(注意)以下の内容は、個人的なリスクベネフィットの整理のために、HPVワクチン(子宮頸癌予防のためのワクチン)に関する統計的、疫学的データを示したもので、ワクチンの接種を推奨、あるいは否定するものではありません。有効性、安全性に関するデータは更新されている可能性があります。ワクチン接種にあたっては、医療機関、及び担当の医師から十分な説明を受けることをお勧めします。誤り等ございましたらご指摘いただければ幸いです。
厚生労働省予防接種検討部会は2013年6月14日付でHPVワクチン(本邦では2価のサーバリックス、4価のガーダシルの2種類が発売されている)の「積極的な勧奨は一時やめる」との意見をまとめました。HPVワクチン接種後の複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)が報告されたためで、これを受け厚労省は対象者への接種の積極的呼びかけを中止するよう自治体に勧告したとのことです。
複合性局所疼痛症候群とワクチンの関連性については情報が少ないですが、
Complex regional pain syndrome following immunistion
この症例報告によれば、複合性局所疼痛症候群の病態自体が良くわかっておらず、その発症機序は軽度の外傷、骨折、感染症や外科手術などの物理的な損傷により起こるとしています。ワクチン成分によるものではないと考えられているようです。筋注という注射手技が影響している可能性もあります。紹介されている症例報告でのワクチンの種類はHPVワクチン4例の他、DPTワクチン1例でした。
本邦では厚生労働省のホームページにガーダシル3例、サーバリックス2例の複合性局所疼痛症候群と報告された症例一覧が掲載されています。現段階で因果関係を示す疫学的、統計的データはないようです。HPVワクチンと複合性局所疼痛症候群の関連性は不明というのが現段階での結論といえそうです。
HPVワクチンの安全性に関するメタ分析は2011年に報告されており、接種行為による軽微な副反応を除く副反応はコントロール群と比べてもほぼ同等であるという結果でした。
Efficacy and safety of prophylactic vaccines against cervical HPV infection and diseases among women: a systematic review & meta-analysis.
本邦におけるワクチンの副反応報告件数も厚生労働省のホームページに掲載されています。医療機関から報告された重篤な副反応は、以下の通りです。(厚労省第1回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会配付資料 5月16日掲載資料6-6)
■サーバリックス:13.1件/100万接種
■ガーダシル:8.9件/100万接種
■ヒブワクチン:7.9件/100万接種
■インフルエンザワクチン:0.9件/100万接種
■小児肺炎球菌ワクチン:8.2件/100万接種
重篤な副反応については100万摂取あたり約10件、10万回に1回発生する頻度で、インフルエンザワクチンに比べると圧倒的に多いですが、ヒブワクチンや小児肺炎球菌ワクチンと比べてもやや多い程度という感じです。
ただ副反応全体では多い印象ではあります。筋注という注射手技の影響や報告バイアスの影響も考えられますが、それでも多いなという感じです。
■サーバリックス:245.1件/100万接種
■ガーダシル:155.7件/100万接種
■ヒブワクチン:59.2件/100万接種
■インフルエンザワクチン:6.4件/100万接種
■小児肺炎球菌ワクチン :82.9件/100万接種
一方でワクチンの有効性についてはどうでしょうか。本邦においては導入以来、日が浅く、子宮頸癌を抑制できたとする報告は無いようですが、海外のデータでは子宮頸がんワクチン(4価)の有効性に関する2重盲検ランダム化比較試験が2010年にイギリスの医学誌BMJから報告されています。
Four year efficacy of prophylactic human papillomavirus quadrivalent vaccine against low grade cervical, vulvar, and vaginal intraepithelial neoplasia and anogenital warts: randomised controlled trial.
16歳から26歳の女性17599例を対象とした4価子宮頸がんワクチンの有効性を検討したプラセボ対照2重盲検ランダム化比較試験です。42か月の追跡で、ワクチンを3回接種したPer protocol解析での結果はコントロール群の子宮頸部の軽度異形成発症2.2%に対して、ワクチン郡での子宮頸部の軽度異形成発症0.09%であり、相対危険は0.04という驚異的な数字です。ここから算出されるNNTは47人でワクチンの有効性は96%という結果でした。海外データであり、潜在的なリスクも含めて日本人にそのままあてはまるかどうかは分かりませんが、目安として参考になると思います。なお本邦におけるHPVワクチン導入のインパクトとして厚生労働省は子宮頸癌の患者及び死亡を40%~70%程度減らすことができるとしており、さらに子宮頸癌検診と合わせて予防接種を実施することでより高い効果を得られるとしています。(厚労省第1回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会配付資料9-2)
以下に4価HPVワクチンのリスクベネフィットに関する定量的データをまとめます。
CIN1発症(※1)
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副反応発症リスク
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重篤な副反応リスク
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■相対危険減少96%
[95%CI 91.3~98.4]
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■相対リスク(※2)
1.00 [95%CI 0.91~1.09]
■発生頻度(※本邦)
100万接種に156件
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■発症頻度(※本邦)
100万接種に8.9件
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[NNT:47人]
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[NNH:6411件]
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[NNH:112360件]
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(※本邦)のデータは厚労省第1回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会配付資料6-6に基づいています。
(※1)CIN1:子宮頸部軽度異形成,ワクチン接種後42か月間における海外データ
(※2)海外のデータで2価ワクチンでの症例も含む。
比較が難しいところもあるかもしれませんが、目安としまして、まとめますと、
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