第1回薬剤師のジャーナルクラブを開催いたします!
ツイキャス配信日時:平成25年9月29日(日曜)午後9時15分頃を予定
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症例1.高齢者の血圧は下げるべきでしょうか?
[仮想症例シナリオ]
82歳男性のAさん。以前から高血圧を指摘されていましたが、あまり病院が好きでないAさんは特に治療も受けず過ごしていました。ただ血圧は少し気になるらしく、市役所にある備え付けの血圧計で血圧を測ると毎回170/90mmHgぐらいでした。Aさんは薬があまり好きではなく、そんなものは飲みたくないと考えていましたが、最近高血圧治療を受けていた知人が脳卒中で入院してから、徐々に心配になってきたようです。
ある日、たまたま歯科治療を受けたAさんがあなたの薬局に、歯科処方箋を持ってきました。血圧のことが気になっていたAさんはついでに血圧の件をあなたに相談してみることにしたようです。「血圧が170くらいなんだけど、何か血圧に良い健康食品はありますかね?それともやっぱり病院で治療を受けるべきですかね?」とAさんが聞いてきました。
[文献]
[さてどうしましょう・・・。]
まずは症例シナリオからこの患者さんの訴えを整理して疑問点を抽出しましょう。疑問点は臨床疑問と呼ばれ、以下のような4ステップで定式化することができます。
・どんな人に?(P:Patient)
・どんな治療や検査をすると?(E:Exposure)
・何と比較して?(C:Comparison)
・どうなる?(O:Outocome)
英語の頭文字からPECO(ペコ!)なんて言います。まずは症例から臨床疑問をPECOで定式化してみましょう。ペコっと定式化です。何種類か書き出してみるといいと思います。
(参考)EBMの入り口
[どのように論文を読んだらいい?]
この文献はランダム化比較試験です。ランダム化比較試験とは治療効果を検討するにあたり、最も妥当性の高いとされる研究方法です。研究で比較しようとするいくつかの治療について、どの人がどの治療を行うかをランダムに決めることによって、比較する治療以外の因子をそろえて、治療効果を検証することができることが特徴です。すなわち治療を受ける人の年齢や、病歴、家族歴などを要素を、偏りなく振り分けることで治療効果の公平な比較を行う研究方法と言えます。
では具体的に読み込むコツを少しご紹介します。基本的に治療の論文における批判的吟味は以下の3ステップを意識してください。
1・妥当か?
2・結果は何か?
3・それは役に立つか?
[1・妥当か?]
まず、妥当か?について確認していきます。論文の妥当性吟味における最低限確認すべきは以下の6項目7ポイントです。
①ランダム化されているか?
②論文のPECOは何か?
③一次アウトカムは明確か?
④真のアウトカムか?
⑤盲検化されているか?
⑥ランダム化は最終解析まで保持されたか?
・ITT(Intention-to-treat)解析されているか?
・結果を覆すほど脱落者がいるか?
僕のサブブログ「薬剤師の地域医療日誌」でもランダム化比較試験論文の「妥当か?」と言う項目にはできる限りこの6項目7ポイントの確認を記載するようにしています。確認すべき項目はAbstractのmethodsや論文本文のmethodsに記載頻度が高いです。詳細は抄読会にて解説が入ると思いますが、まずは大雑把にどんなポイントを確認すればよいか簡単にまとめておきます。
①ランダム化されているか?
ランダム化とは2つの群の背景因子を同等にするための方法です。患者背景に偏り(年齢、性別、家族歴、合併症 etc)があると一方の群の結果へ影響が出ますよね。例えばプラセボ群で喫煙率が高ければ、それだけでプラセボ群の癌発症リスクは高くなるわけです。
※記載を見つけるためのキーワード random randomize randomly
※論文タイトルにズバリ ⇒Randomized
controlled trial と書いてあることもあります。
②論文のPECOは何か?
PECOとは臨床上の疑問を定式化したものです。論文にもPECOがあるんです!
どんな人に?(P:Patient)
対象患者の患者背景は多くの論文でTable.1の表にまとまっていると覚えておくと便利!合わせて、2つの群で患者背景の偏りがないか見ておきましょう。(例えばプラセボ群で喫煙者が少なければ脳卒中は薬とは関係なしにプラセボ群で少ない可能性がありますよね!きちんとランダム化されていたか確認です。)
※記載を見つけるためのキーワードPatients Participants include eligible
どんな治療や検査を?(E:Exposure)何と比較して?(C:Comparison)
※記載を見つけるためのキーワードAssign receive intervention
どんな項目で効果を検討?(O:Outocome)
偶然の影響が少ないプライマリアウトカムを見ます。複数アウトカムと偶然性については③一次アウトカムは明確か?を参照してください。
※記載を見つけるためのキーワードmain outcome primary outcome primary endpoint
③一次アウトカムは明確か?
一次アウトカム(プライマリアウトカム)とはなんでしょうか?
・臨床研究において最も優先順位が高い治療効果判定の指標
・偶然の影響が最も少ない
・仮説を検証するための解析
・原則として一つの臨床研究で検証できる仮説は一次アウトカムのみである
少し難しいかもしれませんが、一次アウトカム(プライマリアウトカム)が1つ明確に示されておらず、複数のアウトカムについて結果を羅列している場合、1次アウトカムは不明確と考え、その結果は偶然の影響を常に受けており、有意差有かどうかを5%の確率で判断することは難しいと考えて良いと思います。論文に明確にプライマリアウトカムと記載されている場合もありますが、記載のない場合はサンプルサイズが計算されたアウトカムをプライマリアウトカムと考えて差し支えありません。
(補足)一次アウトカム(プライマリアウトカム)が複数設定されている臨床試験はその結果の解釈に注意が必要である。有意差検定は20回に1回の割合でエラーを生じる(αエラー)したがって1次アウトカムが複数設定された臨床試験は本来ナンセンスである。
ちなみに二次アウトカム(セカンダリアウトカム)の特徴は…
・偶然の影響が大きくなる
・仮説としては採用できるが、検証された仮説とは言えない
・仮説生成のための解析
(補足)死亡等の重大なアウトカムが二次アウトカムに設定されていることもあるが、このような重大なアウトカムは軽視すべきではない。
④真のアウトカムか?
臨床試験のアウトカムには2種類あります
■高コレステロール患者を対象とした試験
・代用のアウトカム・・・コレステロール値
・真のアウトカム・・・死亡率
代用のアウトカムの効果が必ずしも真のアウトカムと一致するとは限りません
■コレステロール低下≠死亡率低下
とても重要なポイントです。多くの論文を読まなくてはいけない場合、代用のアウトカムの論文はまず読む必要はないと考えていいと思います。
⑤盲検化されているか?
研究結果を左右しかねない効果の入り込む余地を少なくすることが目的です。治療を受けているという意識が予後を改善した可能性が常に存在します。そんなプラセボ効果や逆ホーソン効果の影響を可能な限り少なくするための手法です。通常は介入を受ける患者と、介入を行う医療者へ盲検を行う2重盲検法が用いられます。
・治療を受けているという意識が症状を改善することがある(プラセボ効果)
・臨床試験に参加しているから、きっと症状はよくなるだろう(逆ホーソン効果)
※記載を見つけるためのキーワードblind/blinding(2重盲検:double-blind)
※盲検化されていない⇒open label masking/mask
⑥ランダム化は最終解析まで保持されたか?
せっかくランダム化して、患者背景をそろえたとしても、それが最終解析まで保持されなくてはいけません。そのために確認すべきは以下の2点です。
ITT(Intention-to-treat)解析されているか?
治療意図に基づく解析といわれ、ランダム化を保持する目的でITT解析を行います。一度特定の群に割り付けたら、実際の治療が行われなくても、あるいは他方の群の治療を受けたとしても、最初に割り付けた群のままで統計解析を行う解析方法です。すなわち 脱落者(または非計画的クロスオーバー)も含めて解析するという事です。
※論文中Statistical
analysisにズバリ「Intention-to-treat」と記載があるとこが多い
結果を覆すほど脱落者がいるか?
追跡率の計算。試験からの脱落が多いと結果に影響します。割り付け症例のうち、結果が判明している症例数の割合を追跡率といいます。
※多くの論文でFigureにトライアルプロフィールという患者組み入れから解析までの流れを図示した表があります。また論文本文の「results」冒頭に記載されていることが多いです。
[2・結果は何か]
結果の見方、解釈の仕方について簡単にまとめます。今回は血圧変動のような連続値ではなく、発症率等のアウトカムの結果についてのみまとめておきます。
1.結果の評価
結果の評価は主に相対指標、絶対指標の2つの指標があります。
①相対指標 : 相対危険(Relative Risk:RR)
□アウトカムの発生率の比
例えば…
■介入群での心筋梗塞の発症 20%
■プラセボ群での心筋梗塞発症 30%
■相対危険RRは?
□RR=(E群の発生率)/(C群の発生率)=0.2/0.3=0.67
□RRR(相対危険減少)=1-RR=0.33
□介入群はプラセボ群に比べて心筋梗塞が相対評価で33%低い
②絶対指標 : 治療必要数(Number Needed to Treat:NNT)
□一人の望ましくないアウトカムを防ぐのに介入が必要となる人数
例えば…
■介入群での心筋梗塞の発症 20%
■プラセボ群での心筋梗塞発症 30%
■治療必要数NNTは?
□プラセボ群の発症率30%-介入群の発症率20%
=10%(絶対危険減少=ARR)
□心筋梗塞が10%減るという事は・・・・
□100人治療すれば10人心筋梗塞が減る
□1人の心筋梗塞を減らすには、何人治療が必要か?
□100:10=[NNT]:1 NNT=100/10=10人
⇒NNT=1/(0.3-0.2)=10 [絶対危険減少の逆数]
2.結果の効果判定
結果の効果の判定には主に推定と検定の2つの統計的手法を用います。
①推定(区間推定)
95%信頼区間。母集団における真の値が95%の確率で存在する範囲を示しています。
研究結果は一部の対象からのデータです。
・研究参加者はより健康志向かも
・研究参加者はより医師の指示通り服薬している可能性が高い
・研究参加者の特性と一般人口の特性は必ずしも一致しない
すなわち一部のデータから全体を類推し、世の中の全体で検討したらどれくらいの範囲にあるかを考えています。95%の確率で真の値が含まれる範囲を95%信頼区間といい、5%は有意水準0.05に対応しています。以下の例を参照して論文中の95%信頼区間の意味を考えてみましょう。
■高血圧患者に対する脳卒中リスクというアウトカムを例に・・・
□脳卒中リスクの相対危険が0.90だとすると・・・
■信頼区間が1をまたぐと結果に有意差なし
【相対危険0.90;95%信頼区間0.80~1.10】
□脳卒中リスクは10%少ない傾向にある
□多く見積もると10%増えるかも
■信頼区間が1より少ないとリスク減少
【相対危険0.90;95%信頼区間0.70~0.95】
□脳卒中リスクは10%少ない
□多く見積もっても5%減る
②検定(危険率P値)
・危険率(P)が有意水準より小さければ統計学的にも有意な差
・通常有意水準を0.05に設定する
その結果は偶然でないといえるのでしょうか?危険率とはまぐれあたりの確率のことです。危険率は経験的に0.05(5%)を用いることが多いです。
またプラセボでもまぐれで優れた薬剤よりも効果が出ることがあります。ここでもう一度1次アウトカムは明確か?を考えてみましょう。
■一次アウトカム(プライマリアウトカム)
□臨床研究において最も優先順位が高く偶然の影響が少ない
治療効果判定のための指標で一つの臨床研究で検証できる
□一次アウトカムが複数あると、偶然の影響を受けやすくなる。
■5つのアウトカムがあれば・・・
□5つの仮説のうち1つにまぐれあたりが出る確率は
1-(5つともまぐれあたりしない確率)
1-(0.95)5=0.23 ・・・23%
□有意水準は0.23となる
このようにアウトカムの数が多いほど有意水準は緩くなり偶然の確率が上昇してしまい、理論上はP=0.05で有意差ありとはできなくなります。
さて有意水準0.05の直観的理解です。
■1回コインを投げて、表が出る確率は50%=0.5
■2回コインを投げて2回とも表が出る確率は50%×50%=0.25
■3回コインを投げて3回とも表が出る確率は50%×50%×50%=0.125
■5回コインを投げて5回とも表が出る確率は50%×50%×50%×50%×50%=0.03125
■コインを投げて5連続で表が続く確率0.03が P<0.05(有意差あり)=偶然ではない
論文のプライマリアウトカムの結果を絶対指標(相対リスク・ハザード比)絶対指標(NNT)にたいして、推定統計・検定統計を用いて解釈していくというのが基本的なスタイルです。実際には危険率よりも推定検定の95%信頼区間を重視する立場がより臨床にフィットするといえますが、それは次の結果は役に立たつか?というステップで、実際のジャーナルクラブの中で考えていましょう。
[3・結果は役に立つか?]
この患者さんにどのように答えてあげるべきなのでしょうか?続きはジャーナルクラブで。
※薬剤師のジャーナルクラブでは取り上げてほしい論文、一人で解決できない臨床疑問を随時募集しております。合わせてご意見などもいただければ幸いです。ご意見等はフェイスブックページやツイッターアカウント@syuichiaoまでご連絡ください。
※薬剤師のジャーナルクラブ(Japanese Journal Club for Clinical Pharmacists:JJCLIP)は臨床医学論文と薬剤師の日常業務をつなぐための架け橋として、当ブログ管理人の@syuichiao、日本病院薬剤師会精神科薬物療法専門薬剤師の@89089314先生、臨床における薬局と薬剤師の在り方を模索する薬局薬剤師 @pharmasahiro先生を中心としたEBMワークショップをSNS上でシュミレートした情報共有コミュニティーです。
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