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2012年12月9日日曜日

ポリファーマシーのde-escalation “薬をいかに使用しないか”


「ポリファーマシー」最近この言葉を知りました。その明確な定義を私はあまりよく理解していないと思います。語弊があったら申し訳ないところですが、ごく簡単にいえば「多剤併用」ということでしょうか。多剤併用、それが果たしていいのか悪いのか、そのようなリテラシーすら私は持ち合わせておりません。薬剤師になり立てのころは、10種類以上の処方箋をみて、こんなに併用していいのか・・。なんて思ったこともあります。先輩に聞くと「そんなもんだよ~」「あ~、全く問題ないよ」みたいな答えが返ってきて、添付文書にも併用禁忌等の記載もなく、気がつけば多剤併用そのものに違和感を覚えなくなっていました。

薬剤の併用はベネフィットがあるのでしょうか

■花粉症における抗ヒスタミン薬とステロイド鼻噴霧の併用はよく行われると思いますが、併用による相乗効果に関して明確なエビデンスがないことはメーカーパンフレットにも実は引用されていたりもします。1)
■骨粗鬆症におけるビスホスホネート剤とビタミンD製剤の併用、これも実際は多いと思いますが、骨折リスク予防効果は併用により上昇するかどうか明確なことはわかりません2)
ARBまたはACE阻害薬と直接レニン阻害薬のアリスキレンの併用は腎保護効果がより期待できるのでしょうか。実際に併用するとリスクしか上昇しません。3)

薬理学を学んでいると作用機序の異なる薬剤の併用は相加・相乗効果があるように思えますが、実臨床ではそのような効果が期待できることのほうが稀と考えたほうが良いのかもしれません。実際に普段目にする併用薬剤についてこのような視点から疑問を持つことは重要です。たいして有効性が期待できない併用は意外と多いかもしれません

一般に薬剤を併用すればするほど副作用リスクは増加します。
小児を対象にした研究4)では薬剤併用数が増加するほど薬剤使用者の薬物有害反応発症リスクが増加するという結果でした。
Number of drugs used
Prevalence (%)
95% CI
Odds ratio
95% CI
1
1.00
0.8, 1.3
1
2
1.8
1.2, 2.7
1.8
1.1, 2.8
3
3.4
2.2, 5.1
3.5
2.1, 5.9
4+
7.2
4.7, 10.2
6.7
4.1, 11.0

(文献4より抜粋)

薬剤単独でもその副作用リスクというのは重大な問題ですが、服用薬剤が増えればそのリスクも増大するので当たり前の結果といえます。

ポリファーマシーについての定義を私なりに書き出してみます。
■処方薬剤が多い
■患者にとって不要な薬剤が処方されている
■明らかにリスクが想定される薬剤が処方されている
■本来使用すべき薬剤が処方されていない
■単純な重複投与

  処方薬剤の多さ、これはまた難しい問題ですが、何種類から「多い」のかという問題について様々な議論が必要かもしれません。ただ患者にとって不要な薬剤、これは個人的な経験上、ビタミンB12製剤の漫然投与等が該当しますが、このような薬剤や、明らかにリスクが想定される薬剤はその使用を避けるべきだと考えています。
  また本来使用されるべき薬剤が処方されていない(ワーファリン等)や単純な重複もポリファーマシーの問題とするべきなのかなと思います。単純な薬剤重複を回避するのはかかりつけ薬局薬剤師の使命でもあります。
薬剤相互作用は特に高齢者のように生理機能が低下した場合に起こりやすいといえます。
高齢者の処方に関してガイドラインがBMJに掲載されています。5)

Guidelines for good prescribing in elderly patients
Carry out a regular medication review and discuss and agree all changes with the patient
Stop any current drugs that are not indicated
Prescribe new drugs that have a clear indication
If possible, avoid drugs that have known deleterious effects in elderly patients, such as benzodiazepines, and recommend dosage reduction when appropriate
Use the recommended dosages for elderly patients
Use simple drug regimens and appropriate administration systems
Consider using once daily or once weekly formulations and using fixed dose combinations when possible
Consider non-pharmacological treatments if appropriate
Limit the number of people prescribing for each patient if possible
Where possible, avoid treating adverse drug reactions with further drugs
(文献5より抜粋)

定期的な薬の見直しを実施し、患者とのすべての変更を議論し、合意する
適応のないすべての現在服用している薬剤を中止
■明らかな適応を有する薬剤を処方する
■可能であれば、そのような高齢患者において、ベンゾジアゼピン等の有害な影響を与えうる薬を避け、投与量の適切な減量を推奨
■高齢患者に推奨される投与量を使用
■シンプルな薬物療法と適切な管理システムを使用
11回または週一回製剤を使用し、可能な場合は合剤の使用を検討
■適応が考えられれば、非薬物治療を考えよ
■可能であれば薬剤を処方する医療者の数を制限する
■可能であれば、薬剤副作用の薬物による治療を避ける


という感じです。具体的に高齢者に有害事象を及ぼす可能性のある薬剤も示されています。
Drugs that pose a particular risk for older people10

Drug
Adverse drug reactions
Long term non-steroidal anti-inflammatory drugs
Gastrointestinal haemorrhage, renal impairment, hypertension
Benzodiazepines
Falls caused by impaired balance
Anticholinergic drugs
Unmasking Alzheimer’s disease, urinary retention
Tricyclic antidepressants
Orthostatic hypotension, sedation
Chlorpropramide
Hypoglycaemia
Doxazosin
Orthostatic hypotension, dry mouth, urinary problems

(文献5より抜粋)

NSAIDsの長期投与やベンゾジアゼピン、抗コリン薬、三環系抗うつ薬、クロルプロマジン、α1遮断薬などは避けるべきとしています。

 ポリファーマシーの問題点について挙げてみましょう

■有害リスクの増加
■コストの増大
■服薬アドヒアランスの低下
■服薬における精神負担の増大
■調剤・服薬指導におけるインシデント・アクシデント増大の可能性

他にもさまざまな問題点があるかと思います。

ポリファーマシーと関連した薬物有害事象問題についてひとつ文献を見てみましょう
Emergency Hospitalizations for Adverse Drug Events in Older Americans
N Engl J Med 2011; 365:2002-2012
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMsa1103053

この報告によれば65歳以上の高齢者における薬物有害事象による緊急入院は推定99628例(95%信頼区間55531143724)で、これらの入院の半分近く48.1%;95% CI, 44.6 to 51.6)が80歳以上であったそうです。入院の約3分の265.7%;95% CI, 60.1 to 71.3)は意図しない薬剤の過剰投与によるものであったと報告しています。以下の4種類の薬物が緊急入院の67.0% (95% CI, 60.0 to 74.1)に単独もしくは併用で投与されていたとしています。

■ワルファリン(33.3%)
■インスリン(13.9%)
■経口抗血小板剤(13.3%)
■経口血糖降下剤(10.7%)

高齢者の薬物有害事象による緊急入院は一般的に使用される薬剤から生じ、逆にハイリスクといわれる薬剤からの有害事象による緊急入院は少数1.2% (95% CI, 0.7 to 1.7)

抗血栓および抗糖尿病薬の管理の向上は高齢者における薬物有害事象による入院を減少させる可能性を持っていると結論付けています。

医学・薬学の発展で新薬や新規作用機序の薬剤が登場すればするほど薬物治療は複雑になり多剤併用へ向かう傾向にある気がします。併用根拠が明確ではないのに漫然と併用されているケースが多く散見されることもまた事実です。そもそもガイドラインにおいても併用を推奨している根拠がどれほど明確なものか不明なものもあります。OTC総合感冒薬をみているとポリファーマシーの縮図のように感じます。

市販の総合感冒薬にはおおむね以下の成分が配合されています。

アセトアミノフェン
ブロムヘキシン塩酸塩
ジヒドロコデインリン酸塩
ノスカピン
dl-メチルエフェドリン塩酸塩
リゾチーム塩酸塩
マレイン酸カルビノキサミン
無水カフェイン
ビスイブチアミン (ビタミンB1誘導体)
リボフラビン(ビタミンB2

上気道炎に解熱剤を服用しても風邪は早く治りません6)。ジヒドロコデイン等眠気の副作用をカフェイン配合で抑えるみたいな感じです。さらにビタミン剤が風邪を早く治すようなエビデンスはありません。これほどの薬剤が併用されることで引き起こされる副作用リスクは決して軽視すべきではないと思います。

薬があれば安心という患者さんからの声を聞くことがありますが、このような安心を与えざるを得ない構造がポリファーマシーを生み出しているのかもしれません。ポリファーマシーde-escalation、薬をいかに使用しないかという視点が我々医療者には重要な気がします。

最後に、とても参考になる書籍の紹介です。この記事もこの書籍の内容を参考にしております。

「提言日本のポリファーマシー (家庭医・病院総合医教育コンソーシアム)


 

[参考文献]

1)    Ann Allergy Asthma Immunol. 2008 Mar;100(3):264-71
2)    Curr Med Res Opin. 2011 Jun;27(6):1273-84. Epub 2011 May 10
3)    N Engl J Med. 2012 Nov 3. [Epub ahead of print]
4)    Br J Clin Pharmacol. 2010 Sep;70(3):409-17.
5)    BMJ. 2008 March 15; 336(7644): 606–609.
6)    Intern Med. 2007;46(15):1179-86

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