[お知らせ]


2012年5月26日土曜日

調剤薬局の薬剤師が実践するEBMとは


調剤薬局の薬剤師がEBMを実践するとはどういうことか、最近考えます。
自分自身は、患者や医療機関からの問い合わせや
服薬指導、疑義照会の中でEBMを意識しています。
ただ処方監査においてエビデンスに基づきリスクベネフィットを考慮し
そのうえで疑義が必要と判断した場合に、その内容を
疑義照会へ反映させるのが最大の壁だと感じます。
エビデンスに基づく疑義照会の実践は薬局の立場上、困難なケースが存在するのです。
「本当に必要な薬剤なのか、この併用は意味があるのか、リスクのほうが大きいのではないか、ほかに代替すべき薬剤があるのだが、、、」
日常業務で思うことは多いです。ただ処方医の治療方針は尊重すべきだと思います。

患者に最善の医療を提供するためには、EBMを実践することが一つの方法だと
考えていますが、単独職種ではなく他職種連携でEBMを実践することが、
その質をより向上することになると思います。
調剤薬局においてはその地域における他職種・多施設連携が鍵ですが、
職種間、施設間の壁は現状あまりにも高いと感じています。

先月プライマリケア関連のワークショップでIPWInterprofessional Work専門職連携)
という概念を知る機会がありました。
複数の専門職が協働し、利用者や患者の期待に答えていくということだと。
(参考)埼玉県立大学IPEIPW
http://www.spu.ac.jp/view.rbz?nd=218&ik=1&pnp=101&pnp=218&cd=878 

こういった概念の浸透は、地域医療における多職種、多施設間でのEBM実践をより身近なものに変えるのではないか。と思いました。
地域医療にもIPWという概念をより意識することで、
他施設、他職種がよりスムーズに連携され、
質の高い、きめ細かい医療の提供が可能になると考えています。
特に病院内では他職種というところがポイントですが
地域医療においては他施設というところが大きなポイントです。

 処方元医療機関と調剤薬局。病院薬剤部と調剤薬局。総合病院と診療所。
療養施設やその他の医療・福祉施設。
それらをIPWという概念でつなぎ、地域の中で医療ネットワーク連携を密接に行い、地域全体を大きな医療機関というとらえ方で考えていく。

エビデンスに基づく他施設・他職種間の意見交換が疑義照会等の中でできれば
薬剤師の役割というものも、おのずと見えてくる気がしませんか?
薬剤師が行うEBMの在り方がそこから見えてくる気がします。

2012年5月21日月曜日

喘息治療にPPIは効果があるか?


日本呼吸器学会の「咳嗽に関するガイドライン」によれば慢性咳嗽は、
“胸部X線の異常陰影や喘鳴などの有意な身体所見を示さず
8週以上持続する咳嗽“と定義される
GERDによる慢性咳嗽は増加しているという。
Geography and cough aetiology. Pulm. Pharmacol. Ther., 20, 383387(2007)
GERDによる慢性咳嗽が疑われる場合ガイドラインでは
PPIによる診断的治療が推奨されている。

GERDによる咳発生機序は以下の2点が指摘されている
*下部食道括約筋の一過性弛緩の頻度増すことで胃酸が
下部食道の迷走神経受容体を刺激し、
中枢を介して反射性に下気道に刺激が伝わり咳が発生。
*逆流内容物が上部食道から咽喉頭に到達したり
下気道にまで誤嚥され直接の刺激となり咳が発生。
Cough and gastro-oesophageal reflux disease.
 Pulm. Pharmacol. Ther., 17, 403413(2004)


喘息患者におけるGERDの合併頻度は健常者よりも高いといわれている。
current status and future directions. Postgrad. Med. J., 80, 701705(2004)

喘息治療におけるPPIのアプローチを考察してみたい
JAMA. 2012;307(4):373-380 
胃食道逆流症状のない小児喘息患者306人。
ランソプラゾール群で喘息コントロールのACQスコアの改善は見られず、
呼吸器感染リスクが増加RR1.3(95%CI 1.1-1.6) 
Am. J. Respir. Crit. Care Med. 2010; 181: 1042-1048.  
 GERD症状のある喘息患者にエソメプラゾール40mg11
又は2回投与をプラセボ比較。
早朝のピークフロー変化に有意差なし。
両投与群とも、Asthma Quality of Life Questionnaire total score 有意な改善
エソメプラゾールは呼吸機能と喘息関連QOLを改善するかもしれない。
しかしながら、臨床的にはかなり小さな影響。
Arch Intern Med. 2011;171(7):620-629
成人喘息へのPPI11件のメタ分析。
朝の最大呼気流量(PEFR)のベースラインからの平均変化量。
PPIを成人の喘息患者に投与すると、PEFRに有意な改善が見られるが、
改善は臨床的に意義のあるレベルではない。
なおサブグループ解析は、
GERD患者例患者のみの検討で、朝PEFの大幅な改善傾向

現段階で喘息治療にPPI投与を積極的に支持するエビデンスは少ない。
特にGERDのない患者ではその効果は期待できないといえる。
逆にPPI長期投与におけるリスクを考慮しなくてはいけない。

Clostridium difficile–associated diarrhea (CDAD)リスク増加
骨折リスク増加
BMJ 2012;344:e372.
コホート研究 年齢調整でHR1.35(1.13-1.62)
  *Annals of Family Medicine 9:257-267 (2011) 
メタ分析 調整OR 1.29:1.18-1.41

喘息におけるPPIの漫然投与は、少ない臨床効果よりもリスクを考慮すべき。

2012年5月11日金曜日

薬剤師の卒後教育に思うこと

調剤薬局が薬剤師としての臨床教育に積極的になれないのはなぜだろうか。
株式会社だから?短期的な利益に結びつかないから?
調剤報酬のためではなく、患者のため、その家族のため、
そして地域のため薬剤師の臨床教育を実施するのは
調剤薬局の果たすべき役割の一つであると考える。
薬剤師育成を薬学部だけに任せる時代はもう終わろうとしている。
現状、調剤薬局における人材育成は主に接遇や
経営的なことに主眼がおかれていると感じている。
とても大切なことでありそれ自体を否定する気はなく、
むしろ必要と感じるが。
肝心の薬剤師卒後臨床教育に関してはどうだろうか。
多くの場合、企業単位での実施はしていないと感じる。

薬剤師の卒後教育をどうするべきか、
これは個々の施設ごとというよりは
もっとスケールの大きなシステムとして構築の必要性を感じる。
本年度より薬剤師の生涯学習支援システム「JPALS」が稼動し始めた。http://www.nichiyaku.or.jp/?page_id=14263
しかしながらいくらこのようなシステムが立ち上がっても、
企業からしてみれば、あくまで一社員の自己研鑽システムであり、
積極的にこのようなシステムを社員に導入し、
薬剤師の臨床研修を実施している企業は少ない。
形だけではなく、本当の意味で地域に貢献すべき人材を育成する為に
研修プログラムを構築している企業があるか。
要するに現段階で多くの調剤薬局は調剤報酬ありきでの人材育成に終始している。

研修認定薬剤師取得の為にeラーニングによる生涯学習制度を推奨している企業は多い。
それ自体は良いと思うがeラーニングで完結してしまう生涯学習制度は
個人的に参考書を読んだのと大きく変わらないと思う。
生涯学習として単位をもらうようなことではなく、
単なる自主的な勉強に過ぎない。
これはその先に目指すもの、地域に貢献すべき人材育成には程遠いい。
いわゆる形だけの取り組みといえよう。

調剤薬局に勤務する薬剤師は卒後教育は個々の会社単位で行われる。
会社により薬剤師の教育方針は様々であり、
学術・臨床的なことはMRや先に述べたeラーニングに
依存しているケースが殆どではなかろうか。
それがダメだといっているのではない。
ただ薬の広告や形だけの研修、調剤報酬のためではなく患者のための教育が必要だ
いつまでも添付文書の「併用注意」で臨床判断できない薬剤師を
放置しておくのは危機的状況と感じるのは自分だけか。

株式会社である調剤薬局はやはり自己の利益のための人材育成しかしないのか。
もう一度、保険薬局・地域薬局の役割を考えてほしい。
調剤薬局は地域の一部としてそこに住む人たちに何が出来るかを。

2012年5月9日水曜日

薬剤師にできること


“自分がやるべきことを模索する”より、
単純に“今何ができるか”ということのほうが大事であると思う。
薬剤師がやるべきことを追求するより
薬剤師ができることから確実に始めたい。

個人的にCOPDの薬物治療については
BMJ. 2011 Jun 14;342:d3215. doi: 10.1136/bmj.d3215.
という論文に出合って以来、その意味を探している。
チオトロピウムミスト吸入剤と死亡リスク」参照

喘息への使用ではあるものの、LABAの長期使用でも問題があり、
Am J Med. 2010 Apr;123(4):322-8.e2. Epub 2010 Feb 20
http://www.amjmed.com/article/S0002-9343(09)01110-3/fulltext
LABAの長期使用」参照
こうなると、もはやCOPDにおける
薬物治療を完全に喪失したような感覚だ。
2つの論文はアウトカムとして死亡を評価しており
絶対リスクが小さくとも臨床に反映させるべき
重大なアウトカムであることに間違えない。

最近思うのはCOPDの治療において薬剤師にできることは
薬物治療へのステージまで進めさせないこと。
禁煙等を含めた生活習慣改善指導の技量を身につけたい。
以下のような認定資格もある
(日本禁煙学会認定指導薬剤師http://nosmoke.xsrv.jp/nintei/
COPDに関する統計をみると
2010年のCOPDによる死亡順位は全体で9
性別にみると男性の方が高く7位 
http://www.gold-jac.jp/copd_facts_in_japan/
今後ますますCOPDにおける薬剤師の生活習慣改善指導は
重要になると考える。


ストレスケアも薬剤師の重要な役割だ。
http://syuichiao.blogspot.jp/2012/04/blog-post_08.html
でもふれたが、
ストレスにより血圧は上昇するし
喘息は悪化するし、血糖値でも上がるといわれている。
プライマリケアで大切なことの1つは病気に対応するだけではなく、
その患者さんの不安を解消するということ。
薬剤師には治療方針の決定や薬剤処方権はないが、
ストレスケアを含めた心の処方はできるはずだ。
しつこいようだが、
処方薬が増えた患者さんを目の前に
「食事や運動を気をつけてましたか?」ではなく
「何か悩んでいることはありますか?」
そんなもんないよと言われてもそこからまた
コミュニケーションが広がるのだから損な質問ではない。

2012年5月2日水曜日

ノコギリヤシの効果


「“ノコギリヤシ”はあんまし効かないねえ・・」
とのコメントをいただいた。
ノコギリヤシ果汁エキスは前立腺肥大や脱毛症に効果があるなどと
言われているが、とりあえずpumed で調べてみた。

saw palmetto effectで検索すると1番目に
Effect of increasing doses of saw palmetto extract on lower urinary tract symptoms
: a randomized trial.
JAMA. 2011 Sep 28;306(12):1344-51.が検索された。



P:前立腺肥大による下部尿路症状を有する
  369名の45歳以上の男性
E:ノコギリヤシ果汁抽出物標準量の3倍の320mg/d
C:プラセボ
O:下部尿路症状
二重盲検RCT intention-to-treat analysis

 72週間後
米国泌尿器科学会症状指標の変化
ノコギリヤシ群14.4212.22
(−2.20 points; 95% CI, −3.04 to −0.36)
プラセボ群14.6911.70
(−2.99 points; 95% CI, −3.81 to −2.17)
抽出物の用量を増やしても下部尿路症状の軽減効果は見られない。



特定の製品のみでは何とも言えない部分があり
今後もう少し大きな規模で検討が必要かもしれないが
現時点で明確なエビデンスはないのかもしれない。