ACE、DPP4いずれの酵素もサブスタンスPを分解するといわれています。サブスタンスPはブラジキニン等とともに薬剤性血管浮腫の発現メカニズムに関与すると考えられておりACE阻害薬重篤の重篤な有害事象として有名です。
ACE阻害薬による血管浮腫の発症頻度おおよそ0.1%~0.2% と言われており、薬剤投与後1週間以内に多いとされています。
Israili ZH, Hall WD. Cough and angioneurotic edema associated with
angiotensin-converting enzyme inhibitor therapy. A review of the literature and
pathophysiology.
同じくレニンアンジオテンシン系薬剤であるARBでは作用機序の観点から理論上は血管浮腫が起きないはずですが、症例報告は複数存在します。典型的にはロサルタンでの報告が目立ちますが、オルメサルタンでも報告があります。
Nykamp D, Winter EE. Olmesartan medoxomil-induced angioedema.
ただARBに比べてACE阻害薬の血管浮腫リスクは約2倍以上高いと考えられています。
Makani H, Messerli FH, Romero J. et.al Meta-analysis of randomized
trials of angioedema as an adverse event of renin-angiotensin system
inhibitors.
血管浮腫の臨床症状は典型的には、発作的な皮膚の限局的腫脹(とくに口唇や眼瞼、顔、首、舌に多い)、口腔粘膜の違和感や腫脹、咽頭や喉頭の閉塞感、息苦しさ、嗄声、構音障害、嘔気、嘔吐、腹痛、下痢などと言われています。
DPP4を阻害する新規糖尿病薬剤DPP4阻害薬でも理論上は血管浮腫が起こり得る可能性があります。そのような観点からか、添付文書上ACE阻害薬とビルダグリプチンは血管浮腫リスクの観点から併用注意となっています。
アンジオテンシン変換酵素阻害剤を併用している患者では、併用していない患者に比べて血管浮腫の発現頻度が高かったとの報告がある。(エクア錠製剤添付文書)
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ビルダグリプチンの第3相試験に参加した139211人を対象にビルダグリプチンの投与とプラセボ、メトホルミン、ピオグリタゾン、ロシグリタゾン、グリメピリド、アカルボースの投与を比較し血管浮腫リスクを検討した疫学的研究が報告されています。
Brown NJ, Byiers S, Carr D. et.al. Dipeptidyl peptidase-IV inhibitor use
associated with increased risk of ACE inhibitor-associated angioedema.
血管浮腫確定例は27人で平均年齢は58.3歳、女性の割合が多い印象です。27人のうち重症例は5人(26%)でした。全体では有意な差はつきませんでしたが、ACE阻害薬併用中の患者ではビルダグリプチンの服用と血管浮腫リスクの有意な関連が示されました。(オッズ比9.29[95%CI1.22~70.70])一方ARBでは差が出ませんでした。
血管浮腫
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ビルダグリプチン
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対照群
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オッズ比[95%CI]
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全体
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19人/8553人
(0.22%)
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8人/5368人
(0.15%)
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1.49
[0.65~3.41]
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ACE阻害薬
服用者
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14人/2754人
(0.51%)
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1人/1819人
(0.05)
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9.29
[1.22~70.70]
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ARB
服用者
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3人/1336人
(0.22%)
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2人/886人
(0.23%)
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0.99
[0.17~5.97]
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イベント数が少なく、その結果については議論の余地も多々あるかと思いますが、少し気になるテーマではあります。添付文書上の併用注意はビルダグリプチンにしか記載がなく、当薬剤固有のものなのか、他の薬剤ではどうなのか、クラスにより違いがあるのかという問題もありますよね。2013年に報告されたビルダグリプチンによる血管浮腫ではアログリプチンに変更後、症状が消失したとされています。
Saisho Y, Itoh H. et.al. Dipeptidyl peptidase-4
inhibitors and angioedema: a class effect?
しかしながらシタグリプチンでも血管浮腫が報告されており、その症例ではロサルタンが併用されていました。
Gosmanov AR, Fontenot EC. Sitagliptin-associated angioedema.
症例は46歳アフリカ系アメリカ人女性でロサルタン100㎎/日を服用中。BMI35で合併症のない高血圧症を有していました。甲状腺炎の管理のためにプレドニゾン30mgが開始されましたが、3週間後、患者は多尿および多飲により緊急治療室に入室しています。高血糖を発現350 mg/dLを認めたため、食事、運動療法に加えて、シタグリプチン50㎎とメトホルミン500㎎の投与が開始されました。1週間後に脇腹に掻痒感、その後腹部や胸、太ももへ発疹が拡大。その後さらに感覚異常と上下両方の唇の浮腫に進行していき、シタグリプチン中止したところ、軽快したようです。
DPP4阻害薬の種類によってリスクに差がある可能性もありますが、現段階ではACE阻害薬との併用では血管浮腫リスクを念頭に置いておいたほうが良いかもしれません。血管浮腫は女性やアフリカ系アメリカ人に多いとされていますので、患者個別のリスクファクターも考慮に入れたいところです。
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