[お知らせ]


2012年12月21日金曜日

地域医療の見え方~エビデンスとコミュニティ~


トップが優秀なら組織も悪くない・・。どこかで聞いたようなセリフだが。全ての組織が悪いとは言わない。ただある種の組織は、思考停止を存続させるためにあるようなものである。「事なかれ主義」。決断をすることなく問題を放置する消極的な考え方が悪いとは言わないが・・自分はできるところまで頑張ってみたい。とそう思う。事なかれ主義に巻き込まれるのはごめんだ。そんな思いから道をそれていった先にEBMやプライマリケアがあった。その結果、どうなったかなんてまだよくわからないけれど、ただ、この経験は、とても大きかった。薬剤師として薬物治療とか、そういう枠が消えたような気がして。いや消えてしまったというほうが正確か。何せ、何も知らないことに気付いたから。そもそも病気とはなんだ。病気の早期発見でいったい何がもたらされるのだ。薬の効果がどうとか、そんなことではなく、健康とか病気とか、そういうところから始めてみたい。

高コレステロールをスクリーニングして、スタチンを投与することがそれほど大事か・・。血圧が少々高めであることの何が問題なのだ。中性脂肪はほっとけという考えもありじゃないか。確かに糖尿病では早期介入が重要だと思う。しかしそれが本当に患者のQOLを改善しているかは別問題だ。医療は必ずしもQOLなんて改善しないものだ。前立腺がんは手術して全摘除すべきかどうか・・経過観察と何が違うのか。コリンエステラーゼ阻害薬の早期介入で軽度認知機能障害から認知症への進行が抑制できるのか。そもそも健康診断で死亡は減るのか。特定健診で死亡は減るのか。明確な答えが、明確にはない、ということだけが今となっては明確に分かる。

明確なエビデンスなんて嘘っぱちだ。たとえ統計的に明確であったとしても、その治療をすべきかどうかが明確なわけではないということが重要だ。そもそも統計的にも意味の無いもののほうが多いのだが。このようなエビデンスがあるからこうやった というのはEBM ではなくEvidence-Biased Medicine なのだ。統計的に意味のある差と臨床的に意味があるかどうかは全く別の問題だ。むしろエビデンスは曖昧なものでしかない。本来ひとつの臨床判断が1つのエビデンスで明確に規定されることなどないのだ。しかしながら、1つの情報が大きな偏りを生じ、その大きなバイアスの中で医療というものが存在している構造が垣間見える。

だから、1つの症状や1つの病気にとらわれす、さらに薬の効果云々等という話ではなく、もっと患者全体を扱う方法を考えたい。いや患者という枠ではなく地域全体という枠で考えていきたいと思う。

エビデンスとコミュニティ、新しい地域医療の見え方が・・。見え隠れしています。

2012年12月19日水曜日

薬剤熱(Drug Fever)のアセスメント


【薬剤熱について】

薬剤熱は薬物により発熱をきたす症状です。皮膚に関する症状が無い薬物への発熱反応であるといいます。正確な作用機序は不明ですが、その頻度は入院患者の実に10%に発生すると推定されています。1)通常の発熱と異なり頻脈傾向はみられず、除脈傾向なことが多いそうです。また発熱の割に元気であることも多いといわれています。白血球数や炎症反応に関する臨床所見も上昇するため通常の感染症との鑑別が難しいこともしばしばだそうです。薬剤熱は薬剤熱と疑ってかからないとなかなか鑑別できません。 

【薬剤熱の作用機序】

明確な機序は不明ですが、一般的には以下の点が指摘されています。
■薬物誘発性抗体による免疫応答2)
■薬剤による抹消放熱抑制4)
■代謝の亢進4)
■内因性発熱物質の放出促進4)

【薬剤熱の経過】

薬剤熱は原因薬剤の投与後710日後に発症し、通常薬物中止後48時間以内に解熱するといわれています。2)3)4)半減期が長い薬物ではそれ以上になることもあります。投与中止後、再度原因薬剤を投与すると高確率で発熱が再発します。多くの場合薬剤中止で経過は良好ですが、入院期間や病院滞在日数は延長します。5)
 
【薬剤熱の原因薬剤】

薬剤の多くが原因となりえますが、一般的にその頻度が高いものとして、ペニシリン系抗菌薬やセファロスポリン、抗結核薬、キニジン、プロカインアミド、メチルドパ、フェニトイン等が挙げられています。4)抗菌薬は薬剤熱の主要な原因といわれていますが、具体的には以下の薬剤の報告が挙げられています。5)

■アミカシン,              ■オキサシリン    ■セフォタキシム
■セフトリアキソン.      ■リファンピシン   ■バンコマイシン
■シプロフロキサシン  ■イソニアジド     ■クロトリマゾール

その他サイアザイド系やループ等の利尿薬も原因薬剤として頻度が高いといわれています。また作用機所から薬剤性高体温を起こしやすい主な薬物は以下のとおりです。

■抗コリン薬:抹消放熱抑制
■甲状腺ホルモン薬、サリチル酸:代謝亢進
■フェノチアジン系薬剤:体温中枢障害

【まとめ】

薬剤熱は、それに気づかないことで、本来不要な治療や投薬をしたり、入院期間や患者負担は増大します。実際に発熱した患者を目の前に、感染症を疑い、抗菌薬を投与したものの解熱せず、抗菌薬を変更するケースもあると思いますが、患者の状態を良く観察しながら、この薬剤熱というものを意識することで、不明熱の原因が見えてくるかもしれません。薬剤師としては薬剤誘発性の発熱というものを薬の副作用アセスメントとして常に頭の片隅に置いておく必要があると感じます。


[引用文献]
1)Drug fever. Infect Dis Clin North Am. 1996 Mar;10(1):85-91.
2)Drug fever.JAMA. 1981 Feb 27;245(8):851-4.
3)Drug fever Pharmacotherapy. 2010 Jan;30(1):57-69 
4)Drug-induced fever.Drug Intell Clin Pharm. 1986 Jun;20(6):413-20.
5) Drug Fever: a descriptive cohort study from the French national pharmacovigilance database
 Drug Saf. 2012 Sep 1;35(9):759-67.

2012年12月16日日曜日

小児の咳に効く薬はありますか?


小児の夜間の咳は、その親の心配な原因の一つかと思います。咳が収まりとりあえず寝付いてくれればその不安も和らぐことが多いでしょう。小児の風邪の症状では発熱も心配ではありますが、夜間の咳に対する治療が子供も含めた両親の安心感につながる重要な治療だと思います。

小児外来ではツロブテロールテープ剤が処方されることも多いと思いますが、本来は気管支喘息,急性気管支炎,慢性気管支炎,肺気腫による気道閉塞性障害に基づく呼吸困難症状の改善に適応があります。明らかな適応がない場合については、風邪の咳止めとして安易な使用は控えるべき薬剤ではないかなと思います。

医療機関の診療が終了してしまった夜間、救急外来へ行くまでもないけれども咳がつらそうなので、市販の咳止めOTC薬の購入を検討するケースもあるかと思います。OTC咳止めは効果があるのでしょうか。

OTC咳止めは本当に効くのか?】

Over-the-counter medications for acute cough in children and adults in ambulatory settings.
Cochrane Database Syst Rev. 2012 Aug 15;8:CD001831.

急性咳嗽に対する経口OTC鎮咳薬の効果を検討したシステマテックレビューです。

P:小児または成人患者に
EOTC咳止め薬を投与すると
C:プラセボに比べて
O:咳の症状はどうなるか

ランダム化比較試験のシステマテックレビューで2名のレビューアーが評価しています。
これによれば、鎮咳薬(2研究)、抗ヒスタミン薬(2試験)、抗ヒスタミン薬+充血除去(2試験)及び鎮咳薬/気管支拡張剤の組み合わせ(1試験)は、いずれもプラセボに比べて明確な差が出なかったとしています。市販のOTC医薬品の咳に対する効果は明確なエビデンスに乏しいという衝撃的なレビューです。

【子供の咳には、はちみつが効く?】
インターネットで咳に対する民間療法をしらべてみると蜂蜜が効果があるような記載があります。小児の咳に関してアメリカ小児学会誌に興味深い論文が掲載されています。
Effect of Honey on Nocturnal Cough and Sleep Quality: A Double-blind, Randomized, Placebo-Controlled Study
Pediatrics. 2012 Sep;130(3):465-71

P小児上気道感染症、夜間の咳、が続く1から5歳までの300人の小児
E:ユーカリ蜂蜜10g就寝前投与64
E:柑橘類の蜂蜜10g就寝前投与62
E:シソ科の蜂蜜10g就寝前投与73
C:プラセボの就寝前投与71
O:咳の症状
2重盲検ランダム化比較試験です。
3種類全ての蜂蜜製品およびプラセボ群では、治療の夜に、治療前の夜から有意な改善があり、その改善は蜂蜜グループのほうが大きかったという結果でした。

 

小児における蜂蜜の咳に対する効果はコクランでもレビューされていました。
Honey for acute cough in children
Cochrane Database Syst Rev. 2012 Mar 14;3:CD007094.




   P外来における2歳~18歳の小児
E:蜂蜜単独または抗菌薬と蜂蜜の併用
C:無治療またはプラセボあるいは他の鎮咳OTC
O:小児の急性の咳症状

ランダム化比較試験のシステマテックレビューです。
2名のレビューアが独立して評価しています。
このレビューでは蜂蜜は咳の症状緩和に無治療、あるいはジフェンヒドラミンよりも良いかもしれないがデキストロメロルファンより効果が優れているといえないとして、蜂蜜の使用について明確な根拠が不足しているという結論でした。
咳の症状に対して7ポイントのリッカート尺度を用いて検討した蜂蜜の効果は、無治療に比べて咳の頻度を減らしていますが、論文のバイアスが高いとしています。
mean difference (MD) -1.07; 95% CI -1.53 to -0.60; 2試験154例を対象)

  蜂蜜は無治療に比べて、そして市販薬のリスク、ベネフィット、コストを考慮すれば、市販薬よりその使用を検討する価値は十分あるのかなと思います。ただ、蜂蜜の中には芽胞を形成し活動を休止したボツリヌス菌が含まれている場合があり、1歳未満では乳幼児ボツリヌス症を引き起こすことがあるため注意すべきです。

【ベポラッブって本当に効くんですか?】
テレビのCMでもおなじみで昔からある、胸に塗る外用薬剤ですが、これって本当に効くのでしょうか?その有効性分は以下のような感じです。
dl-カンフル■テレビン油 ■l-メントール ■ユーカリ油 ■ニクズク油 ■杉葉油 添加物:チモール、ワセリン

いまいちピンときません。実はこの薬剤、検証された臨床試験がアメリカ小児学会誌に掲載されていました。
Vapor Rub, Petrolatum, and No Treatment for Children With Nocturnal Cough and Cold Symptoms
Pediatrics. 2010 Dec;126(6):1092-9.
http://pediatrics.aappublications.org/content/126/6/1092.long

P:2から11歳の138例の小児
E:ベポラッブ44
E:ワセリン47
C:無治療47
O咳の症状はどうなるか?
2重盲検ランダム化比較試験です。
症状スコアは無治療群に比べてベポラップ群ではスコアが改善したが、ワセリンは、各症状に対して無治療よりも有意に良好ではなかった。刺激性の副作用は、ベポラップ使用の参加者でより多くみられた。という結果でした。さらに小児やその両親の睡眠障害も改善しています。

 
【ベポラッブは安全な薬なのでしょうか?】

本邦ではこの薬剤6カ月から使用できるとされています。外用剤ですし、含まれている有効成分を見てもそれほど危険な薬剤ではなさそうですが・・。ただ少し気になる報告が、CHEST誌に掲載されています。
Vicks VapoRub Induces Mucin Secretion, Decreases Ciliary Beat Frequency, and Increases Tracheal Mucus Transport in the Ferret Trachea
CHEST. January 2009;135(1):143-148. doi:10.1378/chest.08-0095

論文のイントロダクションで18カ月の健康患児が鼻の下に塗ったことで呼吸困難を引き起こした症例報告の記載があります。この論文自体は動物実験ではあるものの薬剤の刺激で気道粘液の分泌が亢進し、抹消気道閉塞を示唆した文献で、軽視できないものかなと思います。先のアメリカ小児学会誌の報告も対象患者が2歳以上からでしたので、基本的には2歳未満の患者への使用や鼻の下には塗布しない、7日以上使用しないという点に留意すべきだと思います。

【結局のところ、どうしましょうか】
個人的な結論ですが、基礎疾患(喘息等)がないと仮定した場合を考えてみます。

市販の総合感冒薬、多数の薬剤が配合されておる点が少し問題かなと思います。ポリファーマシーのde-escalation“薬をいかに使用しないか” でも触れましたが、小児においても多剤併用は薬剤による有害事象が増加します。Br J Clin Pharmacol. 2010 Sep;70(3):409-17.
またOTC咳止めに明確な効果が期待できないとすると、2歳以上で夜間急な咳の発症で寝付けない時、市販薬を買うのであればベポラッブ、あるいは、はちみつを寝る前に飲ませるのも良いかもしれません。ただはちみつは、1歳未満には使用するべきではありませんし、ベポラッブは2歳未満での使用は私はお勧めしません。また鼻の下には直接塗布しないこと、7日以上連用しないことが基本です。

2012年12月9日日曜日

ポリファーマシーのde-escalation “薬をいかに使用しないか”


「ポリファーマシー」最近この言葉を知りました。その明確な定義を私はあまりよく理解していないと思います。語弊があったら申し訳ないところですが、ごく簡単にいえば「多剤併用」ということでしょうか。多剤併用、それが果たしていいのか悪いのか、そのようなリテラシーすら私は持ち合わせておりません。薬剤師になり立てのころは、10種類以上の処方箋をみて、こんなに併用していいのか・・。なんて思ったこともあります。先輩に聞くと「そんなもんだよ~」「あ~、全く問題ないよ」みたいな答えが返ってきて、添付文書にも併用禁忌等の記載もなく、気がつけば多剤併用そのものに違和感を覚えなくなっていました。

薬剤の併用はベネフィットがあるのでしょうか

■花粉症における抗ヒスタミン薬とステロイド鼻噴霧の併用はよく行われると思いますが、併用による相乗効果に関して明確なエビデンスがないことはメーカーパンフレットにも実は引用されていたりもします。1)
■骨粗鬆症におけるビスホスホネート剤とビタミンD製剤の併用、これも実際は多いと思いますが、骨折リスク予防効果は併用により上昇するかどうか明確なことはわかりません2)
ARBまたはACE阻害薬と直接レニン阻害薬のアリスキレンの併用は腎保護効果がより期待できるのでしょうか。実際に併用するとリスクしか上昇しません。3)

薬理学を学んでいると作用機序の異なる薬剤の併用は相加・相乗効果があるように思えますが、実臨床ではそのような効果が期待できることのほうが稀と考えたほうが良いのかもしれません。実際に普段目にする併用薬剤についてこのような視点から疑問を持つことは重要です。たいして有効性が期待できない併用は意外と多いかもしれません

一般に薬剤を併用すればするほど副作用リスクは増加します。
小児を対象にした研究4)では薬剤併用数が増加するほど薬剤使用者の薬物有害反応発症リスクが増加するという結果でした。
Number of drugs used
Prevalence (%)
95% CI
Odds ratio
95% CI
1
1.00
0.8, 1.3
1
2
1.8
1.2, 2.7
1.8
1.1, 2.8
3
3.4
2.2, 5.1
3.5
2.1, 5.9
4+
7.2
4.7, 10.2
6.7
4.1, 11.0

(文献4より抜粋)

薬剤単独でもその副作用リスクというのは重大な問題ですが、服用薬剤が増えればそのリスクも増大するので当たり前の結果といえます。

ポリファーマシーについての定義を私なりに書き出してみます。
■処方薬剤が多い
■患者にとって不要な薬剤が処方されている
■明らかにリスクが想定される薬剤が処方されている
■本来使用すべき薬剤が処方されていない
■単純な重複投与

  処方薬剤の多さ、これはまた難しい問題ですが、何種類から「多い」のかという問題について様々な議論が必要かもしれません。ただ患者にとって不要な薬剤、これは個人的な経験上、ビタミンB12製剤の漫然投与等が該当しますが、このような薬剤や、明らかにリスクが想定される薬剤はその使用を避けるべきだと考えています。
  また本来使用されるべき薬剤が処方されていない(ワーファリン等)や単純な重複もポリファーマシーの問題とするべきなのかなと思います。単純な薬剤重複を回避するのはかかりつけ薬局薬剤師の使命でもあります。
薬剤相互作用は特に高齢者のように生理機能が低下した場合に起こりやすいといえます。
高齢者の処方に関してガイドラインがBMJに掲載されています。5)

Guidelines for good prescribing in elderly patients
Carry out a regular medication review and discuss and agree all changes with the patient
Stop any current drugs that are not indicated
Prescribe new drugs that have a clear indication
If possible, avoid drugs that have known deleterious effects in elderly patients, such as benzodiazepines, and recommend dosage reduction when appropriate
Use the recommended dosages for elderly patients
Use simple drug regimens and appropriate administration systems
Consider using once daily or once weekly formulations and using fixed dose combinations when possible
Consider non-pharmacological treatments if appropriate
Limit the number of people prescribing for each patient if possible
Where possible, avoid treating adverse drug reactions with further drugs
(文献5より抜粋)

定期的な薬の見直しを実施し、患者とのすべての変更を議論し、合意する
適応のないすべての現在服用している薬剤を中止
■明らかな適応を有する薬剤を処方する
■可能であれば、そのような高齢患者において、ベンゾジアゼピン等の有害な影響を与えうる薬を避け、投与量の適切な減量を推奨
■高齢患者に推奨される投与量を使用
■シンプルな薬物療法と適切な管理システムを使用
11回または週一回製剤を使用し、可能な場合は合剤の使用を検討
■適応が考えられれば、非薬物治療を考えよ
■可能であれば薬剤を処方する医療者の数を制限する
■可能であれば、薬剤副作用の薬物による治療を避ける


という感じです。具体的に高齢者に有害事象を及ぼす可能性のある薬剤も示されています。
Drugs that pose a particular risk for older people10

Drug
Adverse drug reactions
Long term non-steroidal anti-inflammatory drugs
Gastrointestinal haemorrhage, renal impairment, hypertension
Benzodiazepines
Falls caused by impaired balance
Anticholinergic drugs
Unmasking Alzheimer’s disease, urinary retention
Tricyclic antidepressants
Orthostatic hypotension, sedation
Chlorpropramide
Hypoglycaemia
Doxazosin
Orthostatic hypotension, dry mouth, urinary problems

(文献5より抜粋)

NSAIDsの長期投与やベンゾジアゼピン、抗コリン薬、三環系抗うつ薬、クロルプロマジン、α1遮断薬などは避けるべきとしています。

 ポリファーマシーの問題点について挙げてみましょう

■有害リスクの増加
■コストの増大
■服薬アドヒアランスの低下
■服薬における精神負担の増大
■調剤・服薬指導におけるインシデント・アクシデント増大の可能性

他にもさまざまな問題点があるかと思います。

ポリファーマシーと関連した薬物有害事象問題についてひとつ文献を見てみましょう
Emergency Hospitalizations for Adverse Drug Events in Older Americans
N Engl J Med 2011; 365:2002-2012
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMsa1103053

この報告によれば65歳以上の高齢者における薬物有害事象による緊急入院は推定99628例(95%信頼区間55531143724)で、これらの入院の半分近く48.1%;95% CI, 44.6 to 51.6)が80歳以上であったそうです。入院の約3分の265.7%;95% CI, 60.1 to 71.3)は意図しない薬剤の過剰投与によるものであったと報告しています。以下の4種類の薬物が緊急入院の67.0% (95% CI, 60.0 to 74.1)に単独もしくは併用で投与されていたとしています。

■ワルファリン(33.3%)
■インスリン(13.9%)
■経口抗血小板剤(13.3%)
■経口血糖降下剤(10.7%)

高齢者の薬物有害事象による緊急入院は一般的に使用される薬剤から生じ、逆にハイリスクといわれる薬剤からの有害事象による緊急入院は少数1.2% (95% CI, 0.7 to 1.7)

抗血栓および抗糖尿病薬の管理の向上は高齢者における薬物有害事象による入院を減少させる可能性を持っていると結論付けています。

医学・薬学の発展で新薬や新規作用機序の薬剤が登場すればするほど薬物治療は複雑になり多剤併用へ向かう傾向にある気がします。併用根拠が明確ではないのに漫然と併用されているケースが多く散見されることもまた事実です。そもそもガイドラインにおいても併用を推奨している根拠がどれほど明確なものか不明なものもあります。OTC総合感冒薬をみているとポリファーマシーの縮図のように感じます。

市販の総合感冒薬にはおおむね以下の成分が配合されています。

アセトアミノフェン
ブロムヘキシン塩酸塩
ジヒドロコデインリン酸塩
ノスカピン
dl-メチルエフェドリン塩酸塩
リゾチーム塩酸塩
マレイン酸カルビノキサミン
無水カフェイン
ビスイブチアミン (ビタミンB1誘導体)
リボフラビン(ビタミンB2

上気道炎に解熱剤を服用しても風邪は早く治りません6)。ジヒドロコデイン等眠気の副作用をカフェイン配合で抑えるみたいな感じです。さらにビタミン剤が風邪を早く治すようなエビデンスはありません。これほどの薬剤が併用されることで引き起こされる副作用リスクは決して軽視すべきではないと思います。

薬があれば安心という患者さんからの声を聞くことがありますが、このような安心を与えざるを得ない構造がポリファーマシーを生み出しているのかもしれません。ポリファーマシーde-escalation、薬をいかに使用しないかという視点が我々医療者には重要な気がします。

最後に、とても参考になる書籍の紹介です。この記事もこの書籍の内容を参考にしております。

「提言日本のポリファーマシー (家庭医・病院総合医教育コンソーシアム)


 

[参考文献]

1)    Ann Allergy Asthma Immunol. 2008 Mar;100(3):264-71
2)    Curr Med Res Opin. 2011 Jun;27(6):1273-84. Epub 2011 May 10
3)    N Engl J Med. 2012 Nov 3. [Epub ahead of print]
4)    Br J Clin Pharmacol. 2010 Sep;70(3):409-17.
5)    BMJ. 2008 March 15; 336(7644): 606–609.
6)    Intern Med. 2007;46(15):1179-86