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2014年4月6日日曜日

患者にdoing nothing” is often betterと言えるのかという問題

Twitterでつぶやいていたことの整理です。

たとえば風邪に対する市販薬。そのエビデンスを調べて見れば確かに“doing nothing is often betterということが多いのかもしれないが、風邪でつらい症状をどうにかしてくれと相談してきた患者にdoing nothing is often betterと言えるのかという問題は常に僕の中にあります。

咳がつらいというのはよく聞く訴えです。夜も寝れずに苦しい、小さな子供であれば、それを見守る親も不安な時間を過ごすことでしょう。実は市販の咳止めにはその有効性を示すエビデンスは乏しく、

Over-the-counter medications for acute cough in children and adults in ambulatory settings. Cochrane Database Syst Rev. 2012 Aug 15;8:CD001831.

エフェドリン含有製剤などでは明確な効果がわからないばかりではなく有害事象すら症例報告があるのに、市販の咳止めの多くに含まれている成分です。そのような中で、軟膏タイプの風邪薬や蜂蜜には咳嗽への有効性を示したエビデンスがあります。

Vapor rub, petrolatum, and no treatment for children with nocturnal cough and cold symptoms.Pediatrics, 2010 Dec;126(6):1092-9. PubMed

Effect of Honey on Nocturnal Cough and Sleep Quality: A Double-blind, Randomized, Placebo-Controlled Study Pediatrics. 2012 Sep;130(3):465-71

これらは医薬品ではないため、その効果は限定的であるというのは患者はもちろんのこと医療従事者にとっても一般的な認識なのかもしれません。やはりエフェドリンなどが含有された市販薬のほうが効果があると多くの人たちは思うのです。確かにリンコデやデキストロメトルファンには鎮咳効果を裏付けるような報告は複数あります。

風邪薬や咳止めを飲むことが最善の医療なのか、 勝手に治る風邪は薬など飲まなくて家で寝ていろというのが最善の医療なのか、とりあえず解熱剤だけで様子を見ろというのが最善の医療なのか、ここに優劣をつけることの意味の小ささを僕はEBMから学びました。


僕はエビデンスを用いて相対的によりよい医療を目指すということを意識せざるを得ませんでした。気づけば何を基準に相対化してきたのだろうかと立ちどまります。自分の価値観か、患者の価値観を共有することは難しい…。絶対的に見たときに、今目の前の患者に、それは明らかに優れた医療といえるのだろうかと今更ながら思います。自分が提供してきた医療の批判的吟味こそ重要だという言葉が心にしみます。よりよい医療にこだわると見失うものが多いのかもしれません。よりよいエビデンスがあるけれど、いろいろ考えた結果、患者にはこうした、ということが重要なのではないかと思います。

患者にdoing nothing is often betterと言えるのかという問題、このoftenが難しい、本当にそう思います。

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