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2014年12月19日金曜日

他者との対話からあらためて考える、薬剤師のEBM

大切なことはいつも答えが出ない、僕はそう思います。端的な思考に陥らないよう心がけるということを常々意識してはいますが、ヒトは秩序を好みますよね。曖昧な思考よりもクリアな思考、そしてその結果「なになに」だというロジックで安心を手に入れる。曖昧なままと言うのは精神状態としては不安定な状態なんだと思います。二元論が如何におろかであるか、ソシュール言語学やEBMの実践の中で学んできましたが、突き詰めれば二元論かそうでないのかという二元論に陥るわけです。

多面的な視点という仕方で、二元論を回避するというのはひとつの選択肢だと思います。少なくとも一つの視点からではなく複数の視点から物事を見つめ直す。ただそういったことはなかなか一人で考えていても多面的な思索は思い通りにいかないこともしばしばですよね。そうなんです。論文を読んでどう活用すればよいかというのも同じでやはり複数の人たちと一つの論文を読むということは複数の視点を得ることに他なりません。大事なのは他者との対話の中で生まれ行く、新たな概念なのでしょう。

前置きが長くなりました。日経DIオンラインのコラム「薬剤師的にどうでしょう」やブログ「薬局のオモテとウラ」で有名な、長野県で薬局を開局されている、熊谷信 先生との対談企画のお話をいただきました。熊谷先生が執筆されている薬局新聞のコラム「ソーシャルPメンター&ニュース」上での対談企画です。
実は同じく日経DIオンラインコラム「薬局にソクラテスがやってきた」やブログ「薬歴公開 byひのくにノ薬局薬剤師」で有名な、熊本の山本雄一郎先生から、今回強力なプッシュがあったとのことで、恐縮の極みと申しますか、お話をいただいたときにはこんな僕でよろしいのでしょうか、と言う感じでした。山本雄一郎先生には毎回お世話になっておりまして、本当に感謝です。この場をお借りして御礼申し上げます。

ちなみに熊谷先生と、山本先生の対談記事はこちら

お二人に共通するのはやはり卓越した言語化能力にあるのではないかと僕は考えています。言語学で有名なソシュールは、コトバによって世界が編み上げられる、そんなふうに言葉を捉えました。言語化するというのは未だかつて存在しない新しい概念を生み出す力の原動力なんです。ブログに言葉をつづると言いうのは思考を具体化することに他なりません。
まずは僕が今まで取り組んできた活動を振り返るというところからスタートしました。
EBMとの出会い関して、これまでもいろいろなところに書いてきたのでご存じの方も多いかと思いますが、スピリーバ®レスピマットという薬剤の論文がきっかけでEBMと出会ったこと、その後さまざまな衝撃的な結果を報告する論文を読んで…

「これはもう論文をいろいろ読むしかないと思うわけです。それで、この問題(結果をどう取り扱うか)が解決するかは謎でしたけど、もう読まないといけない衝動にかられていた。読んでいるうちに今まで当たり前だと思っていた薬物治療が根底からひっくりかえるようなことの連続で、読むのが止まらなくなってしまったんですよね。」

論文を読むのが止まらなくなってしまい、そして継続して論文を読む中で

「(論文要約をノートにまとめるなかで)僕は字が汚くて、忙しい時に書くともうぐちゃぐちゃで…そこでブログにして毎日アップすることにしたんです。(薬剤師の地域医療日誌)」

これが僕自身の「思考の言語化」のスタートだったわけです。

さて、臨床医学論文の多くは英語で書かれていますが、英語の壁を乗り越えるというのがこの会のテーマでした。

僕は英語が高校時代から苦手で、当然大学時代もまともに英語を勉強してきませんでしたので、社会人になっても英語なんて読めるわけがありません。でも、それよりも何よりも、今まで学んできた「常識」が覆されていく、そういったことを妥当性の高いエビデンスは伝えてくれていて、それを読まずにはいられない、そして、それを多くの人と共有しそれについて議論したい、と言う思いが、英語論文と向き合い続けるということを駆動させました。
例えば地球は温暖化していると誰もが信じていたとして、でも観測データはこの10年全く温暖化を示していなかったとしたら、その事実を放置できる人の方が珍しいのではないでしょうか。
そこで、僕は中学英語から勉強し直しました。それでもいまだ英語を読むのはあまり得意ではありません。現在ではグーグル翻訳などのインターネットツールを併用しながら論文を読むことが多いですね。あとは論文を読みこなすスキルと言うか、そういったものでカバーすることで何とか、おおよその内容を読んでいけるようになりました。

薬剤師のEBMの具体的な話題を、というテーマでした。これは最初から話すともう語りつくせないぐらいのことなので、大まかに薬剤師のEBMと言うのはどういったことなのか、少し考え直してみました。

日常業務で遭遇する添付文書の併用注意、これは臨床判断、例えば疑義照会をするかどうかと言うような判断ですが、相当迷うんです。注意ってなんだよって。禁忌ならもうだめでしょ、って割り切れるんですけど、注意ってどうしろってことなんでしょうかね。
重大な副作用もいろいろ書いてあるんですけど、じゃどうすればいいのさ、と言う感じがしませんか?具体的で、リアルな頻度、どんな患者でどれだけ起こりやすいか、そうリスクファクターの詳細な記載がないからなんです。
薬物相互作用、重篤な有害事象の頻度とリスクファクター、これらの情報を臨床医学論文から得ることもできます。当然すべての薬剤に関する事象の情報を得ることは難しいですが、症例報告も含めて多面的に評価できることは間違えありません。

最終回は薬剤師のEBM今後の展望というテーマでした。

EBMは医療にかかわるその方法論として大変有用なものです。なぜなら答えの無い臨床疑問にどう向き合えばよいのかその一つの方法と示唆を明示してくれるからなんです。そしてこのEBM医療にかかわると言うだけでなく、薬剤師が薬の勉強をするその方法論としても大変有用なんです。このあたりはこのブログでも記事にしましたのでご参照いただければと思います。


4回にわたり、脈絡のないお話を、分かりやすくまとめてくださり、そして記事にしていただきました。貴重な機会を誠にありがとうございました。この記事をきっかけに、論文を読んでみよう、そう思ってくださる方がいらっしゃったらこれほどうれしいことはありません。

2 件のコメント:

  1. この度はありがとうございました。最も印象的だったのが、先生が「英語が苦手だった」ということです。それでも論文を読んでいく姿勢に感銘を受け、大きな勇気をいただきました。個人的にも、青島先生の意外な(?)一面を知ることができ、貴重な機会となりました。先生の取り組みを、一人でも多くに人に知っていただけるお手伝いができたのであれば幸いです。
    引き続きよろしくお願いいたします。

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    1. 熊谷先生、コメントありがとうございます!このたびは貴重な機会を誠にありがとうございました。先生との対話の中で、薬剤師がEBMを実践するということ、その壁や今後の展望について、うまく言葉にできないでいたことが、整理されました。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
      青島周一

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