[DPP4阻害薬と重要文献]
DPP4阻害薬の臨床試験 SAVOR-TIMI53(サキサグリプチン)とEXAMINE試験(アログリプチン)の2つの結果が、今月2日付のNew
Engl J Med online fiestに掲載されています。DPP4阻害薬の心血管イベントに対する効果を検討した現時点で非常に重要な報告となっています。論文を見ていく前に、今までに報告されたDPP4阻害薬に関する重要論文のおさらいです。
現段階では小規模トライアルのメタ分析で心血管イベント減少が示唆されたDPP4阻害薬、その新規作用機序の魅力やメーカーのプロモーションの効果もあり、本邦の経口糖尿病薬の主流になりつつあります。
■重要論文:DPP4阻害薬と心血管疾患の関連を検討したメタ分析
▶Dipeptidyl peptidase-4 inhibitors
and Cardiovascular risk : a meta-analysis of randomized clinical trials Diabetes Obes Metab.2013
Feb;15(2):112-20PMID:22925682
▶Meta-Analysis
of Effect of Dipeptidyl Peptidase-4 Inhibitors on Cardiovascular Risk in Type 2
Diabetes Mellitus Am J Cardiol. 2012 Jun 14[Epub
ahead of print]PMID:22703861
一方で販売当初より示唆されていた膵炎リスクの関連はのちにケースコントロール研究で検討されました。
■重要論文:DPP4阻害薬(およびGLP-1作動薬)と急性膵炎リスクの関連
▶Glucagonlike Peptide 1-Based
Terapies and Risk of Hospitalization for Acute Pancreatitis in Typ 2 Diabetes
Mellitus. JAMA
inten Med.2013;()6 doi:10.1001
実際に既存のメトホルミンと比べて優れた薬剤なのか、興味深い報告があったばかりです。後ろ向きコホート研究ですが、メトホルミン比較で有効性に明確な差はないという結果でした。(ただし、DPP4阻害薬を使用していた患者はメトホルミンの容認性が悪かった患者であり、第2選択としてのDPP4阻害薬はあながち悪い選択ではない可能性もあります。
■重要論文:DPP4阻害薬とメトホルミンを比較した観察研究
▶All-cause mortality and cardiovascular effects
associated with DPPⅣ-inhibitor
sitagliptin compared with metformin a retrospective cohort study on the Danish
population
では各試験の論文を見ていきます。誤り等ございましたらご指摘いただければ幸いです。
[Patient]
心血管イベントの既往もしくはリスクを有する2型糖尿病患者16492人(平均年齢:65歳、女性32.7~33.4%、平均BMI31.1~31.2、高血圧81.2%~82.4%、心筋梗塞既往37.6%~38%、脂質異常症71.2% 冠け血行再建術43.1%、平均糖尿病期間10.3年)
[Exposure] サキサグリプチン5mg/日(腎機能に応じて2.5mg/日)
[Comparison]プラセボ
[Outcome]心血管死亡、狭心症、脳卒中の複合心血管アウトカム
■ランダム化されているか?他施設ランダム化比較試験
■盲検化されているか?:されている。2重盲検
■サンプルサイズは十分か?:サンプルサイズは1040イベントで満たしている
■intention-to-treat解析されているか?:されている
■追跡期間:中央値2.1年
■追跡率:28人のロストで99.8%
結果は以下の通り
アウトカム
|
E群
サキサグリプチン
8280人
|
C群
プラセボ
8212人
|
結果
ハザード比
[95%信頼区間]
|
複合心血管イベント
|
613人
(7.3%)
|
609人
(7.2%)
|
1.00
[0.89~1.12]
|
重症低血糖(※)
|
117人
(2.1%)
|
140人
(1.7%)
|
P=0.047
|
(※)プライマリアウトカムではないが重要なアウトカム
少し気になるところですが、心血管死亡、脳卒中、心筋梗塞リスクを増加させないという結論を引き出しています。DPP4阻害薬で心血管リスク増加するかどうかという仮説に対する検証で、やや頭が混乱しますが、少し整理すると、この結果は心血管イベントに対する効果はプラセボと比べて変わらず、安全に血糖を改善することが証明されたとする意味不明な臨床試験です。プラセボに対する非劣勢を検証したというバカげた試験という感じです。真のアウトカムに対するハザード比をそのまま解釈すれば有効性は期待できず、このような薬を積極的に使用するメリットは明確に不明となりました。また重症低血糖は有意に増加している点も注目です。重症低血糖は侮れません。
■重要論文:低血糖と心血管リスクの検討
▶Severe hypoglycemia and cardiovascular disease: systematic review
and meta-analysis with bias analysis BMJ
2013;347:f4533 PMID:23900314
■重要論文:低血糖と死亡リスクの検討
▶Association of Clinical Symptomatic Hypoglycemia With Cardiovascular Events and Total Mortality in Type 2Diabetes: A nationwide
population-based study. Diabetes Care.
2013 Apr;36(4):894-900 PMID:23223349
さらにこの論文のSupplementary Appendixを確認すると心不全による入院も有意に増加しているようです。総死亡も増加傾向にあり、なかなか衝撃的な結果かもしれません。
さらにこの論文のSupplementary Appendixを確認すると心不全による入院も有意に増加しているようです。総死亡も増加傾向にあり、なかなか衝撃的な結果かもしれません。
[Patient]
ランダム化前の15日から90日以内に急性心筋梗塞又は入院の必要な不安定狭心症を発症した患者で既にメトホルミンやSU薬、インスリン等の標準治療を受けている患者2型糖尿病患者5380人(平均年齢:61歳、男性67.7~68%、平均BMI28.7%、高血圧82.5%~83.6%、心筋梗塞発症歴87.5%~88.4%、糖尿病罹病期間:平均7.1から7.3年
[Exposure] アログリプチン(腎機能に応じて6.25mg/日~25mg/日)
[Comparison]プラセボ
[Outcome]心血管死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合アウトカム
■ランダム化されているか?他施設ランダム化比較試験
■患者背景は同等か?:同等
■盲検化されているか?:されている。2重盲検
■サンプルサイズは十分か?:サンプルサイズは5400例
■intention-to-treat解析されているか?:
■追跡期間:中央値18か月
■追跡率:全例解析
結果は以下の通り
アウトカム
|
E群
アログリプチン
2701人
|
C群
プラセボ
2679人
|
結果
ハザード比
[95%信頼区間]
|
複合心血管イベント
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305人
(11.3%)
|
316人
(11.8%)
|
0.96
[≦1.16]P=0.32
|
こちらも事前設定の非劣性マージンであるハザード比1.3を下回ったとして、既存の治療に対する心血管安全性の非劣性が証明されたと結論しています。心血管イベントを上昇させることが前提となっていることに注意が必要です。どうもこの2つの試験はDPP-4阻害薬が心血管リスク増やさないかどうかが論点になっているようですが、この論点にはあまり意味が有りません。そもそもそんなイベントを増加させるような薬剤は薬ではありません。これは新手の種まき試験でしょうか。真のアウトカム、代用のアウトカムをいう概念をしっかり持っていないと、その解釈は困難になります。
[DPP4阻害薬と心血管リスク]
結局のところ、DPP4阻害薬が心血管イベントを減らすかどうかは分かりません。積極的に第一選択薬として使用する根拠は明確に不明ということになりました。急性膵炎に関するリスクも軽視できません。メーカープロモーションがどのように動くかわかりませんが、心血管イベントがプラセボと同等ということを証明して何がしたかったのか良くわからない試験となっています。
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