ポリファーマシーに関して以前にまとめています。
コクランレビューがアップデートされています。
Interventions to improve the appropriate use of polypharmacy for older
people.
[Patient]
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65歳以上の高齢者
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[Exposure]
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評価ツールとしてMedication
Appropriateness Index :MAIスコア(8研究)、 Beers criteria(1研究)、STOPP criteria(2研究)、 START criteria(1研究)を用いたポリファーマシー是正に関する介入やコンピューターによる意思決定支援
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[Comparison]
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介入なし
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[Outcome]
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薬剤使用量
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研究デザイン
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メタ分析[統合研究数:12]
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元論文バイアス
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The GRADE (Grades of Recommendation, Assessment, Development and
Evaluation) approach was used to assess the overall quality of evidence for
each pooled outcome
エビデンスレベルはvery low ~low
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評価者バイアス
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Two review authors independently reviewed abstracts
of eligible studies
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異質性バイアス
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抄録に記載なし
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出版バイアス
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抄録に記載なし
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主な結果は以下の通りです。
・不適切な薬物使用量の減少をもたらした
・ベースラインと比較して、MAIスコアの減少(4研究) 平均差
-6.78, [-12.34 ~ -1.22]
・入院対する影響や薬剤関連問題に関する影響はエビデンスの一致を見ない
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不適切処方を減らすことは示されたようですが、臨床的なアウトカムについては不明な部分が多いと結論しています。確かに、ポリファーマシーの有害性は多数の研究報告がありますが、実際の介入によりどの程度臨床ベネフィットあるのか、よく分かっていません。個人的にも模索していたテーマだけに以下の論文にはやや肝を冷やしています。
Intervention
with the screening tool of older persons potentially inappropriate prescriptions/screening
tool to alert doctors to right treatment criteria in elderly residents of a
chronic geriatric facility: a randomized clinical trial.
この報告はSTOPP/STARTクライテリアによるスクリーニングを主治医に提案することの臨床アウトカムを検討したランダム化比較試験です。
STOPP
criteriaについては以下のブログに詳細がまとめられております。
栃木県の総合内科医のブログ:メモ:STOPP criteria
以下論文の概要をご紹介いたします。
[要約]
慢性の期介護施設居住の少なくとも1剤以上の薬物治療を受けている65歳以上の359人を通常の薬物療法と薬学的介入群にランダム割り付けた。薬学的介入群ではSTOPP/STARTクライテリアに従い、薬剤師が、潜在的に不適切な薬剤使用や投与の必要性があるにも関わらず、使用されていない薬剤のスクリーニングを行い主治医に提言した。
評価項目は介入開始から1年後までにおける、入院回数及び転倒回数であった。さらに機能的自立度評価表に基づく機能評価Functional IndependenceMeasure (FIM:18の項目について日常生活活動(ADL)を1~7点で評価し、合計18点から126点で評価する自立度評価スコア。点数が高いほど依存度が高い。)健康関連QOL(SF-12:12-item Short-Form Health Survey12項目の質問からなる健康関連QOL評価のための包括的尺度。精神的側面サマリーMental component
summary(MCS)と身体的側面サマリーPhysical
component summary(PCS)を評価。0~100点で評価。点数が高いほどQOL良好。一般集団の平均スコア50点、標準偏差10点)、薬剤コストであった。
1年後の平均薬剤数は介入群で有意に少なかった(P<0.01)平均薬剤コストは介入群で1か月あたりUS$29、有意に低かった(P<0.001)平均転倒回数は研究開始前と比べて1年間で有意に減った。(P=0.006)FIMスコア、健康関連QOLは両群に差が見られなかった。
STOPP/START介護施設におけるクライテリアに基づく薬学的介入の実施は薬剤数の減少や骨折、薬剤コストを低下させる。
[背景]
STOPPクライテリアは潜在的に不適切な薬剤をスクリーニングするための基準であり、STARTクライテリアは、本来使用すべき薬剤が使用されていないことをスクリーニングするための基準です。プライマリケアにおける高齢者の薬物療法ではSTOPPクライテリアに該当する少なくとも1つ以上の不適切薬剤の使用は21.4%~39%までに上ると報告されており、入院している高齢者やナーシングケアホームに長期滞在している高齢者では70%まで上昇するとの報告もあります。一方、STARTクライテリア該当薬剤はプライマリケアのセッティングで22.7%、入院高齢者では41.9%~66%までに上るとも言われています。この研究ではSTOPP/STARTクライテリアに該当する薬剤を主治医に提言することで、その臨床アウトカムを検討した貴重な報告です。ランダム化前に薬剤師により患者データが取集されました。前年における入院頻度や骨折、最近受けた治療や既往歴などが精査されています。
[研究の盲検化への配慮]
STOPP/START各クライテリア該当薬剤は薬剤師から主治医に提言され、主治医がこの提言に基づき薬剤の使用可否を判断した。この研究では介入に関わる薬剤師と主治医には盲検化がされていなかったが、他の医師や介護職員には盲検化がなされました。
[研究のサンプルサイズに関して]
サンプルサイズは既存の研究報告をもとに、骨折割合として50%、入院割合として30%を想定し、薬学的介入群でそれぞれ30%、12%のリスク低下のもとに計算されたサンプルサイズは、各群134人。90%のパワーとαエラー5%までを許容した。15%の脱落を加味してサンプルサイズは最終的に各群191人とした。
[患者背景]
359人の患者(平均82.7歳、服用薬剤の剤数:13剤以上13.3%、9~12剤32.9%、5~8剤44.1%、5剤未満9.8%)のうち183人を介入群に、175人を対照群に割り付けました。最終的に解析に組み入れられたのは306人(85.5%)でした。
両群の患者背景において年齢、性別、チャールソン併存疾患指数、前年の転倒や入院、慢性疾患の有病率や医薬品の使用割合、平均使用薬剤数、月当たりの平均薬剤コストは同等でした。
[結果]
アウトカム
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介入群(SD)
上段:研究開始前
下段;研究開始後
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対照群(SD)
上段:研究開始前
下段;研究開始後
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P値
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使用薬剤の剤数
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8.8 (3.4)
7.3 (2.7)
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8.2 (3)
8.9 (3.2)
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<0.01
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コスト
(Israeli shekels)
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382.7 (279.3)
279 (171.9)
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381.2 (281.2)
402.3 (291.2)
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<.001
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転倒 (回)
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1.3(2.4)
0.8(1.3)
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1.4(2.5)
1.3(2.4)
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0.28
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入院 (回)
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0.6(1.0)
0.5(1.0)
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0.4(0.8)
0.5(0.9)
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0.10
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FIM
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58.4 (35.8)
54.3 (35.1)
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58.9 (36.7)
55.4 (36.8)
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0.14
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SF-12(PCS)
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32(7.3)
33.1(8.1)
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33.4(8.1)
33(8.3)
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0.09
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SF-12(MCS)
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38.4(8.9)
37.7(11.7)
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39.8(9.8)
39.6(11.3)
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0.70
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SD:Standard Deviation 標準偏差
研究開始前年と比較して研究開始後1年後の変化に両群で差が出たのは剤数とコストのみでした。QOLも自立度評価も転倒も入院も明確な差は出ませんでした。サンプルがやや少ないようですが、ポリファーマシーの是正に関して、その臨床アウトカムをどうとらえていけばよいのか、薬剤師はいったい何をする職種なのか、再考するのに十分すぎる結果です。
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