ツイキャス配信日時:平成26年2月16日(日曜日)
■午後20時45分頃 仮配信
■午後21時00分頃 本配信
なお配信時間は90分を予定しております。
[症例6.インフルエンザの検査で陰性ならインフルエンザじゃないですよね?]
[仮想症例シナリオ]
あなたは保険薬局の薬剤師です。インフルエンザが流行期を迎え、あなたの地域にはインフルエンザ流行警報がでています。朝からインフルエンザと思われる患者さんばかりで、夜の6時を回っても途切れる気配がありません。
そこに一人の患者さんが浮かない顔をして処方箋を持ってこられました。
「今日は、ものすごく混んでて、先生によく確認できなかったんですが、腑に落ちないことが多くてちょっと伺っても良いですか?」
と患者さんが切り出しました。
「まず、先生は“インフルエンザの検査はしなくても、あなたはインフルエンザだと思います。”とおっしゃって、心配なんで、どうしても検査してほしい、って頼んだんです。結果は陰性だったんで、安心したんですが、先生はそれでも“インフルエンザだろう”っておっしゃるんです。“薬いらないと思いますけど、どうします?”って聞かれたんですけど、インフルエンザだったらやっぱり飲んだほうが良いかなって思って、とりあえず、“じゃ、ください”って言って、今日はこの薬が出たんですけど…。インフルエンザの検査はしなくて良いってどういう事ですかね。それと陰性でもインフルエンザです、ってどういう意味でしょうか。よくわからないのですが、私は本当にインフルエンザなのでしょうか?」
この患者さんの主な情報と主訴は以下の通りです。
*30歳女性。喫煙(-)。電車通勤で都内まで勤務。
*今日の10時くらいから症状が出始めた
*症状は、主に発熱(39度)と寒気、関節の違和感
*合併症や併用薬なし。今日の処方はタミフル®とカロナール®
*インフルエンザの検査はしなくても良いってどういうこと?
*結局のところ、私はインフルエンザなのでしょうか?
インフルエンザ迅速診断キット検査の性能について少し調べてみました。PubMedのClinical Queriesに「rapid influenza antigen detection test」とキーワードを入れ、カテゴリーを「Diagnosis」スコープを「Narrow」にして検索すると以下の論文が見つかりました。
[文献タイトル・出典]
Factors influencing the
diagnostic accuracy of the rapid influenza antigen detection test (RIADT):a
cross-sectional study BMJ Open.2014 Jan
2;4(1):e003885. PMID:24384898
[診断のエビデンスとそのPECO]
①横断研究とは
今回は「診断」に関する論文を読みながら、その結果の解釈について考えていきたいと思います。診断法の検討をするにあたり、理想的な研究デザインは「横断研究」と呼ばれるものです。横断研究はある一時点に行う研究のことです。例えばランダム化比較試験は時間の流れが前向きにありますよね。すなわち発症率を考えているわけですが、横断研究には時間の流れがありません。現時点での有病割合を考えており、疾患の発症率を検討しているわけではないという事です。ちなみに時間が後ろ向きに流れて因果関係を検討するのが症例対照研究です。この研究デザインも発症率を検討しているわけではなくて(過去に向かって疾患が発生するわけありませんから)、疾患と因子の関連はオッズ比で示されます。まとめると以下のような感じです。
研究デザイン
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時間の流れ
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一般的な検討項目
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コホート研究
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前向き
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発症率
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ランダム化比較試験
|
前向き
|
発症率
|
横断研究
|
一時点(現時点)
|
有病割合
|
症例対照研究
|
後ろ向き
|
因果関係(オッズ比)
|
②診断のPECOと診断の横断研究における論文のPECO
診断法についてもPECOで整理することができます。概ね以下のような感じです。
▶診断の臨床疑問(インフルエンザを例に)
P:発熱・咽頭痛のある患者に、
E:検査キットで陽性の場合(陰性の場合)、
C:検査キットで陰性に対して(陽性に対して)
O:インフルエンザと確定してよいか(除外してよいか)
▶診断の横断研究論文のPECO
P:どんな患者が
E:どんな検査を受けると
C:必ず疾患の有無を判定できる検査に近い標準検査と比べて
O:どれだけ正確にその疾患の有無を診断できるか
必ず疾患の有無を判定できる検査はgold standardと言われたりしますが、そんな検査は実際には存在しにくいので、限りなくそれに近い標準検査(reference standard)と比較していることが理想となります。
論文の吟味に関しては以下の点を簡単に確認していくと良いでしょう。診断の論文の批判的吟味は薬剤師にはやや難解なので、今回は結果の数値の解釈に重きを置きながら論文の妥当性に関しては深入りせず進めたいと思います。
[診断の横断研究論文の確認ポイント]
研究デザインは何か?
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横断研究であるか。
|
標準検査は妥当か?
|
対象となる診断法がGold standardに近いもので比較されているか。
|
対象患者は臨床上、適切な患者であるか?
|
対象となる検査法にたいして、臨床上診断が問題となる患者群か。
|
研究で行われた診断法と標準検査は全ての患者で行われているか?
|
全例で行われていないと両者のデータにゆがみが生じ結果の正確度が著しく低下する。
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研究で行われた診断法と標準検査は独立して判定されているか?
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一方の診断結果を知ったうえで、他方の診断を行うと情報バイアスが生じる。
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研究で行われた診断法と標準検査の判定方法は明確か?
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実臨床でも実施が可能なものであるか、きちんと記載されているか。
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研究で行われた診断法と標準検査はいずれも再現性があるか?
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結果の判定に経験を要するもの、あるいは主観的な評価が入り込む恐れのある診断法では同じ診断を行っても結果が一致しないことがある。
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[結果の整理方法]
①論文の結果に基づいて以下の4分割表に人数を記載する
疾患あり
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疾患なし
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合計
|
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検査陽性
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a人
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b人
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a+b人
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検査陰性
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c人
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d人
|
c+d人
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合計
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a+c人
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b+d人
|
a+b+c+d人
|
■偽陰性とは疾患があるのに検査陰性と判定された人たちです。
■偽陽性とは疾患が無いのに検査陽性と判定された人たちです。
②4分割評から以下の項目を算出する
有病割合
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研究参加者全体における疾患保有者の割合
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a+c/a+b+c+d
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感度Sn
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疾患ありのうちで検査陽性の人の割合
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a/a+c
|
特異度Sp
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疾患なしのうちで検査陰性の人の割合
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d/b+d
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陽性的中率PPV
|
診断結果が陽性の場合に疾患がある人の割合
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a/a+b
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陰性的中率NPV
|
診断結果が陰性の場合に疾患がない人の割合
|
d/c+d
|
陽性尤度比
|
検査前オッズに尤度比を乗ずると
検査後オッズが算出できる(ベイズの定理)
|
Sn/1-Sp
|
陰性尤度比
|
1-Sn/SP
|
■感度が高いと病気の見逃し率が減り、所見がなければその疾患を除外できる可能性が高くなります。(SnNout:a sensitive test,when Negative rules
out disease)
■特異度が高いと、間違って病気と診断する確率が減り、所見があれば確定診断できる可能性が高くなります。(SpPin:a specific test,when Positive,rules in
disease)
■尤度比を用いると事前割合から事後割合へ予想される変化を近似できます。尤度比を確率に変換すると以下のようになります。(マクギーの身体診断学 診断と治療社 2009より引用)
尤度比
|
確率変化の近似値
|
事前確率50%としたときの検査後確率
|
0.1
|
-45%
|
5%
|
0.2
|
-30%
|
20%
|
0.3
|
-25%
|
25%
|
0.4
|
-20%
|
30%
|
0.5
|
-15%
|
35%
|
1
|
変化なし
|
50%
|
2
|
+15%
|
65%
|
3
|
+20%
|
70%
|
4
|
+25%
|
75%
|
5
|
+30%
|
80%
|
6
|
+35%
|
85%
|
7
|
||
8
|
+40%
|
90%
|
9
|
||
10
|
+45%
|
95%
|
事前確率を50%とすれば感度90%特異度90%の検査では検査後の確率はおおむね以下のようになります。
■陽性尤度比=感度/(1-特異度)=0.9/1-0.9=9
■陰性尤度比=(1-感度)/特異度=1-0.9/0.9=0.11
所見あり:50%+約41%=約91%
所見なし:50%-約45%=約5%
事前確率が五分五分の場合、検査をして所見があれば検査後確率は91%まで上昇し、所見なしであれば疾患確率は5%、まで低下するということになり、この検査は有用かもしれないという事になります。
ちなみにオッズ比と確率の違いを整理しておきます。
確率▶ある事象/全体の事象
オッズ▶ある事象/そうでない事象
例えば、3人のうち1人がインフルエンザ、確率▶1/3、オッズ▶1/2
■確率が1/2⇒頭の真ん中で髪の毛を分けている⇒オッズ1/1
そうでない事象=5
|
ある事象=5
|
(中わけ:確率=5/5+5、オッズ=5/5)
■確率が3/10⇒髪の毛の七三分け!⇒オッズ3/7!
そうでない事象=7
|
ある事象=3
|
(七三分け:確率=3/7+3、オッズ3/7)
■確率が1/100⇒髪の毛はほとんど横にペタッとなっている!⇒オッズ1/99
そうでない事象=99
|
1
|
(バーコード的:確率=1/99+1、オッズ1/99)
症例シナリオをもとに、インフルエンザ流行期で発熱関節痛を訴える患者さんのインフルエンザの事前確率を考えてみましょう。検査結果を踏まえれば、検査後確率はどう変化するでしょうか。続きはジャーナルクラブで!
※薬剤師のジャーナルクラブ(Japanese
Journal Club for Clinical Pharmacists:JJCLIP)は臨床医学論文と薬剤師の日常業務をつなぐための架け橋として、日本病院薬剤師会精神科薬物療法専門薬剤師の@89089314先生、臨床における薬局と薬剤師の在り方を模索する薬局薬剤師 @pharmasahiro先生、そしてわたくし@syuichiao中心としたEBMワークショップをSNS上でシミュレートした情報共有コミュニティーです。
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