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2013年6月26日水曜日

クロストリジウムディフィシル感染症(CDI:Clostridium difficile infection)

クロストリジウムディフィシル(Clostridium difficile)は嫌気性グラム陽性菌です。ヒト腸内の常在菌で、健常成人の5%、及び乳児の3分の2は無症候性に消化管内に保菌しているといわれ、保菌率は65歳以上で高くなります。Clostridium difficileが産生する外毒素(トキシンA、トキシンB)によって引き起こされる疾患をクロストリジウムディフィシル感染症(CDIClostridium difficile infection)といい、その重症型が偽膜性腸炎と位置付けられているそうです。具体的には大腸内視鏡検査で偽膜を証明した場合に偽膜性腸炎と診断されます。CDI全体の30%に発熱がみられることから、何らかの感染症により抗菌薬が投与されいったん解熱したあと再度発熱した場合、あるいは抗菌薬使用にもかかわらず持続する発熱などにおいて、不明熱とされていることも多いといわれています。下痢などの症状があれば、わかりやすいですが、消化器症状がみられないCDIも存在するといわれています。病院・老人施設等における入院患者・入居者等での集団発生が見られることがあり、院内感染を起こす菌として注意する必要があります。

CDIClostridium difficileが産生する外毒素により発症する疾患ですが、この外毒素には2種類あります。トキシンAは腸管毒素でトキシンBは細胞毒素です。トキシンBはトキシンAよりも10倍毒性が強いといわれており、臨床上はトキシンBの検出が重要です。

感染経路は内因性の感染と汚染された環境表面からの外因性感染の2種類です。市中CDIにおいてはこの内因性感染がしばしば問題となります。腸内にもともと保有している菌による内因性感染では、抗菌薬投与などが誘因で腸内のClostridium difficileが異常増殖し発症します。抗菌薬別の市中CDIリスクを検討したメタ分析によれば、クリンダマイシンやキノロン系、あるいはセファロスポリンなどがよりハイリスクといえます。


Community-associated Clostridium difficile infection and antibiotics: a meta-analysis.
抗菌薬の種類
オッズ比[95%信頼区間]
抗菌薬全体
クリンダマイシン
フルオロキノロン
セファロスポリン
ペニシリン
マクロライド
ST合剤
テトラサイクリン
6.91[4.1711.44]
20.43[8.5049.09]
5.65[4.387.28]
4.47[1.6012.50]
3.25[1.895.57]
2.55[1.913.39]
1.84[1.482.29]
0.91[0.571.45]

Meta-analysis of antibiotics and the risk of community-associated Clostridium difficile infection
抗菌薬の種類
オッズ比[95%信頼区間]
クリンダマイシン
フルオロキノロン
CMC
マクロライド
ST合剤
ペニシリン
テトラサイクリン
16.80[7.4837.76]
5.50[4.267.11]
5.68[2.1215.23]
2.65[1.923.64]
1.81[1.342.43]
2.71[1.754.21]
0.92[0.611.40]
CMCs)セファロスポリン、モノバクタム、カルバペネム

このような広域スペクトラムを有する抗菌薬は正常な腸内細菌のバランスを破壊し、それによりClostridium difficileが増加することにより発症リスクが高まると推測されます。CDIの主症状は抗菌薬による治療開始後、通常5日~10日から始まる下痢症状です。軽症から粘血便を伴うものまでさまざまであるといいます。抗菌薬が主な原因となりえますが、リスク因子としては高齢、制酸剤(プロトンポンプインヒビター等)の投与なども考えられます。

Meta-analysis to assess risk factors for recurrent Clostridium difficile infection
リスク要因
オッズ比[95%信頼区間]
抗菌薬
4.23[2.108.55]
加齢
1.62[1.112.36]
制酸剤
2.15[1.134.08]

プロトンポンプインヒビター等の強力に胃酸分泌を抑制する薬剤も注意が必要です。観察研究のメタ分析ではPPI服用患者でクロストリジウム-ディフィシル関連下痢症CDAD(Clostridium difficile associated diarrhea)65%も増加する可能性を示唆しました。
Clostridium difficile-associated diarrhea and proton pump inhibitor therapy: a meta-analysis
年齢としては65歳以上がリスク因子の一つとして挙げられています。
Can we identify patients at high risk of recurrent Clostridium difficile infection?

Clostridium difficileアルコール消毒抵抗性の芽胞を形成し、乾燥した無生物表面での持続性は5か月にも及ぶとされます。外因性感染対策としては汚染された環境面から接触感染を引き起こすため、標準予防策に加え、接触予防策の実施が必要です。感染した人の糞便中にクロストリジウム-ディフィシルが排菌され、汚染された器物や手などを介して、人の口や粘膜に到達し、他の人も感染していく可能性があります。病院・老人施設等において、医療従事者や介護者が、クロストリジウム-ディフィシルで汚染された器物や手などを介して、入院患者・入居者の感染を広げて行く可能性もあります。芽胞にはアルコール消毒が無効のため、塩素系消毒薬を用います。

CDIの治療にはメトロニダゾール内服やバンコマイシの投与などが一般的ですが、再発性のCDI感染患者ではしばしば治療抵抗性となることも多く、難治化することもあるようです。再発性CDI感染の患者に、バンコマイシンで治療後、腸洗浄を行い健常者ドナーからの便を注入することで、バンコマイシン単独治療やバンコマイシン治療と腸洗浄の併用治療に比べて下痢症状の消失割合が3倍から4倍、有意に多いというランダム化比較試験も報告されました。
Duodenal infusion of donor feces for recurrent Clostridium difficile.

プロバイオティクスがCDAD (Clostridium difficile associated diarrhea)リスクを減らす可能性があるとするメタ分析があり、有害事象も少ないことから抗菌薬使用においては、予防的に考慮しても良いかもしれません。(※)
Probiotics for the prevention of Clostridium difficile-associated diarrhea: a systematic review and meta-analysis
Probiotics for the prevention of Clostridium difficile-associated diarrhea in adults and children.
(※)Clostridium difficile associated diarrheaとプロバイオティクスの予防効果については議論があるようですが、抗菌薬とのルーチン併用で下痢などの消化器症状を抑制できるとする報告JAMA. 2012;307(18):1959-1969もあり、有害事象も低頻度であることから、考慮に値すると考えています。


抗菌薬により誘発されうるCDIは抗菌薬の適正使用でそのリスクを最小限に抑えられる可能性のある疾患です。外来においても、高齢者でプロトンポンプインヒビター等の制酸剤を服用中患者に、安易にキノロン系抗菌薬や広域セファロスポリン、カルバペネムなどを投与することは、CDIリスクが上昇する可能性があり、注意が必要です。

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