スボレキサントは世界初のオレキシン受容体拮抗薬といわれており、覚醒を維持する神経伝達物質であるオレキシンの受容体への結合をブロックすることで、過剰な覚醒状態を抑制し、脳を覚醒状態から睡眠状態へと移行させるという生理的なプロセスで眠りをもたらすと考えられています。既にMSDが15mg錠、20mg錠の製造販売承認を取得しています。なお高齢者では就寝前15mgとなるようです。
実際のところ薬剤効果はどの程度なのでしょうか。新規作用機序薬剤であるがゆえにその安全性も気になるところです。主要文献を見ながら考察していきたいと思います。
[添付文書から分かること]
「第Ⅲ相臨床試験:国際共同プラセボ対照試験(日本人155例)において、原発性不眠症患者638例[成人(20~64歳)370例、高齢者(65歳以上)268例]に本剤(成人:20mg、高齢者:15mg)又はプラセボを3ヵ月間投与したとき、患者日誌を用いた主観的評価及びポリソムノグラフィを用いた客観的評価により入眠効果及び睡眠維持効果を評価した」
主要な結果は以下の通りです。
アウトカム
|
スボレキサント
|
プラセボ
|
差
[95%信頼区間]
|
1か月後のsTSTm
主観的総睡眠時間変化量
|
38. 7分
±50. 5
|
23. 4分
±52. 0
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16. 3
[7.9~24.8]
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1か月後のsTSOm
主観的睡眠潜時変化量
|
-16. 4分
±31. 5
|
-12. 8分
±41. 2
|
-5. 4
-10.9~0.0]
|
これを見てお分かりの通り、入眠を5分くらい早くして、睡眠時間を15分くらい長くする程度のものです。新規作用機序と盛り上がりを見せつつありますが、まずまず衝撃的な結果でしょう。
安全性に関してはどうでしょうか。添付文書の過量投与の項目には「本剤の過量投与に関する情報は少ない。〔外国人健康成人に本剤120~240mgを朝投与した臨床試験で、用量依存的に傾眠の発現率及び持続時間が増加し、脈拍数が一過性に低下する傾向がみられた。外国人健康成人に本剤240mgを朝投与した臨床試験では、胸痛及び呼吸抑制が報告された。〕」と記載があります。また「第Ⅲ相国際共同試験では、254例(日本人61例)に本剤(成人:20mg、高齢者:15mg)が投与されこの試験の 6 ヵ月間の副作用は53例(20. 9%)に認められた。主な副作用は、傾眠(4. 7%)、頭痛(3. 9%)、疲労(2.
4%)であった。」との記載があり傾眠・頭痛が主要な有害事象であることも分かります。薬物相互作用面ではCYP3Aを強く阻害する薬剤は併用禁忌ですから、注意が必要です。もちろんアルコールとも併用注意となっています。
[システマテックレビューが報告されています]
不眠症治療におけるsuvorexantの有効性と安全性を検討したシステマテックレビューの文献を見てみましょう。
Suvorexant
for insomnia: a systematic review of the efficacy and safety profile for this
newly approved hypnotic - what is the number needed to treat, number needed to
harm and likelihood to be helped or harmed?
この報告は現時点で利用できるトライアルや症例報告を含めたレビューでスボレキサントの有効性、有害性をNNT、NNHで検討した貴重な報告となっています。
スボレキサントの2つの第3相臨床試験(3か月間の2重盲検試験)での用量設定は65歳未満では40mgもしくは20mg、65歳以上では30mgもしくは15mgであり、その効果はプラセボに比べて主観的な患者の推定入眠時間改善、客観的な睡眠ポリグラフ改善、睡眠持続改善を示唆したとしています。
プラセボに比べて3か月間のInsomnia Severity Index(不眠重症度指数:7項目からなり,0~28点(高得点ほど重症)で評価)の6ポイント以上改善させるためのNNTは、両レジメンで8 (95% CI 6-14)
最も一般的な有害事象は傾眠であり(少なくとも5%以上でプラセボの倍)そのNNHは
▶40mg/30mgレジメンで13 (95% CI 11-18)
▶20mg/15mgレジメンで 28 (95% CI 17-82)
有効性忍容性プロファイルは65歳以上、未満で同様で3か月、もしくは12か月の就寝前使用で薬剤中止に伴う反跳性不眠や退薬症状は見られませんでした。以上を踏まえてこの論文では推奨用量は10mg~20mgと考えられるとしています。
[長期安全性はどうか]
3か月間にわたり不眠症への有効性が示唆されたスボレキサントですが治療1年間における臨床プロファイルを評価することを目的としたランダム化比較試験が今年に入り報告されています。
Safety
and efficacy of suvorexant during 1-year treatment of insomnia with subsequent
abrupt treatment discontinuation: a phase 3 randomised, double-blind,
placebo-controlled trial.
研究デザインは多施設2重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験です。18歳以上でDSM-IV-TR criteriaにおいて不眠症と診断された患者が研究対象となっています。介入群では65歳未満では1回40mg、65歳以上では1回30mgが投与されており、対照群にはプラセボが投与されました。最大1年間の安全性と忍容性の検討を行っています。
主要な結果は以下の通りです。
アウトカム
|
スボレキサント
|
プラセボ
|
差[95%信頼区間]
|
重篤な有害事象
|
27人/521人
(5%)
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17人/258人
(7%)
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|
傾眠
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69人/521人
(13%)
|
7人/258人
(3%)
|
|
1か月後のsTSTm
主観的総睡眠時間変化量
|
(517人)
38.7分
|
(254人)
16.0分
|
22.7分
[16.4~29.0]
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1か月後のsTSOm
主観的睡眠潜時変化量
|
(517人)
-18.0分
|
(254人)
-8.4分
|
-9.5分
[-14.6~-4.5]
|
有効性に関してはセカンダリアウトカムです。まあそれでも、添付文書に記載されていたデータとあまり変わり映えがしません。まあ多く見積もっても入眠が10分早くなり、睡眠が20分長くなる程度と言う感じです。抄録からでは得られる情報が限定的ですが、有害事象については傾眠が多い印象です。
ちなみにラメルテオンの添付文書には「慢性不眠症患者971例(年齢:20~80歳、中央値36歳)を対象(ただし、過去12ヵ月に精神疾患(統合失調症、うつ病等)、薬物依存等の既往がある患者は除外)とした二重盲検比較試験において、投与1週後の睡眠日誌による自覚的睡眠潜時は本剤(8mg)群においてプラセボ群と比較して統計学的に有意に減少したが、投与2週後では有意差は認められなかった。」と記載があり、睡眠潜時(分)は以下のようになっています。
ラメルテオン
|
プラセボ
|
差[95%信頼区間]
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|
投与1週目
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489人
61.07±30.65
|
481人
65.77±30.36
|
-4.54分
[-7.23,-1.85]
|
投与2週目
|
478人
56.95±31.37
|
478人
59.62±29.13
|
-2.36分
[-5.25,0.53]
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対象患者が異なるのでスボレキサントとの比較は一概にできませんが、最近の新規作用機序入眠剤の効果はその薬価に見合うだけの有効性が期待できるのか、やや疑問です。
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