[DPP4阻害薬と急性膵炎]
本邦発売当時より海外でも報告があったことから、DPP4阻害薬の有害事象として僕が注目してきたのが急性膵炎リスクでした。しかしながら最近の報告ではDPP4阻害薬と急性膵炎との関連は低いという印象です。
(個人レビュー:2014年3月)DPP4阻害薬と急性膵炎に関する考察
▶DPP4阻害薬が原因と思われる症例報告が多数存在する
▶DPP4阻害薬と急性膵炎との関連が示唆される症例対象研究が報告されている
▶ランダム化比較試験のメタ分析では関連性は示唆されなかった
この時点では因果関係が示されているわけではありませんが、関連がないことも示されておらず、現時点では関連性・因果関係は不明でした。しかしながらDPP4阻害薬群は承認され間もない薬剤であり、今後の症例報告や疫学的研究の報告に注視するとともに、DPP4阻害薬服用中の患者では上腹部痛や嘔気などの臨床症状に十分留意し、薬剤による急性膵炎を長期的に警戒すべきと結論しました。そしてその後、観察研究での報告が相次ぎました。
Glucagon-like peptide 1-based therapies and risk of
pancreatitis: a self-controlled case series analysis.Pharmacoepidemiol Drug
Saf. 2014 Mar;23(3):234-9.PMID: 24741695
セルフコントロールドケースシリーズという個人的にはリスクの分析において非常に重要視している研究デザインの報告です。急性膵炎発症はシタグリプチンで245例、エキセナチドで96例、いずれにおいても95%信頼区間が1をまたぎ、明確な差はないという結果でした。
Incretin treatment and risk of pancreatitis in
patients with type 2 diabetes mellitus: systematic review and meta-analysis of
randomised and non-randomised studies BMJ. 2014 Apr 15;348:g2366.
PMID: 24736555
こちらは観察研究を含むメタ分析。この報告でも膵炎発症に明確な差は出ませんでしたが、より入念にデザインされた観察研究で検討されるべきという印象は残ります。
Incretin based drugs and risk of acute pancreatitis
in patients with type 2 diabetes: cohort study BMJ. 2014 Apr
24;348:g2780PMID: 24764569
この文献は膵炎リスクをSU剤との比較検討したコホート研究です。急性膵炎発症に差は見られませんでした。
これらの臨床報告を踏まえると、インクレチン関連薬に限らず、糖尿病治療全般において急性膵炎リスクを念頭に置くべきなのではないかと考えています。とりわけDPP4阻害薬のリスクが高いということではなく、膵炎リスクはすべての糖尿病患者とその薬物治療において念頭に入れるべきではなかろうかと、最近ではそのように思います。
[DPP4阻害薬と心不全リスク]
DPP4阻害薬と心不全に関しては2013年に報告されたサキサグリプチンのSAVOR-TIMI53試験でその関連性が示唆されました。
Saxagliptin and Cardiovascular Outcomes in Patients
with Type 2 Diabetes Mellitus
N Engl J Med.2013 Sep 2. [Epub ahead of print]
PMID:23992601
この報告では心不全による入院が有意に上昇するかもしれないという新たな有害事象の可能性が示唆され衝撃的でした。入院のアウトカムでの評価でしたので軽症例が見逃されている可能性や、プライマリアウトカムではないのであくまで仮説生成という事を踏まえ、その後の臨床報告に注目していました。DPP4阻害薬と心不全リスクを検討したメタ分析は今年に入り既に報告されています。
Dipeptidyl peptidase-4 inhibitors and cardiovascular
outcomes: Meta-analysis of randomized clinical trials with 55,141 participants. Cardiovasc
Ther. 2014 Apr 21PMID: 24750644
RCTのメタ分析[統合した研究数50]で総死亡や心血管死亡、脳卒中などのアウトカムを改善することなく心不全が有意に上昇すると言う結果でSAVOR-TIMI53試験での結果を概ね支持するものとなりました。
(PECO論文の)
[Patient]
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100人以上で24週以上フォローアップしたDPP4阻害薬の前向き試験に参加した患者55,141人(平均フォローアップ45.3週)
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[Exposure]
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DPP4阻害薬の投与
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[Comparison]
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プラセボまたは実薬の投与
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[Outcome]
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総死亡、心血管死亡、急性冠症候群、脳卒中、心不全
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(結果)
アウトカム
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症例数
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リスク比[95%信頼区間]
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総死亡
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50,982人
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1.01[0.91~1.13]
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心血管死亡
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48,151人
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0.97[0.85~1.11]
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急性冠症候群
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53,034人
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0.97[0.87~1.08]
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脳卒中
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42,737人
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0.98[0.81~1.18]
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心不全
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39,953人
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1.16[1.01~1.33]
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さらにランダム化比較試験のメタ分析が報告されていました。
Dipeptidyl peptidase-4
inhibitors and heart failure: A meta-analysis of randomized clinical trials. Nutr Metab Cardiovasc Dis. 2014
Jul;24(7):689-97. PMID: 24793580
(背景)
SAVOR TIMI-53試験ではプラセボに比べてサキサグリプチンを投与された患者において心不全入院リスク増加が示唆された。このメタ分析はDPP4阻害薬のランダム化比較試験からDPP4阻害薬と急性心不全との関連を検討したものである。
(研究デザイン)
[Patient]
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24週以上DPP4阻害薬を使用した2型糖尿病患者
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[Exposure]
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DPP4阻害薬(ビルダグリプチン、サキサグリプチン、シタグリプチン、アログリプチン、リナグリプチン、dutogliptin)の投与
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[Comparison]
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プラセボまたは実薬(DPP4阻害薬以外)の投与
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[Outcome]
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急性心不全の発症
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研究デザイン
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メタ分析[統合研究数84]
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元論文バイアス
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ランダム化比較試験のメタ分析
The quality of trials was assessed using some of the parameters
proposed by Jadad et al
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評価者バイアス
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data
extraction were performed independently by two of the authors (ID, MM), and
conflicts resolved by the third investigator (EM).
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異質性バイアス
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・heterogeneity
across trials was tested by using a I2 test
・No
heterogeneity was detected (I2 0.0, p = 0.89; Begg's tau −0.14,
p = 0.22)
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出版バイアス
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also
searched for retrieval of unpublished trials.
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利益相反
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received
speaking fees from Bristol Myers Squibb, Merck, and Takeda, and research
grants from Astra Zeneca.
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(結果)
アウトカム
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オッズ比[95%信頼区間]
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I2統計量
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急性心不全
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1.19[ 1.03~1.37 ]
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0.0%
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DPP4阻害薬による治療は、心不全のための入院の発生率の増加と関連付けられることを示唆しているとしています。イベントの多くはSAVOR-TIMI53試験及びEXAMINE試験で報告されておりこの2つを統合解析したサブグループ解析ではオッズ比が1.24[1.07~1.45]と有意な関連を示唆しました。薬剤別サブ解析では、やはりサキサグリプチンに有意な関連がみられますが、これはイベント発生症例数の問題で、他のDPP4阻害薬でも同様のリスクが懸念されます。
著者に利益相反がありますので評価者にバイアスがかかっている可能性もあり、リスクの過小評価がなされてる懸念もあります。
現時点で、DPP4阻害薬と因果関係は不明ですが関連性は示唆されており、低血糖のリスクが少ないなどの理由から安易に使用すべき薬剤ではありません。特に心不全リスクの高いピオグリタゾンとDPP4阻害薬の併用(アログリプチン/ピオグリタゾン合剤が既に薬価収載されている…)や、心不全患者においては十分警戒すべきと考えます。
[急性膵炎・心不全リスクのまとめ]
①急性膵炎
重篤なものを含めDPP4阻害薬との関連性が疑われる報告は多いものの、因果関係は決定的なものではない。しかしながら、糖尿病治療全般において念頭に置くべき有害事象と思われる。
②心不全
サキサグリプチンを含むDPP4阻害薬と心不全発症リスクとの関連性が示唆されている。軽症例を含めるとそのリスクとの関連性が強いことも考えられ、現時点で心不全あるいはその既往のある患者、あるいはピオグリタゾンとDPP4阻害薬の併用(2014年7月現在添付文書上規制なし)には浮腫等の副作用に十分警戒すべきと思われる。
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