以下の論文、現在も西アフリカで猛威を振るうエボラウイルス感染症に関する貴重な報告です。全文がフリーで公開されており、一読の価値があります。
Ebola Virus Disease in West Africa - The First 9
Months of the Epidemic and Forward Projections.
西アフリカ5か国、ギニア、リベリア、ナイジェリア、セネガル、シエラレオネにおいて、2014年9月14日までに4507例のエボラウイルス病(EVD)が確認されており、2296例が死亡している。症例数、死亡者数は確かに高く、国のデータベースに含まれていない研究室での診断例や診断されないまま埋葬されたEVD疑いのある症例など、診断や治療から回避されてしまった症候性症例も多数存在する。
この流行は2013年12月にギニアから始まり、WHOは2014年5月23日に急速なEVDアウトブレイクを通知した。8月8日WHOは流行が公衆衛生上の国際的懸念を要する緊急事態であると宣言した。最初のケースから9か月経過した9月中旬までに、多国籍企業や多部門の感染拡大阻止のための努力にもかかわらず、感染症例や死亡例は毎週、いまだに上昇している。流行はギニア、リベリア,シエラレオネの3国においていまだ拡大している。感染者への医療提供や感染拡大阻止のための管理措置実施の大きな課題に直面している
エボラウイルスは主に症候性感染者の体液の接触により拡散される。感染拡大は、早期診断、接触者の追跡、患者の隔離とケア及び感染制御、安全な埋葬により阻止される。西アフリカにおける流行以前において中央アフリカでのEVD発生は、多くが森林地帯で、その規模や地理的に拡散が制限されていた。過去の最大規模の発生はウガンダでグル、マシンジ、およびムバララの地区で発生した。2000年10月から2001年1月から3カ月間にわたり425例が発生し、この発生は、国際的な支援を得たうえで、地域の保健医療サービスを介して提供された感染拡大を最小限に抑えるための介入によって制御された。
この報告は9か月間にわたる、ギニア、リベリア、ナイジェリア、シエラレオネにおける流行の臨床的、人口統計的特徴をまとめたものである。
[臨床的・人口統計的特徴]
発熱(87.1%)、疲労感(76.4%)、食欲不振(64.5%)、嘔吐(67.6%)、下痢(65.6%)、頭痛(53.4%)腹痛(44.3%)。特異的な出血症状はまれであった(1%〜5.7%)が原因不明の出血(18%)
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全体
|
死亡
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回復
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オッズ比
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発熱
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1002/1151
(87.1)
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746/846
(88.2)
|
256/305
(83.9)
|
1.34
(0.92–1.95)
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疲労感
|
866/1133
(76.4)
|
633/829
(76.4)
|
233/304
(76.6)
|
0.94
(0.68–1.28)
|
食欲不振
|
681/1055
(64.5)
|
498/778
(64.0)
|
183/277
(66.1)
|
0.92
(0.69–1.23)
|
嘔吐
|
753/1114
(67.6)
|
566/816
(69.4)
|
187/298
(62.8)
|
1.19
(0.89–1.59)
|
下痢
|
721/1099
(65.6)
|
555/813
(68.3)
|
166/286
(58.0)
|
1.42
(1.06–1.89)
|
頭痛
|
553/1035
(53.4)
|
407/757
(53.8)
|
146/278
(52.5)
|
1.03
(0.78–1.36)
|
腹痛
|
439/992
(44.3)
|
311/715
(43.5)
|
128/277
(46.2)
|
0.85
(0.64–1.13)
|
胸痛
|
254/686
(37.0)
|
196/488
(40.2)
|
58/198
(29.3)
|
1.53
(1.07–2.20)
|
咳
|
194/655
(29.6)
|
150/462
(32.5)
|
44/193
(22.8)
|
1.74
(1.18–2.61)
|
嚥下困難
|
169/514
(32.9)
|
138/375
(36.8)
|
31/139
(22.3)
|
2.22
(1.41–3.59)
|
結膜炎
|
137/658
(20.8)
|
109/465
(23.4)
|
28/193
(14.5)
|
2.03
(1.29–3.29)
|
45歳以上
|
350/1378
(25.4)
|
299/1021
(29.3)
|
51/357
(14.3)
|
2.47
(1.79–3.46)
|
医療従事者
|
158/1429
(11.1)
|
112/1067
(10.5)
|
46/362
(12.7)
|
0.86
(0.60–1.27)
|
※詳細は原著参照
リスクファクターとして45歳以上、下痢、結膜炎、呼吸困難、嚥下困難、混乱、見当識障害、昏睡、原因不明の出血、歯茎の出血、鼻血、注射部位出血、膣からの出血
[致死率(Case fatality rate) 95%信頼区間]
|
4か国
|
ギニア
|
リベリア
|
ナイジェリア
|
シエラレオネ
|
全症例
|
70.8
(68.6–72.8)
|
70.7
(66.7–74.3)
|
72.3
(68.9–75.4)
|
45.5
(21.3–72.0)
|
69.0
(64.5–73.1)
|
入院例
|
64.3
(61.5–67.0)
|
64.7
(60.1–68.9)
|
67.0
(62.0–71.7)
|
40.0
(16.8–68.7)
|
61.4
(56.1–66.5)
|
医療従事者
|
69.4
(62.1–75.8)
|
56.1
(41.0–70.1)
|
80.0
(68.7–87.9)
|
NC
|
68.4
(55.5–79.0)
|
[感染拡大能力]
|
ギニア
|
リベリア
|
ナイジェリア
|
シエラレオネ
|
Ro値平均
[95%信頼区間]
|
1.71
(1.44–2.01)
|
1.83
(1.72–1.94)
|
1.2
(0.67–1.96)
|
2.02
(1.79–2.26)
|
倍加時間(日)
[95%信頼区間]
|
17.53
(13.18–26.64)
|
15.78
(14.4–17.37)
|
59.75
(13.27–∞)
|
12.84
(10.92–15.66)
|
R値平均
[95%信頼区間]
|
1.81
(1.60–2.03)
|
1.51
(1.41–1.60)
|
-
|
1.38
(1.27–1.51)
|
倍加時間(日)
[95%信頼区間]
|
15.7
(12.9–20.3)
|
23.6
(20.2–28.2)
|
NC
|
30.2
(23.6–42.3)
|
※Ro:基礎再生産数
(1 人が何人に感染させるかを示す。季節性インフルエンザで1.7~2.0、麻疹では12~18と言われている)
※R:実効再生産数
(集団の全てがその感染症に免疫がないとは限らない場合、あるいは集団が移動・移住などをして、定常状態ではない場合において、その全感染可能期間において、一人の患者が何人に感染させたか)
[潜伏期間]複数日数での暴露
全国
|
ギニア
|
リベリア
|
ナイジェリア
|
シエラレオネ
|
11.4±NA
|
10.9±NA
|
11.7±NA
|
NC
|
10.8±NA
|
対策に変化がないと仮定すると、2014年11月2日までに確認されると推定される累積症例数は、ギニアで5740例、リベリアで5000例、シエラレオネで5740例と全体で2万例を超えると予想される。
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