「併用注意」を考えるシリーズ第4回目です。またまた抗菌薬との併用を考えていきます。
以前の“「併用注意」を考える”シリーズは
今回は横紋筋融解症をアウトカムにスタチンと抗菌薬のCYP3A4による相互作用を考えていきたいと思います。
[添付文書から分かること]
スタチンや抗菌薬そのものにも横紋筋融解症リスクが存在しますが、クラリスロマイシンやエリスロマイシンはCYP3A4を阻害し、スタチンの血中濃度を上げ横紋筋融解症リスクを上昇させるといいます。クラリスロマイシンと一部のスタチンは併用注意となっています。
「アトルバスタチンカルシウム水和物、シンバスタチン、ロバスタチン(国内未承認)、の血中濃度上昇に伴う横紋筋融解症が報告されているので,異常が認められた場合には,投与量の調節や中止等の適切な処置を行うこと。腎機能障害のある患者には特に注意すること。」
[横紋筋融解症について]
(財)日本医薬情報センターJAPC発行の重篤副作用疾患別対応マニュアルによると、横紋筋融解症とは骨格筋の細胞が融解、壊死することにより、筋肉の痛みや脱力などを生じる病態をさします。その際に血液中に流出した筋肉の成分であるミオグロビンが腎臓の尿細管にダメージを与え、急性腎不全を起こす場合やまれに呼吸筋が障害され、呼吸困難をきたすといわれています。初期症状としては以下の状態が挙げられています。
■手足、肩、腰、その他筋肉が痛む ■手足がしびれる
■手足に力が入らない ■こわばる
■全身がだるい ■尿の色が赤褐色になる
しびれやこわばり等、これらどれか一つでも該当するすべての状態を拾い上げると、実は横紋筋融解症を疑うべき人はかなり多くなってしまうケースもあるでしょう。現実的には尿の色と筋肉痛というのがかなり重要なポイントとなると思います。実際にはどのくらいの頻度なのでしょうか。スタチン、フィブラートによる横紋筋融解症による入院頻度を検討したコホート研究が2004年のJAMAに掲載されています。
Incidence of hospitalized rhabdomyolysis in patients treated with lipid-lowering drugs.
これによると横紋筋融解症による入院頻度は以下のようになっています。
薬剤名
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発生頻度(年間10000人あたり)
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アトルバスタチン
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0.54(95%CI 0.22~1.12)
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セリバスタチン
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5.34(95%CI 1.46~13.68)
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プラバスタチン
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0.00(95%CI 0~1.11)
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シンバスタチン
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0.49(95%CI 0.06~1.76)
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フェノフィブラート
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0.00(95%CI 0~14.58)
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薬剤使用なし
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0.00(95%CI 0~0.48)
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スタチン(※)+フィブラート
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5.98(95%CI 0.72~216.0)
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スタチン(※)
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0.44(95%CI 0.20~0.84)
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(※)アトルバスタチン、プラバスタチン、シンバスタチン
スタチンとフィブラートは原則禁忌となっていますが、これは横紋筋融解症による入院頻度がスタチン単独のおよそ10倍以上という感覚です。販売が中止されたセリバスタチンもなかなかのインパクトです。スタチン単独での横紋筋融解症による入院はおおむね年間で10000人当たり0.44例という感じです。CYP3A4で代謝されるアトルバスタチン、シンバスタチンはおおよそ年間で10000人当たり0.5例前後という感じでしょうか。
[CYP3A4を阻害するマクロライドと併用すると…]
では実際にCYP3A4を阻害するようなクラリスロマイシンやエリスロマイシンはスタチンの血中濃度を上げ、横紋筋融解症リスクを上昇させるのでしょうか。
Statin Toxicity From Macrolide Antibiotic Coprescription:A Population-Based Cohort Study
カナダオンタリオ州における2003年~2010年までの人口ベースコホート研究で、スタチン(73%がアトルバスタチン、他にシンバスタチン、ロバスタチン)を服用中の65歳以上の患者を対象にクラリスロマイシンの投与(72591例)及びエリスロマイシンの投与(3276例)とCYP阻害作用が低いアジスロマイシンの投与(68478例)とを比較して抗菌薬処方から30日以内の横紋筋融解症による入院を検討した報告です。結果は以下の通りです。
アウトカム
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指標
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結果[95%信頼区間]
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横紋筋融解症による入院
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絶対危険上昇
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0.02% [0.01% ~ 0.03%]
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相対危険
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2.17 [1.04 ~ 4.53]
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急性腎障害リスク
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絶対危険上昇
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1.26% [0.58% ~ 1.95%];
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相対危険
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1.78 [1.49 ~ 2.14]
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総死亡リスク
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絶対危険上昇
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0.25% [0.17% ~ 0.33%]
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相対危険
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1.56 [1.36 ~ 1.80]
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(スタチン服用患者におけるクラリスロマイシンまたはエリスロマイシンの併用によるアジスロマイシンと比較した横紋筋融解症リスク)
CYP3A4で代謝されるスタチンはこれを阻害するクラリスロマイシンやエリスロマイシンとの併用で、副作用リスクが増加すると結論しています。死亡リスクまで上昇する点は、軽視できません。絶対差は少ないかもしれませんが、なかなか衝撃的な報告です。
[結局のところどうするべきか]
アトルバスタチンやシンバスタチンの横紋筋融解症発症頻度は年間10000人当たり約0.5例前後でした。ちなみにロバスタチンは本邦未承認です。また高齢者や腎機能低下者では潜在的リスクは上昇します。クラリスロマイシンやエリスロマイシンはCYP3A4で代謝されるスタチン(アトルバスタチン、シンバスタチン)を服用中の患者で横紋筋融解症による入院、急性腎障害リスク、さらには総死亡リスクも上昇させる可能性があります。以上を踏まえると、65歳以上の高齢者でアトルバスタチンやシンバスタチン服用中であり、肝機能や腎機能がやや低下している可能性のある患者ではクラリスロマイシン、エリスロマイシンの投与は、できる限り併用を避けた方が望ましいと考えます。
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