっきりとした回答をすることができずに、あなたは「もう少し調べさせてください。次回来局時に回答させていただきたいと思います」と患者さんに伝え、その後あなたはもう一度このテーマについて調べてみることにしました。
文献:Long-acting
Beta-Agonists with and without Inhaled Corticosteroids
and Catastrophic Asthma Events Am J Med.2010 Apr;123(4):322-8.e2PMID:20176343
薬剤師のジャーナルクラブではメタ分析を初めて取り扱いますので、簡単に補足しておきます。
[メタ分析とは]
メタ分析について以下にまとめます。
■分析の分析
□ランダム化比較試験のメタ分析
□観察研究のメタ分析
■多くの論文をひとつにまとめて解析したもの
□症例数を増やすことで、結果の統計的検出力を高める
□論文の結論が一致していない場合に、その不確実性を解決する
■結果が定量的に統合されている
(システマティックレビューとは?)
・メタ分析と異なり結果が定量的に統合されているかは問わない
・研究結果を体系的に集めることに重点が置かれている
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メタ分析は様々な研究を集めてきて一つにまとめて統合解析したもので、結果が定量的に一つの指標に統合されています。それに対してシステマテックレビューは同じように様々な研究を集めて、検討する研究手法ですが、結果が定量的に統合されていないものも多くあります。
一般的にランダム化比較試験のメタ分析はエビデンスレベルがかなり上位となっており、その妥当性さえ高ければ、強力な根拠となります。しかしながらメタ分析には多くのバイアス(偏り)が生じやすく、場合によってはその根拠はかなり弱いものとなってしまうこともあります。
[メタ分析の4つのバイアス]
メタ分析のバイアスの中でとりわけ重要なのは以下の4つです。
■評価者バイアス
■出版バイアス
■異質性バイアス
■元論文バイアス
詳細はジャーナルクラブの中で補足したいと思いますが、それぞれについて簡単に以下にまとめます
■評価者バイアス
□論文を選び、評価する人のバイアス
□知り合いの論文だから採用してやろう…。
□複数の評価者が独立して評価することでバイアスを制御
□記載例「…Two reviewers independently …」
■出版バイアス
□選んだ研究が都合の良いものだけではないか?
□英語以外で書かれた研究も探したか?
□個々の研究者や専門家に連絡を取ったか?
□Funnel Plotを使用して検討しているか?
□記載例「… no indication of publication bias in the funnel plot…」
■元論文バイアス(治療のメタ分析)
□ランダム化比較試験のメタ分析か
□元論文のランダム化比較試験はITT解析されているか
□記載例「…included nine randomised controlled trials with 1069 participants…」
□記載例「 We assessed study quality …randomisation,
concealment of
randomisation, and completeness of follow-up…」
■異質性バイアス
□高齢者では無効、若年者では有効⇒一緒に分析したら無効という結果
□ごちゃ混ぜバイアス
□ブロボグラムを視覚的にみて、それぞれの結果の方向性が一致しているか
□異質性検定heterogeneityのp値が0.05より小さくないか
□記載例「…We found no evidence of heterogeneity
according to …」
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この4つのバイアスの確認がメタ分析の論文の批判的吟味の核となります。
[メタ分析の結果をどう見る?]
詳細は次回ジャーナルクラブで取り上げたいと思いますが、メタ分析特有のグラフとしてブロボグラムと言うのがあります。
上の図が今回のテーマ論文のブロボグラムです。一番左に記載されているのが、メタ分析に統合した研究の名前です。第3回で取り上げたSMART,2006も解析に入ってますね!この表の左側に結果が記載されているのですが、その見方を以下にまとめます。
■四角が相対危険
■相対危険が1より小さい(左側に片寄る)
□治療が有効(有害ではない、リスク低下)
■横棒が95%信頼区間
■横棒が1の縦線と交わると有意差なし
■相対危険が、1より小で、95%信頼区間が1を含まない
□統計学的にも有効な治療
■ひし形がすべてをまとめた統合指標
□縦の頂点が相危険、横の頂点が信頼区間
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以上のような感じでメタ分析を読めれば、まず十分だと思います。以下にメタ分析を読むポイントをまとめます
■研究方法は妥当か?
□論文のPECOは何か?
□一次アウトカムは明確か?
□真のアウトカムか?
□ランダム化比較試験のメタ分析か?
□メタ分析4つのバイアス
■結果は何か
□一次アウトカムを読む
□相対危険、オッズ比、NNT、推定(95%信頼区間)、(検定)危険率
□ブロボグラムを見て視覚的に判断
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メタ分析吟味用の簡単なワークシートを作成いたしましたのでご活用ください!
※薬剤師のジャーナルクラブ(Japanese
Journal Club for Clinical Pharmacists:JJCLIP)は臨床医学論文と薬剤師の日常業務をつなぐための架け橋として、日本病院薬剤師会精神科薬物療法専門薬剤師の@89089314先生、臨床における薬局と薬剤師の在り方を模索する薬局薬剤師 @pharmasahiro先生、そしてわたくし@syuichiao中心としたEBMワークショップをSNS上でシミュレートした情報共有コミュニティーです。
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