[お知らせ]


2012年11月30日金曜日

乗り物酔い予防について


乗り物酔いは、その名の通り乗り物により耳の鼓膜の先にのある三半規管の加速センサーが反応し続け、空間認識の乱れから、人によって吐き気やめまいを引き起こす症状です。その日の体調や心理状況にも影響を受けるといいます。

まずは乗り物酔い防止薬Wikipediaからです。概要を引用いたしますと、

「乗り物酔いを起こす動物の種類が限られており、動物実験が困難であるため研究はあまり進んでいない。現在は主に抗ヒスタミン薬やスコポラミンが使われているが、実験による裏付けが必ずしも十分でなく、効果や副作用の点で問題が少なくない。今後の新薬開発の余地が多く残されている分野であると言える。いずれの薬も嘔吐が始まってからでは効果が期待できないため、成分にもよるが、一般に乗り物に乗る30分~1時間前に服用する。乗り物酔いは心理的効果が大きく現れるため、プラセボ効果も無視できない。」

引用終わり

プラセボ効果を含めてその対策は有効かもしれません。通常ドラックストア等で市販されている薬剤は抗ヒスタミン薬(メクリジン、ジフェンヒドラミン等)とスコポラミンの合剤が主流です。

一般的な制吐薬であります、医療用のドンペリドンやメトクロプラミドなども使用されることもあるようですが、厳密には乗り物酔いの予防に対する保険上適応はありません。まずは医療用のこの2種類の制吐薬について、作用機序については教科書にお任せして、臨床的な違いを簡単にまとめてみます。

■臨床的な有効性ですが、メトクロプラミド30mg/日と比較してドンペリドン30-60m/日は有意な差は認められていないそうです。1)
■ドンペリドンは妊婦に対しては添付文書に禁忌の記載あります。ラットによる動物実験のいて骨格、内臓異常等の催奇形作用が報告されているとしています。
■一方でメトクロプラミドの妊婦に関する添付文書の記載は治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与するという内容です。

  ドンペリドンは感染性胃腸炎などでも非常によく処方されるポピュラーな薬剤ですが、個人的にはそのリスクが気になります。ドンペリドンの使用と心室性不整脈や突然死に関連が示唆されるとの報告2)があり高齢者や小児では特に注意が必要と感じています。
ドンペリドンやメトクロプラミドは保険上、乗り物酔い予防に適応がないこともあり、個人的にはこれら薬剤の使用はあまり、お勧めできません。

実際に乗り物酔い予防に対する治療エビデンスってあるのでしょうか。Pubmed Clinical Queries で調べてみましょう。乗り物酔い・・恥ずかしながら英語で何と言うのか知りませんでした。
キーワードは「motion sickness」です。

レビューの3つ目にコクランがありますね!ラッキーです。さっそく読んでみます。
Scopolamine (hyoscine) for preventing and treating motion sickness.
Cochrane Database Syst Rev. 2011 Jun 15;(6):CD002851.

スコポラミンの乗り物酔いに対する有効性を評価したランダム化比較試験のメタ分析です。2名の評価者が独立して評価を行っています。
14研究、1025例が解析対象です。スコポラミンは経皮パッチ、錠剤またはカプセル剤、経口溶液または静脈経由で投与されたものを含んでいます。スコポラミンは、プラセボ、カルシウムチャネル拮抗薬、抗ヒスタミン剤、methscopolamineまたはスコポラミンとエフェドリンの組み合わせと比較されています。
 
乗り物酔い予防に関する結果をまとめると
■スコポラミンはプラセボと比較して有効性が高い
■スコポラミンは他の薬剤と比べてほとんど有効性は変わらない。
 Methscopolamineよりは高いが抗ヒスタミン薬とは同等
スコポラミンは他の薬剤に比べて視野異常やめまい、眠気の副作用が多いとの記載もあります。口渇も多いようです。乗り物酔いに対してスコポラミンはプラセボよりも有効であるとするものの、他の薬剤との比較はデータが不足しており検証できないというような結論です。

もう少しグーグルで「乗り物酔い エビデンス」などの検索ワードで探していると、乗り物酔い予防に関する全体的なレビュー文献が見つかりました。

Managing motion sickness
BMJ2011;343:d7430

summaryを見てみますと
■習慣等の行動療法は有効であるといわれており、副作用も少ないが、退屈で時間もかかる。
■スコポラミンの経口製剤および経皮パッチは、臨床で確立されるために効果的な予防薬であり、スコポラミン点鼻スプレーも、乗り物酔いの予防に有効であることを示唆している
■リスクベネフィットを考えればスコポラミン以外の薬物の使用を支持するエビデンスは弱い。
■生姜の摂取や指圧バンドなどの伝統療法は乗り物酔い予防に関する明確な有効性は示されていない。
  スコポラミンは乗り物酔い予防に一定の効果がありそうです。市販の薬剤ではこれに抗ヒスタミン薬が配合されていますが、その併用効果に関してはわかりません。スコポラミンは抗コリン作用による副作用も多いので注意が必要です。
  生姜に関する記載がありましたが、乗り物酔いに生姜が効くという情報はインターネットでよく見かけます。実際のところどうなのでしょうか。
  生姜は抗ヒスタミン薬のジメンヒドリナートよりも酔い止め効果が高いという報告もあるようです3)論文詳細はかなり古いもので確認できていませんが、どうやらランダム化較試験のようです。こちらに引用されていました。文献19です。

乗り物酔いにはプラセボ効果も影響しますので、生姜は試してみてもよさそうです。生姜エキスはサプリメント等で健康食品としても販売されているようです。介入コストが安い点が魅力ですね。
 
乗り物酔い予防に関して個人的な結論まとめますと
■スコポラミンは乗り物酔い予防に有効かもしれない。
■スコポラミンは抗ヒスタミン薬に比べて副作用が多い。
■生姜エキスは試す価値があるかもしれない。
■抗ヒスタミン薬がどの程度有効かはわからない。
■ドンペリドンは使用すべきではない。

なおスコポラミンは泌尿器、眼科等へ受診されている方では服用が難しいケースもありますので
実際の服用にあたりましては、年齢、基礎疾患等、様々な要因での副作用に留意するとともに、必ず、かかりつけの医師あるいは購入時に薬剤師へ相談することをお勧めいたします。

[参考文献]
1)    Br J Clin Pract. 1991 Winter;45(4):247-51.
2)    Drug Saf. 2010; 33: 1003-1014.
3)    Lancet 1982;1:655-7

2012年11月17日土曜日

感染制御における感染対策を考える


以下の内容は私の地元で開催されました、感染制御セミナーの内容を基に作成しております。記事の内容に関しましてはできる限り出典や原著論文を確認しておりますが、背景エビデンスが十分に確認できていないものもありますのでご了承ください。また誤り等ございましたらご連絡いただければ幸いです

■環境表面からの感染経路が重要です

環境表面に何らかの理由で病原体が付着します。これは病原体に感染した患者が触った環境表面やくしゃみ等の飛沫が環境表面に付着することで起こりえます。このように病原体で汚染された環境表面へ他の健常者の手指が触れると病原体が手指に移動します。その手指が鼻空や結膜へ触れることで病原体が体内に侵入していきます。ここで気になるのがウイルスの環境表面での生存期間です。環境表面の凹凸でも違いがあるようです。

RSウイルス      凹凸表面:1時間    平滑表面:7時間
パラインフルエンザ  凹凸表面:4時間    平滑表面:10時間
ライノウイルス     凹凸表面:1時間    平滑表面:3時間
インフルエンザ     凹凸表面:812時間 平滑表面:2448時間

環境表面で生存している期間は感染源になりえますのでその接触には十分注意が必要です。
具体的には高頻度接触表面へ配慮が重要です。たとえばドアノブ、ベッド横、電灯のスイッチ等です。

■手指の洗浄・消毒の意外な落とし穴

  一般的にはアルコールによる手指の消毒が行われますが、手指が肉眼的に汚れた時や、ノロウイルス、芽胞形成性菌(クロストリジウムデフィシル等)への暴露等では石鹸を使用した手洗いを行うと思いますが、ハンドソープ詰め替え用ボトル、要注意です。厚生労働省の院内感染の留意点によれば消毒剤においても「部屋に備え付けの手指消毒液のボトルは、注ぎ足し、詰め替えによる連用はしない」ほうが良いといわれていますので空ボトルを滅菌乾燥してから再利用する場合を除き、当然ハンドソープも詰め替え連用は避けるべきです。

実際にハンドソープやシャンプーの詰め替えボトルから緑濃菌が検出されるケースもあるそうです。どの位の頻度で緑膿菌などの細菌が検出されているかは不明ですが、緑膿菌入りのシャンプーで頭を洗っている可能性もあるかもしれませんね。

MRSAはどこから来たのか

ご存じの通りメシチリン耐性黄色ブドウ球菌ですが、このMRSA一体どこから来たのでしょうか。1960年代はMRSAは単一のクローン由来でしたが、2004年までに世界中で6つの主要クローンが発生したとされています。1)2)これは世界中でMRSA6つの種族が伝播に伝播を重ねてばらまかれているということです。従いましていま目の前のMRSAは単にMSSAがその場で耐性を獲得したものではなく伝播について百戦錬磨のつわものなのです。3)

参考文献にも挙げましたが、以下の論文がそれを示唆しています。
Staphylococcus aureus poststernotomy mediastinitis: Description of two distinct acquisition pathways with different potential preventive approaches
http://jtcs.ctsnetjournals.org/cgi/content/full/134/3/670

心臓手術前に鼻腔のサンプルを取得し黄色ブドウ球菌が陽性であった1432人での心臓手術患者で術後の縦隔炎17件を対象に手術部位の黄色ブドウ球菌と鼻腔の黄色ブドウ球菌をパルスフィールド電気泳動法を用いて遺伝子的に同等かどうかを比較しています。MSSAでは9例中7例が手術前の鼻腔のMSSAと手術部位感染のMSSAで一致しましたが、MRSAでは8例中8例が鼻腔と手術部位で一致しませんでした。また8例全ての手術部位感染のMRSAは同一のものでした。これはすなわちMRSAは患者=患者間の伝播をしており外部からの感染経路を経ている可能性が示唆されます。患者が保有しているMSSAが突然変異したわけではないのです。だからこそ手洗いが重要なのです。まとめますと、未保菌者(入院時)→別の患者からの伝播→保菌→MRSAを発症しやすい状況→発症 という経過をたどります。

HBVワクチンの重要性
針刺しによる感染率は以下の通りです。4)

* HIV 0.3%
* HCV 1.8%
* HBV 162%
講演ではざっとHIV0.3% HCV3% HBV 30%とすれば覚えやすいという感じでした。HBVの感染リスクが高いわけですが、あるアンケート調査によれば5)HBVに感染した医療従事者のほとんどが針刺しをしておらず、その医療従事者の3分の2HBV感染患者をケアしたことさえ覚えていないという状況でした。 2001年の曝露後対応のCDCガイドライン
http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr5011a1.htm
によれば、HBVは環境表面に1週間以上生き続けるといいます。(Lancet 1981;1:550-1からの引用)皮膚のすり傷等から侵入する可能性が十分あるのです。無自覚のHBV暴露から身を守るために全ての医療従事者にはHBVワクチン接種が必要であるということです。


■妊娠中のインフルエンザワクチン

妊婦はインフルエンザに罹患すると重症化しやすく死亡率が高いといわれています。妊婦におけるインフルエンザワクチン接種は非常にベネフィットがあると報告されています。6) 妊娠中の母体に不活化インフルエンザワクチンを接種することにより確定診断されるインフルエンザの発生数は生後 6 ヵ月以下の乳児で 63%減少し、母親と乳児で,熱性呼吸器疾患全体の約 1/3 を予防することができたとして、母体へのインフルエンザワクチン接種は,母親と乳児の双方に大きな利益をもたらすと結論付けています。

■インフルエンザの感染経路

インフルエンザは飛沫感染をします。感染患者のくしゃみ等の飛沫から感染を起こします。2009年に新型インフルエンザパンデミックが発生いたしましたが、その当時あるアメリカ人女性30人のグループが中国を旅行していたそうです。移動のほとんどがバス利用です。そのうち1名がインフルエンザを発症しましたが、旅行を継続した結果、感染が拡大しました。その詳細を後ろ向きコホート研究で調査すると2m未満の距離で2分以上会話をした16人中9人でインフルエンザを発症。会話をしなかった14人は同じテーブルで食事したにもかかわらず全てインフルエンザを発症しませんでした。7)移動中のバスでは十分な喚起が行われていた状況でした。この報告はインフルエンザウイルスが2m未満の距離で飛沫感染を起こす可能性が高くなることを示唆しています。

インフルエンザは特定状況下で空気感染も起こしえます。先ほどの中国の事例はバス空間内は十分な換気が行われていましたが、それが行われなければどうでしょうか。

54人を乗せたジェット旅客機は、エンジン故障のため、離陸を試みている最中に3時間も地上に待機してしまいました。ほとんどの乗客が飛行時間遅延の間そこにとどまっていたことになります。 72時間以内に、乗客の72%が咳、発熱、疲労、頭痛、のどの痛み、筋肉痛のインフルエンザ症状を発症しました。飛行機の換気システムは、遅延時に動作不能であり、これはインフルエンザが密室状況で空気感染することを示唆しています。8)

ではインフルエンザの感染力はどの程度なのでしょうか。基礎再生産率Roをいう指標があります。:一人の感染者が、誰も免疫を持たない集団に加わったとき、平均して何人に直接感染させるかという人数を表しています。目安としてはインフルエンザは約23、ジフテリア67、百日咳1217、麻疹1218程度といわれているようです。当然数値が大きいほど感染力は強くなります。2009年のインフルエンザH1N1Roは日本において2.3だそうです。

■ノロウイルス

ノロウイルスの感染症の経過を確認します。潜伏期間は1日~2日、症状は感染後2日~3日、その後4週間程度持続感染します。一般的に症状が治まってから48時間は職場復帰しないほうが良いそうです。症状が無くなっても糞便中にはウイルスが排泄され続けます。

ノロウイルス、できれば感染したくありませんが非常に感染力が強くウイルスが10個~100個程度でも感染を引き起こすといわれています。ただここで興味深い報告があります。9)

ウイルス性胃腸炎で免疫を調べるために、12人のボランティアを対象にノロウイルスを投与しました。6人で嘔吐下痢が発症したが6人で胃腸炎はありませんでした。2742ヶ月後に再度ノロウイルスを投与すると、以前に病気を発症した6人は、胃腸炎を発症。以前に発症しなかった6人ではやはり胃腸炎を発症しませんでした。 さらにその後48週間後にノロウイルスを投与すると胃腸炎症状を発症したグループでも発症しなかったという報告です。

この結果が意味するものは以下の3点です。
○ノロウイルスによる既感染は長期免疫を与えない。
○ノロウイルスによる既感染は短期免疫を与える可能性がある。
○ノロウイルスにもともと感染しない人がいる。
したがいましてノロウイルス感染患者のケアはノロウイルスに感染し治癒間もない短期免疫保持者が当たることがいい、なんて意見もあるそうです。

感染対策への取り組みはプライマリケアにおいてもまた院内の感染制御にも薬剤師が関われることができる分野だと思います。今後もエビデンスに基づいた感染制御・感染対策のあり方を模索したいともいます。

[参考文献]
1)     Antimicrob Agents Chemother 2004:48:2637
http://aac.asm.org/content/48/7/2637.abstract
2)     Microb Drug Peeist 2001:7:349

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3323240/

3)     J Thorac Cardiovasc Surg 2007;134:670-676
4)     CDC MMWR June29,2001/Vol.50/No.RR-11
5)     Guidelines for the Management of Occupational Exposures to HBV, HCV, and HIVand Recommendations for Postexposure Prophylaxis
http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/rr/rr5011.pdf
6)     N Engl J Med 2008; 359:1555-1564
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa0708630
7)     Lack of Airborne Transmission during Outbreak of Pandemic (H1N1) 2009 among Tour Group Members, China, June 2009
http://wwwnc.cdc.gov/eid/article/15/10/09-1013_article.htm
8)     Am J Epidemiol 1979; 110: 1-6
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/463858
9)  N Engl J Med. 1977 Jul 14;297(2):86-9.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/405590

2012年11月16日金曜日

フルオロキノロンのついてのまとめ


私は感染症の専門家でもなく抗菌化学療法の専門家でもないただの薬剤師ですので薬剤の専門的な部分はその専門家にお任せしたいところですが、プライマリにおいて最低限知っておいたほうがよさそうな内容を最近の研究結果を踏まえてまとめてみたいと思います。なにせ素人がまとめていますので誤り等あればご指摘いただければ幸いです。
 
フルオロキノロンは肺炎球菌に対する活性がよいため呼吸器感染症に用いることが多いと思います。大腸菌にも効果があるため尿路感染症に用いることも多いでしょう。さらに腸内細菌をカバーするため消化管感染症にも用いることも多いです。黄色ブドウ球菌や緑膿菌への効果はシプロフロキサシンが期待できます。なんだか、何でもかんでもキノロンが効くので、なんでもキノロンで治療できるような万能抗菌薬みたいな感じですよね。安易なキノロンの使用で大腸菌のキノロン耐性化が進んでいることもまた事実です。さらに薬剤には当然副作用があります。その詳細は後ほどまとめますが、まずはキノロンの臨床的効果を最新の論文から見ていきましょう。
 
呼吸器感染症での使用頻度は非常に高いと思われますが、実際に本当にキノロンでないとだめなのでしょうか。抗菌スペクトラム云々は専門の方に解説をお願いしたいと思いますが、ひとつ興味深い報告があります。
Moxifloxacin versus amoxicillin/clavulanic acid in outpatient acute exacerbations of COPD: MAESTRAL results.
Eur Respir J. 2012 Jul;40(1):17-27
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22135277
この研究はCOPD患者を対象とし、細菌感染によるCOPD増悪時にモキシフロキサシンとアモキシシリン/クラブラン酸を比較して治療8週時点での臨床的治療失敗を検討した多施設共同ランダム化二重盲検非劣性試験です。per protocol解析ではモキシフロキサシンは、アモキシシリン/クラブラン酸に非劣性という結果でした。この結果から思うのはレスピラトリーキノロンとまで言われているモキシフロキサシンですらアモキシシリン/クラブラン酸とほぼ同等の効果ということで、あらためてアモキシシリン/クラブラン酸の効果が見直されるべきだと感じます。感受性の問題さえクリアされればモキシフロキサシンはファーストでの使用になりえない。というのが個人的な印象です。

次に使用頻度が高いのがやはり尿路感染症でしょうか。先のモキシフロキサシンは尿路移行性が低いため尿路感染症には使用されません。本邦においては尿路感染症にキノロン系抗菌薬が大変多く投与されているといわれています。過去6カ月におけるフルオロキノロンの使用が耐性獲得のための危険因子であることも指摘されています1)したがって尿路感染症=キノロンという思考停止は少々問題かもしれません。キノロン以外の選択肢を考慮したいところです。小児へのエビデンスですが、なかなか興味深いです。
Antibiotic Prophylaxis and Recurrent Urinary Tract Infection in Children
N Engl J Med 2009; 361:1748-1759

尿路感染症に 1 回以上感染したことがある 18 歳未満児を対象にトリメトプリム・スルファメトキサゾール懸濁液とプラセボを比較しています。アウトカムは、細菌学的に確定された症候性の尿路感染症の発症です。ランダム化比較試験で統計解析はITT。低用量スルファメトキサゾール・トリメトプリムの長期投与は,再発の可能性がある小児において尿路感染症の発生数の減少と関連しましたが、治療効果は大きくはないという結論でした。
hazard ratio 0.61; 95% CI 0.40 to 0.93
ST合剤は感受性を考慮したうえで治療選択の一つとして考慮されるべきかもしれません。

キノロンの長期投与はやはり副作用の観点からもできれば短期にとどめたい。そんな観点から投与日数は慎重に決定せねばなりません。ランダム化比較試験で腎盂腎炎に対するシプロフロキサシンの7日投与と14日投与を比較して臨床治癒率に大きな差は無いという結果が出ており2)投与期間の短縮の可能性が示唆されています。

さてプライマリで遭遇する単純性膀胱炎対してはどうなのでしょうか。やはりキノロンを使用すべきでしょうか。
Cefpodoxime vs Ciprofloxacin for Short-CourseTreatment of Acute Uncomplicated Cystitis.
JAMA. 2012;307(6):583-589
http://jama.ama-assn.org/content/307/6/583.abstract

急性単純性膀胱炎の女性患者300人を対象に急性膀胱炎へセフポドキシムがシプロフロキサシンより劣っていないかどうかを調査した非劣性・無作為化二重盲検試験です。3日間治療後30日の臨床的治癒率でセフポドキシムの非劣性は示されませんでした。やはりキノロンは尿路感染症ではかなり有効のようです。

キノロンは尿路感染症にはかなり有効なイメージですが、漫然投与はやはり副作用という観点から問題です。心血管系副作用は添付文書にも記載があるとおりですが、実際どの程度なのでしょうか。
Fluoroquinolones and the Risk of Serious Arrhythmia: A Population-Based Study
Clin Infect Dis. (2012) 55 (11): 1457-1465. doi: 10.1093/cid/cis664
http://cid.oxfordjournals.org/content/55/11/1457.abstract

キノロンと重篤な不整脈のリスクをコホート内症例対照研究で評価した報告です。重篤な不整脈の発症はフルオロキノロンの使用に上昇しました。
RR = 1.76; 95% confidence interval [CI], 1.19–2.59
特に新規使用で不整脈リスク上昇しています。RR = 2.23; 95% CI, 1.31–3.80
薬剤別では
■ガチフロキサシン :RR = 7.38; 95% CI, 2.30–23.70
■モキシフロキサシン:RR = 3.30; 95% CI, 1.47–7.37
■シプロフロキサシン:RR = 2.15; 95% CI, 1.34–3.46
という結果でした。安易な使用は思わぬ落とし穴を産みそうです。一見キノロンとは関係なさそうな副作用リスクとの関連も指摘されています。

Oral Fluoroquinolones and the Risk of Retinal Detachment
JAMA. 2012;307(13):1414-1419. doi: 10.1001/jama.2012.383
http://jama.ama-assn.org/content/307/13/1414.short
コホート内症例対照研究でキノロンの使用と網膜剥離リスクについて調べています。
経口フルオロキノロン使用は非使用例に比べ網膜剥離進展ARR4.595CI 3.565.70)という結果でした。

さらに呼吸器感染症で安易にキノロンを使用すると
Fluoroquinolone exposure prior to tuberculosis diagnosis is associated
with an increased risk of death
Int J Tuberc Lung Dis 2012;16:1162-7 
http://www.ingentaconnect.com/content/iuatld/ijtld/2012/00000016/00000009/art00006

結核診断前のキノロン暴露が死亡リスクに関連するという衝撃的な論文です。結核診断6か月以内前にフルオロキノロン接触を調査しています。プライマリーアウトカムは、結核診断時と結核治療中における死亡の混合エンドポイント。結核診断前フルオロキノロン暴露による死亡リスクはOR 1.82, 95%CI 1.05-3.15と衝撃的です。

キノロンには抗結核作用があるため、呼吸器症状に使用する場合は結核が除外できていることが大前提となります。
 薬剤性肝障害も重要です。キノロンとの関連を報告した文献はこちらです。
Fluoroquinolone therapy and idiosyncratic acute liver injury: a population-based study
CMAJ. 2012 Oct 2;184(14):1565-1570.
http://www.cmaj.ca/content/early/2012/08/13/cmaj.111823
クラリスロマイシンの急性肝障害による入院を1とすると
モキシフトキサシン:adjusted OR 2.20, (95%CI 1.213.98)
レボフロキサシン :adjusted OR 1.85, (95% CI 1.013.39)
シプロフロキサシン:adjusted OR 1.56, (95% CI 0.95.2.58)
Cefuroxime     :adjusted OR 1.43, (95% CI 0.72.2.83)
モキシフロキサシン、レボフロキサシンはクラリスロマイシンに比べて急性肝障害による入院が有意に上昇という結果でした。

このようにキノロンの有害事象は軽視できないものが多く、そのリスクは十分考慮されるべきだと思います。最後に重症感染症への使用はどうでしょうか。重症敗血症に関連した臓器機能不全への治療効果をモキシフロキサシン+メロペネム、メロペネム単独を比較して検証したランダム化比較試験があります。

Effect of empirical treatment with moxifloxacin and meropenem vs meropenem on sepsis-related organ dysfunction in patients with severe sepsis: a randomized trial
JAMA. 2012 Jun 13;307(22):2390-9.
http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1163895
しかしながら臓器機能不全 [SOFA] scoresで両群に有意な差が出ませんでした。

こうみるとモキシフロキサシン、細菌感染症におけるCOPD増悪にアモキシシリン/クラブラン酸と同等でしかも不整脈リスクが高くさらに尿路感染症にも使えない、重症敗血症への追加投与も微妙・・みたいな結果になってしまいましたが抗結核作用が比較的強いようです。3)4)モキシフロキサシンはむしろ結核治療のオプションとしての利用価値のほうが高いのではないかと思います。

何でもかんでもキノロンという思考停止は思わぬアウトカムを生みかねません。そのリスクベネフィットを十分考慮する必要があります。近年マイコプラズマがマクロライド耐性となりキノロンの使用が増えているといわれているようですが、これもまた大きな問題かもしれません。そもそもマイコプラズマ全例に抗菌薬投与が必要なのかという問題は重要です。マイコプラズマはそもそもその死亡リスクは低いといわれています。5)そのため全例に抗菌薬が必ずしも必要とはいえません。基礎疾患のある患者、ハイリスクな患者、マクロライドで症状が悪化するなどのケースではキノロンを使うべきかもしれません。

 
[参考文献]

1)J Antimicrob Chemother. 2011 Mar;66(3):650-6.
2)Lancet. 2012 Aug 4;380(9840):484-90
3)Lancet. 2009 Apr 4;373(9670):1183-9.
4)Lancet. 2012 Sep 15;380(9846):986-93
5)Chest. 1989 Mar;95(3):639-46.

2012年11月11日日曜日

喫煙リスクと禁煙補助剤の効果


喫煙が体に悪そうなのはごくごく当たり前の認識のように思います。私自身、数年前に禁煙しましたが、それまでは120本程度喫煙しておりましたし、禁煙の難しさも十分わかっているつもりです。
実際にどの程度喫煙のインパクトがあるのかというと、つい最近、日本人におけるデータがBMJに掲載されました。1)この研究は広島・長崎で実施された日本人を対象とした前向きコホート研究です。対象患者は27311名の男性及び、40662名の女性で1963年から1992年まで観察されました。最初の喫煙状況が確認できてから1年後の死亡を200811日まで解析し、プライマリアウトカムは過去の非喫煙と現時点における総死亡です。その結果はなかなか衝撃的でした。タバコを吸い続けた人はその全般的な死亡リスクは非喫煙者と比べて
 ■男性:RR 2.21 (95%CI 1.97 to 2.48)
 ■女性:RR 2.61 (95%CI 1.98 to 3.44)
また平均寿命は約10年ほど短くなると示唆されました。平均余命は男性で8年、女性で10年減少という結果です。さらに35歳までに禁煙することでこれらリスクを大幅に回避できる可能性も示唆されており、喫煙リスクと禁煙動機付けには大変参考になる報告といえそうです。
そしてほぼ同時期にイギリスからも同様の報告がありました2)喫煙未経験者と比較して、ベースライン喫煙者では12年間の死亡率が約2.8倍増加しmortality rate ratio of 276 (95% CI 271281)ベースラインで1日当たり10本未満吸う女性でさえも、12年におけるの死亡リスクは2倍で、さらにこの研究でも喫煙者は少なくとも10年間の寿命を喪失し、40歳前の禁煙で喫煙継続による死亡リスク90%、30歳前の禁煙で死亡リスク97%が回避可能という可能性が示唆されました。
このような研究から少なくとも30代での禁煙が望ましく、そのまま喫煙をし続けると喫煙をしない人に比べて10年くらい寿命が短くなるかもしれないということが否定できない可能性があるということが分かります。
では高齢なってからの禁煙はもう遅いのかという問題がありますが、60歳以上の患者で
非喫煙者に比べて喫煙者では、全死因による死亡リスクが83%高くなり、また元喫煙者は喫煙歴のない人に比べて死亡リスクが34%高かったが、喫煙をやめることでリスクが減少するというメタ分析もあります。3)
喫煙をする本人はもちろんですが、間接喫煙による他人への影響も忘れてはいけません。
中国でのコホート研究では17年間、間接喫煙にさらされると
CHDリスクRR2.15(95%CI 1.00-7.66)
■虚血性脳卒中RR2.88,95%CI 1.10-7.55
■肺がんRR2.0095%CI 0.62-6.40
COPD RR2.30(95%CI 1.06-5.00)
■総死亡 RR1.72(95%CI 1.29-2.20)
肺癌には有意差がつきませんが死亡リスクの相関は用量依存を認めるとされています。
  ここまでくると禁煙の重要性があたらめてわかるかと思います。ただ実際に禁煙するにはどうしたらよいのでしょうか。私個人的には「気合で禁煙」をお勧めしています。ちなみに余談ですが「禁煙すると体重が増えますか?」という質問を受けたことがありますが、その答えは「増える可能性が高いです!」ということです。適当に言ってるわけではないではありませんよ!12ヶ月間で禁煙を達成した人の体重変化をメタ分析で検証した報告がBMJから出ているのです。4)禁煙成功12ヶ月後の平均体重増加は45kgという感じです。ちなみにニコチン置換療法・バレニクリン:気合で禁煙の全てで体重は増加しています。だいたい2カ月を超えると体重は増える傾向にあるようです。
 そんなわけで禁煙には体重増加の可能性があるわけですが、やはり喫煙のリスクのほうが高そうです。なんとか気合で禁煙したいものですが、難しいことのほうが多いでしょう。ニコチン置換療法、いわゆるニコチンパッチ製剤とかニコチンガムみたいなものだと思いますが、個人差も多いのかなという印象です。私個人的にはこれで禁煙はできませんでした・・。
 ニコチン置換療法のエビデンスについて少し「Minds」でコクランレビューを調べてみると・・。
■NRT製剤全体のコントロールに対する禁煙のRR1.5895CI1.501.66
■ニコチンガム1.4395 CI: 1.331.53, 53試験)
■ニコチンパッチ1.6695 CI: 1.531.81, 41試験)
■ニコチン吸入剤1.9095 CI: 1.362.67, 4試験)
■ニコチン舌下錠/ロゼンジ2.00(95 CI: 1.632.45, 6試験)
■ニコチン経鼻薬2.02(95 CI: 1.493.73, 4試験)
商業的に利用可能なすべてのNRT製品(ガム、皮膚貼付剤、鼻腔スプレー、吸入薬および舌下錠/ロゼンジ)は禁煙を試みる人々の禁煙の可能性を増大し、NRTは状況にかかわらず、禁煙率を50%~70%引き上げるという結論のようです。5ただその後の禁煙維持が達成できているかどうか大きな問題です。ちなみにMindsを検索するときの個人的なお勧めはグーグル検索ボックスに、“疾患名”+“Minds”で検索するとピンポイントでヒットする可能性が高いです。私のパソコンではMinds内での検索スピードがやや遅いのでこちらのほうが効率が良い場合が多いです。
 経皮ニコチン置換製剤が本邦ではポピュラーな方法ですが長期的な治療継続の成功率が良いようです。6この研究では成人喫煙者568名を対象して、プラセボ対照ランダム化比較試験で経皮的ニコチンパッチによる長期治療(24週間)と標準治療(8週間)の禁煙効果を比較しています。その結果、長期治療群で標準治療群に比べ、24週時点の禁煙率および禁煙継続率が高かったという結論です。さらに治療脱落も低く脱落からの復帰も多いことが示唆されています。喫煙再開までの期間も短いという結果でした。長期療法vs短期療法の結果は以下の通りです。
■禁煙成功率31.6% vs. 20.3%; OR1.81 [95% CI, 1.23 to 2.66]; P = 0.002
■長期的な禁煙率41.5% vs. 26.9%; odds ratio, 1.97 [CI, 1.38 to 2.82]; P = 0.001
■継続的な禁煙率19.2% vs. 12.6%; odds ratio, 1.64 [CI, 1.04 to 2.60]; P = 0.032
■脱落リスクhazard ratio, 0.77 [CI, 0.63 to 0.95]; P = 0.013
■脱落からの復帰hazard ratio, 1.47 [CI, 1.17 to 1.84]; P = 0.001
■喫煙再開までの期間hazard ratio, 0.50 [CI, 0.35 to 0.73]; P < 0.001
 近年バレニクリンという経口禁煙補助薬が市場にでましたが、一過性の意識消失の副作用が問題となり、服用中は原則、自動車の運転ができないこととなっています。


 そんなバレニクリンではありますが、実際の効果はどの程度なのでしょうか。ここではややハイリスクな患者を想定して臨床疑問をPECOで定式化してみましょう。
P:禁煙をしたいと思う心血管疾患既往のある喫煙者に
E:バレニクリンの投与は
C:プラセボと比べて
O:禁煙成功率は上昇するか?
みたいな感じでしょうか。今回もpubmed Clinical Queries 使ってみましょう

検索ワードはやや不適切かもしれませんが「varenicline  Cardiovascular Disease」で行きます。治療効果を見たいのでできればランダム化比較試験を検索したいところです。検索結果はこんな感じです。(20121111日)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=(Therapy%2FNarrow%5Bfilter%5D)%20AND%20(varenicline%20%20Cardiovascular%20Disease)

上から5つ目のEfficacy and safety of varenicline for smoking cessation in patients with cardiovascular disease: a randomized trial.がよさそうです。7
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20048210
この試験は35歳~75歳の714人の安定した心血管疾患を有する喫煙者を対象にバレニクリンとプラセボにランダム割り付けを行った2重盲検比較試験です。プライマリアウトカムは9週から12週の禁煙達成率です。統計解析はintention-to-treatですが追跡率は82.8%とやや脱落が多い印象です。禁煙治療の難しさが反映されているのでしょうか。患者背景に大きな違いが無く、妥当性はまずまずのようです。プライマリアウトカムの結果は以下のようです。
バレニクリン群:47.0
■プラセボ群:13.9
■dds ratio, 6.11; 95%信頼区間4.18 8.93

少し結果を詳細にみていきましょう。総対比は約6倍バレニクリンのほうが達成率が良いという感じです。絶対差では4713.933.1
ここからNNT1/0.331 =3.02NNT=4人と計算できます。禁煙をしたいと思っているこの研究の対象患者がバレニクリンを飲むと4人に1人は禁煙が成功するという結果で、3人は無駄にバレニクリンを飲んだみたいなことになっています。NNT=4という数字はごくごく一般的に考えれば驚異的な数値ですが、禁煙達成を考えた場合4人に1人という数字をどう受け止めるか、意外と効果ないなあみたいな気持にもなります。さらに結果の続きを見ていくと
死亡リスク:バレニクリン0.6% プラセボ1.4%; difference, -0.8%; 95% CI, -2.3 to 0.6と有意な差は出ませんでした。
心血管リスクも同様にバレニクリン0.5% プラセボ6.0%; difference, 0.5%; 95% CI, -3.1 to 4.1と差はありません。
またこの試験では52週まで観察を継けており、禁煙維持率を見ていきますと、バレニクリン群は12週で54.1%ですが、24週で34.9%、52週で27.9%とほぼ半分に減ってしまいます。それでもプラセボ群とは有意な差はありますが、プラセボ群でも52週の禁煙維持率は15.9%です。要するに気合で禁煙しても15%以上は禁煙できる可能性がしかも、52周維持できる可能性があることを軽視すべきではありません。バレニクリンという薬剤には先ほども述べた意識消失という副作用以外にも今回の対象患者にとってはあまりよろしくない副作用が指摘されているのです。

 先ほどのPubmed 検索ワードはそのままにレビューを検索してみます。」
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=systematic%5Bsb%5D%20AND%20(varenicline%20%20Cardiovascular%20Disease)
上から4つ目にCMAJのメタ分析が検索されます8
14のランダム化比較試験における喫煙者8216名を対象にメタ分析を行い、バレニクリンと心血管リスクについて評価しています。評価者バイアスへの対策は2名の評価者を置くことで対応しています。プライマリーアウトカム:虚血性あるいは不整脈による全心血管イベント(心筋梗塞、不安定狭心症、冠状動脈再建、冠動脈疾患、不整脈、一過性脳虚血発作、卒中、突然死、または心血管イベント関連死、あるいは鬱血性心不全)です。
結果はバレニクリンはプラセボに比べて重大な心血管イベントが多いということでした。
■バレニクリン:1.06% [52/4908]
■プラセボ: 0.82% [27/3308
Peto odds ratio [OR] 1.72, 95%CI 1.092.71; I2 = 0%
異質性バイアスも極めて低く元論文はランダム化比較試験。これは軽視できない結果です。先ほどの禁煙達成効果、その費用、そして意識消失リスクや、この心血管イベントリスク、それらを踏まえると禁煙にバレニクリンを使用すべきかどうかという問題が見え隠れします。もちろん対象患者による熟慮は必須でしょう。問題なのはただ漫然とバレニクリンで禁煙を試してみろというルーチン作業はいささか問題があるかもしれません。

[参考文献]
1) Impact of smoking on mortality and life expectancy in Japanese smokers: a prospective cohort study BMJ2012;345:e7093
2)The 21st century hazards of smoking and benefits of stopping: a prospective study of one million women in the UK The Lancet, Early Online Publication, 27 October 2012
3) Smoking and All-Cause Mortality in Older People: Systematic Review and Meta-analysis Arch Intern Med. 2012;172(11):837-844. doi:10.1001/
4) Weight gain in smokers after quitting cigarettes: meta-analysis BMJ 2012; 345 doi: 10.1136/
5) Cochrane Database of Systematic Reviews 2008, Issue 1. Art. No.: CD000146
6)Effectiveness of Extended-Duration Transdermal Nicotine Therapy: A Randomized Trial Ann Intern Med. 2 February 2010;152(3):144-151
7)Circulation. 2010 Jan 19;121(2):221-9. Efficacy and safety of varenicline for smoking cessation in patients with cardiovascular disease: a randomized trial.
8)CMAJ. 2011 Sep 6;183(12):1359-66. Risk of serious adverse cardiovascular events associated with varenicline: a systematic review and meta-analysis.