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2012年11月30日金曜日

乗り物酔い予防について


乗り物酔いは、その名の通り乗り物により耳の鼓膜の先にのある三半規管の加速センサーが反応し続け、空間認識の乱れから、人によって吐き気やめまいを引き起こす症状です。その日の体調や心理状況にも影響を受けるといいます。

まずは乗り物酔い防止薬Wikipediaからです。概要を引用いたしますと、

「乗り物酔いを起こす動物の種類が限られており、動物実験が困難であるため研究はあまり進んでいない。現在は主に抗ヒスタミン薬やスコポラミンが使われているが、実験による裏付けが必ずしも十分でなく、効果や副作用の点で問題が少なくない。今後の新薬開発の余地が多く残されている分野であると言える。いずれの薬も嘔吐が始まってからでは効果が期待できないため、成分にもよるが、一般に乗り物に乗る30分~1時間前に服用する。乗り物酔いは心理的効果が大きく現れるため、プラセボ効果も無視できない。」

引用終わり

プラセボ効果を含めてその対策は有効かもしれません。通常ドラックストア等で市販されている薬剤は抗ヒスタミン薬(メクリジン、ジフェンヒドラミン等)とスコポラミンの合剤が主流です。

一般的な制吐薬であります、医療用のドンペリドンやメトクロプラミドなども使用されることもあるようですが、厳密には乗り物酔いの予防に対する保険上適応はありません。まずは医療用のこの2種類の制吐薬について、作用機序については教科書にお任せして、臨床的な違いを簡単にまとめてみます。

■臨床的な有効性ですが、メトクロプラミド30mg/日と比較してドンペリドン30-60m/日は有意な差は認められていないそうです。1)
■ドンペリドンは妊婦に対しては添付文書に禁忌の記載あります。ラットによる動物実験のいて骨格、内臓異常等の催奇形作用が報告されているとしています。
■一方でメトクロプラミドの妊婦に関する添付文書の記載は治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与するという内容です。

  ドンペリドンは感染性胃腸炎などでも非常によく処方されるポピュラーな薬剤ですが、個人的にはそのリスクが気になります。ドンペリドンの使用と心室性不整脈や突然死に関連が示唆されるとの報告2)があり高齢者や小児では特に注意が必要と感じています。
ドンペリドンやメトクロプラミドは保険上、乗り物酔い予防に適応がないこともあり、個人的にはこれら薬剤の使用はあまり、お勧めできません。

実際に乗り物酔い予防に対する治療エビデンスってあるのでしょうか。Pubmed Clinical Queries で調べてみましょう。乗り物酔い・・恥ずかしながら英語で何と言うのか知りませんでした。
キーワードは「motion sickness」です。

レビューの3つ目にコクランがありますね!ラッキーです。さっそく読んでみます。
Scopolamine (hyoscine) for preventing and treating motion sickness.
Cochrane Database Syst Rev. 2011 Jun 15;(6):CD002851.

スコポラミンの乗り物酔いに対する有効性を評価したランダム化比較試験のメタ分析です。2名の評価者が独立して評価を行っています。
14研究、1025例が解析対象です。スコポラミンは経皮パッチ、錠剤またはカプセル剤、経口溶液または静脈経由で投与されたものを含んでいます。スコポラミンは、プラセボ、カルシウムチャネル拮抗薬、抗ヒスタミン剤、methscopolamineまたはスコポラミンとエフェドリンの組み合わせと比較されています。
 
乗り物酔い予防に関する結果をまとめると
■スコポラミンはプラセボと比較して有効性が高い
■スコポラミンは他の薬剤と比べてほとんど有効性は変わらない。
 Methscopolamineよりは高いが抗ヒスタミン薬とは同等
スコポラミンは他の薬剤に比べて視野異常やめまい、眠気の副作用が多いとの記載もあります。口渇も多いようです。乗り物酔いに対してスコポラミンはプラセボよりも有効であるとするものの、他の薬剤との比較はデータが不足しており検証できないというような結論です。

もう少しグーグルで「乗り物酔い エビデンス」などの検索ワードで探していると、乗り物酔い予防に関する全体的なレビュー文献が見つかりました。

Managing motion sickness
BMJ2011;343:d7430

summaryを見てみますと
■習慣等の行動療法は有効であるといわれており、副作用も少ないが、退屈で時間もかかる。
■スコポラミンの経口製剤および経皮パッチは、臨床で確立されるために効果的な予防薬であり、スコポラミン点鼻スプレーも、乗り物酔いの予防に有効であることを示唆している
■リスクベネフィットを考えればスコポラミン以外の薬物の使用を支持するエビデンスは弱い。
■生姜の摂取や指圧バンドなどの伝統療法は乗り物酔い予防に関する明確な有効性は示されていない。
  スコポラミンは乗り物酔い予防に一定の効果がありそうです。市販の薬剤ではこれに抗ヒスタミン薬が配合されていますが、その併用効果に関してはわかりません。スコポラミンは抗コリン作用による副作用も多いので注意が必要です。
  生姜に関する記載がありましたが、乗り物酔いに生姜が効くという情報はインターネットでよく見かけます。実際のところどうなのでしょうか。
  生姜は抗ヒスタミン薬のジメンヒドリナートよりも酔い止め効果が高いという報告もあるようです3)論文詳細はかなり古いもので確認できていませんが、どうやらランダム化較試験のようです。こちらに引用されていました。文献19です。

乗り物酔いにはプラセボ効果も影響しますので、生姜は試してみてもよさそうです。生姜エキスはサプリメント等で健康食品としても販売されているようです。介入コストが安い点が魅力ですね。
 
乗り物酔い予防に関して個人的な結論まとめますと
■スコポラミンは乗り物酔い予防に有効かもしれない。
■スコポラミンは抗ヒスタミン薬に比べて副作用が多い。
■生姜エキスは試す価値があるかもしれない。
■抗ヒスタミン薬がどの程度有効かはわからない。
■ドンペリドンは使用すべきではない。

なおスコポラミンは泌尿器、眼科等へ受診されている方では服用が難しいケースもありますので
実際の服用にあたりましては、年齢、基礎疾患等、様々な要因での副作用に留意するとともに、必ず、かかりつけの医師あるいは購入時に薬剤師へ相談することをお勧めいたします。

[参考文献]
1)    Br J Clin Pract. 1991 Winter;45(4):247-51.
2)    Drug Saf. 2010; 33: 1003-1014.
3)    Lancet 1982;1:655-7

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