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2014年12月24日水曜日

EBMの思想

[エビデンスの使い方、今年1年の思索]
医療と一口に言っても様々な方法論や考え方が存在します。僕ら薬剤師が関わる医療の方法論とて多岐にわたります。分類することの愚かさは重々承知ですが、しいて言えば基礎薬学的知見に重きを置いた方法論(化学構造式や病態生理に基づく考え方)や疫学的知見に重きを置いた方法論(いわゆるEBMはどちらかと言えばこちらでしょうか)また、近年話題に上ることも多い、「ワクチンはうたない方がいい」とか、「癌はほっとけ」というような、やや極端な医療の考え方もあれば、漢方医療、風邪への抗菌薬投与、あるいはセルフメディケーション、こういったアプローチも医療の考え方の一つです。“正しい医療”とは何か、以前考察しました。


“正しい医療”なんて存在しなくても、個人的には、現在用い得る、ヒトに対する再現性の優れた、最新かつ妥当性の高い情報を利用しながら医療を行うべきという考え方は変わっていません。人に対する再現性の優れた、最新かつ妥当性の高い情報、これすなわち一般的にエビデンスと呼ばれるものです。(EBMの実践において特に外部エビデンスと呼ばれるもの)僕は薬剤師にとってエビデンスは強力な武器になると以前申したことがあります。

医療とのかかわりの中で、EBMと出会ったころ僕は保険薬局勤務でした。現在の状況がどうなっているのか僕にはわかりませんが、当時は薬剤師の発言力はそれほど高いものとは言えず、説得力のある情報を提供するにはやはりエビデンスを活用するのが最も効果的であった、エビデンスは薬剤師の強力な味方となってくれる、そんな風に感じていました。もちろんこれは僕の場合に限った話ではありますが、やはり理論上正しくても、その根拠はどのように示されているのだ、と言った問いにも対応できる、エビデンスは非常に優れた武器でした。繰り返しますが、これは確かに武器でありました。

僕自身はEBMの実践と言えど、そもそも医師の臨床行動指針として概念化されたEBMについて薬剤師が何かを語るということはやはり、少々ナンセンスなのではないかなどと感じていましたし、たとえ薬剤師のEBMについてとはいっても、それを語れるほど何かを学んできたわけではありません。

ただ、この一年、EBMの実践について、特にエビデンスの使い方については様々な思索を重ねてきたように思います。特にEBMを学び始めたころ、エビデンスの押し付けに陥らないように、と言うようなことを常々意識してきました。EBMはエビデンスのみならず、患者の思い、その環境、そして医療者の臨床経験まで統合し最終判断を下すものなのだというEBMの基本的な概念を常に意識してきました。

そして、その結果実はあまり多くのことが変化していなかった。という事実も浮き彫りとなりました。EBMに関するワークショップや教育の機会は増加しているにも関わらず、相も変わらずDPP4阻害薬に代表されるような薬剤が売り上げのトップを占めている現状。EBMと言えど、エビデンスそのものを重視するのではなく、やはり重きを置いているのは文脈だったりする。特に薬剤師は処方箋という文脈の上に成り立つ医療に関わります。そういった中で、エビデンスを文脈から切り捨てて考える、そのようなエビデンスの活用法が垣間見えてきたのも今年に入ってからです。個人的には、メタ分析ではなく、一つのランダム化比較試験で有害性が示されたもの、あるいはランダム化比較試験で有効性が明確に示されていない新薬のようなものはやはり、文脈よりはエビデンスを重視したい、そんな風に考えてきました。

[臨床判断の思想構造]

 医療に関してその方針決定にかかわる思考は様々です。この思考プロセスはもちろん科学的妥当性、医学的妥当性が大きな割合を占めることと思いますが、僕はそれ以外の要素も大きく影響していると思うのです。でなければ、ワクチンはうたない方がいい、と言うような極端な思考プロセスがここまで話題になるはずがないと思うからです。EBMもそういった観点からは思想の一つではないかと最近思います。語弊があるかもしれませんが、より良い医療を目指すためのツールとしてのEBMがあるならば、何がより良い医療なのか、ある一定の思考プロセスに基づいて、決断している、これは考え方の一つであり、思想に他ならないと思います。

 考え方の多様化が進む現代社会において、思想は哲学や文学あるいは宗教ともその境界があいまいです。もともとヒトの考え方、思考プロセスにカテゴライズできるような明確な境界線は存在しません。ここからが宗教でここからが哲学そんな線引きは困難です。そういった思想や宗教において良い思想、悪い思想、そういったカテゴライズもまた意味をなさないことも自明でしょう。

 ただヒトは分類をする生き物です。分類と言う思想は人が有する根本的な価値観なのだと思います。カオスよりはましという仕方で“あれ”と“これ”を区別する。そして“あれ”と“これ”を共有する2つの集団が時に無用な対立を引き起こします。

 医療における考え方の違いが医療従事者の間でもやはり対立を生み出すのでしょう。ここで僕は思うのです。EBMはエビデンスを盾に誰かの行いを否定するようなことがあってはなりません。患者に対してであろうが、医療者どうしであろうが、EBMはエビデンスを用いながら人と人をつなぐ架け橋になる、そういう仕方で実践されるべきであると思います。エビデンスは武器になる、なんて言いましたが、「エビデンスをそんなふうに振り回したら危ないよ」って、きっと、そういうもんだと思います。

語弊があるのを承知で言えばEBMの思想は素晴らしいです。僕が薬学教育課程で学んできた病態生理学的思考プロセスを180度変えます。その破壊力は凄まじい。だから、時に他者と対立も起こします。自分の正しさに酔いしれます。なにせ「エビデンスはこう言ってるじゃないですか」、という究極のウエポンが使えます。他者を容易に否定できる危険な面があるのです。

ひとの幸せを考えるツールがEBMのはずでした。医療者どうしであろうが、患者に対してであろうが同じです。EBMの実践が自身の医療行為を正当化するために、しかもそれが、無意識に行われている、そういった可能性はあるのではないかと。僕自身そういう仕方でエビデンスを使ってきたんだと思います。文脈に歪められるべきが、エビデンスに歪められるべきか。その中道を行くことは可能か。それでは結局何も変わらないのでしょうか。
現実の医療と大きなギャップを示すエビデンスを前にどう行動すべきなのか、まず大事なのは、なぜそれをギャップと感じたのか、そういったところを取り出す作業から行いたいと僕は思いました。

[それでも僕は論文を読み続ける]

統計的有効性、あるいは医療者の主観的な改善効果の経験値。それらのいずれも患者の薬剤効果のクオリアを示しているわけではありませんが、僕は冒頭述べたように、現在用い得る人に対する再現性の優れた、最新かつ妥当性の高い情報に基づいて、妥当な治療薬を提案するだけです。それが受け入れられたとして、最終的に、はたして何が良かったかなんて言うのも、よくわかりません。

薬が効くというクオリアは共有することはおろか、一般化は不可能でしょう。突き詰めれば薬が効くとは極めてインテンションの問題ではないかとも思えるのです。僕らが通常考える、いわゆる真のアウトカムといえど個々の患者における薬剤効果のクオリアとは別問題なのでしょう。
より良いアウトカムを目指すというのは医療の基本構造ではあるが、より良いアウトカムってなんだ、という議論に乏しい仕方で構造化されている。

えらそうにEBMを分かったふうに言っていますが、僕は結局、論文を読まないよりは、少しだけマシな医療をしているだけかもしれない、僕はある意味ただ論文に関心があるということに過ぎないのかもしれない。そこは病識として肝に銘じたいと思います。「関心のないところにこそ重要なものがある」名郷先生がそうおっしゃっていたことを思い出しました。



今年1年、記事を読んでいただきました読者の皆様、誠にありがとうございました。今年も皆様に支えられここまで更新を続けることができました。
薬剤師の地域医療日誌1226日が本年最終更新となります。年明けは15日より更新を再開する予定です。
薬剤師のケースレポート日誌は本年の更新予定はありません。来年もインパクトのある症例報告を中心に症例報告から疫学的考察につなげ、当ブログにまとめていきたいと考えています。

本年もたくさんの方々に支えられ、様々な機会をいただき、また様々なことを学んできました。この場をお借りして御礼申し上げます。本当にありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

2014年12月22日月曜日

今年報告された注目医学論文 “厳選10本”

本年も数々の衝撃的な論文報告がありました。今年1年を振り返り、特に印象に残った論文の中から、全文フリーでアクセスできる論文を10本厳選いたしました。フリーアクセスできる論文を選んでいるので、ジャーナルに偏りがあるかもしれません。
また、結果の解釈については様々な異論もあるかと思います。さらに論文の妥当性についても議論の余地があるかもしれませんが、取り上げられたテーマとして、今後の研究報告も含めて注目したいと僕が思った論文をご紹介させていただきます。抄読会のネタとして、あるいはそのテーマについて掘り下げて勉強するきっかけになれば幸いです。

1.
Priest P, McKenzie JE, Audas R. et.al. Hand sanitiser provision for reducing illness absences in primary school children: a cluster randomised trial.
[クラスターランダム化比較試験]
小学校における手指消毒で児童の欠席を減らせますか?という論文です。インフルエンザ流行シーズンでは小学校に限らず、公共施設や飲食店でも手指消毒用のエタノールが設置されることも多くなりました。本研究は小学生児童を対象に学校欠席率を比較し消毒の有効性を検討した報告です。サンプルサイズや研究デザインなど議論の余地もあるかと思いますが、明確な結果が示されなかった点は注目したいところです。

2.
Greening NJ, Williams JE, Hussain SF. et.al. An early rehabilitation intervention to enhance recovery during hospital admission for an exacerbation of chronic respiratory disease: randomised controlled trial.
[ランダム化比較試験]
COPDのような慢性呼吸器疾患で入院したらできるだけ早くリハビリを受けた方が良いですか?という論文です。プライマリアウトカムは12ヶ月以内の再入院ですが、セカンダリアウトカムとして死亡を検討した重要論文。慢性呼吸器疾患により入院中の早期のリハビリは12ヶ月間の再入院のリスクを軽減させず、身体機能の回復を促進しなかったという結果でした。また12ヶ月での死亡割合は、介入群で高かったというなかなか衝撃の結果です。

3.
Si S, Moss JR, Sullivan TR, et.al. Effectiveness of general practice-based health checks: a systematic review and meta-analysis.
[メタ分析]
一般診療における健康診断で健康になれますか?という論文です。最近のレビューでは、一般的な健康診断は、成人の死亡率を減少させることができないと結論付けており、この問題には議論の余地があるかともいますが…。これはランダム化比較試験のメタ分析ではあります。マスを対象とした健診では代用のアウトカムを改善する可能性は高いですが、その後の人生においてどのような影響をもたらすかよく分からないという印象はあります。当然ながら死亡に関して明確に減らさないという結果ですが、心血管疾患死亡は増加するというなかなか衝撃的な結果となっています。

4.
Miller AB, Wall C, Baines CJ et.al. Twenty five year follow-up for breast cancer incidence and mortality of the Canadian National Breast Screening Study: randomised screening trial.
[ランダム化比較試験]
マンモグラフィによる乳がん検診についてはこれまでにも多数の報告が議論を読んでいますが、この論文はやはり一読せねばならないと感じます。追跡15年時点でマンモグラフィで発見された乳がん全体の22%(106/484例)が過剰診断である可能性が示唆され、マンモグラフィ検診を受けた女性424人で1件の乳がん診断が過剰診断となっているかもしれないと結論しています。

5.
Jørgensen T, Jacobsen RK, Toft U. et.al Effect of screening and lifestyle counselling on incidence of ischaemic heart disease in general population: Inter99 randomised trial.
[ランダム化比較試験]
いわゆるメタボ検診のようなスクリーニングと生活指導で心臓病は予防できますか?という論文です。デンマークにおける30歳から60歳の参加者59616人が対象となりました。コミュニティベースの心血管疾患スクリーニングによるリスク保有者への5年にわたる個別の生活習慣指導では10年後の人口レベルにおける心血管疾患や脳卒中、死亡率の改善効果見られないと結論された衝撃的な論文。

6.
Bennell KL, Egerton T, Martin J. et.al. Effect of physical therapy on pain and function in patients with hip osteoarthritis: a randomized clinical trial.
[ランダム化比較試験]
変形性腰関節症に理学療法は効果がありますか?という論文です。変形性腰関節症をX線にて確認された102人を対象に理学療法の有用性が検討されました。疼痛/身体機能改善度に有意差は見られなかったとしています。しかしながら、プラセボ群のほうがむしろ良い傾向にあるという結果はなかなか衝撃的な結果となっています。

7.
Ford AC, Forman D, Hunt RH. et.al. Helicobacter pylori eradication therapy to prevent gastric cancer in healthy asymptomatic infected individuals: systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials.
[メタ分析]
16歳超の健常な無症候性H pylori菌感染者を対象にピロリ除菌療法の長期アウトカムを検討した貴重な報告。胃がんの発生こそ低いものの、セカンダリアウトカムの胃癌死亡や総死亡に明確な差が出なかった点はやはり軽視できない印象です。

8.
Okabayashi S, Goto M, Kawamura T.et.al. Non-superiority of Kakkonto, a Japanese herbal medicine, to a representative multiple cold medicine with respect to anti-aggravation effects on the common cold: a randomized controlled trial.
[ランダム化比較試験]
風邪のひきはじめには葛根湯と総合感冒薬どちらがよいでしょうか?という論文です。薬剤師なら一度は目を通しておきたい論文。

9.
Weich S, Pearce HL, Croft P,et.al. Effect of anxiolytic and hypnotic drug prescriptions on mortality hazards: retrospective cohort study.
[コホート研究]
抗不安薬や睡眠導入剤に副作用はありますか?と言う論文ですが、主要評価項目は死亡です。ポリファーマシーなどにも関連して、この手のエビデンスは薬剤師にとって非常に重要意味を持つと考えています。

10.
Michaëlsson K, Wolk A, Langenskiöld S. et,al Milk intake and risk of mortality and fractures in women and men: cohort studies.
[コホート研究]

牛乳は体に良い、そんなイメージを根底から覆す衝撃的な論文。日本人に当てはめられるか、議論の余地はありますが、骨折ですら前向きな結果が出ていないというインパクトのある報告です。

2014年12月19日金曜日

他者との対話からあらためて考える、薬剤師のEBM

大切なことはいつも答えが出ない、僕はそう思います。端的な思考に陥らないよう心がけるということを常々意識してはいますが、ヒトは秩序を好みますよね。曖昧な思考よりもクリアな思考、そしてその結果「なになに」だというロジックで安心を手に入れる。曖昧なままと言うのは精神状態としては不安定な状態なんだと思います。二元論が如何におろかであるか、ソシュール言語学やEBMの実践の中で学んできましたが、突き詰めれば二元論かそうでないのかという二元論に陥るわけです。

多面的な視点という仕方で、二元論を回避するというのはひとつの選択肢だと思います。少なくとも一つの視点からではなく複数の視点から物事を見つめ直す。ただそういったことはなかなか一人で考えていても多面的な思索は思い通りにいかないこともしばしばですよね。そうなんです。論文を読んでどう活用すればよいかというのも同じでやはり複数の人たちと一つの論文を読むということは複数の視点を得ることに他なりません。大事なのは他者との対話の中で生まれ行く、新たな概念なのでしょう。

前置きが長くなりました。日経DIオンラインのコラム「薬剤師的にどうでしょう」やブログ「薬局のオモテとウラ」で有名な、長野県で薬局を開局されている、熊谷信 先生との対談企画のお話をいただきました。熊谷先生が執筆されている薬局新聞のコラム「ソーシャルPメンター&ニュース」上での対談企画です。
実は同じく日経DIオンラインコラム「薬局にソクラテスがやってきた」やブログ「薬歴公開 byひのくにノ薬局薬剤師」で有名な、熊本の山本雄一郎先生から、今回強力なプッシュがあったとのことで、恐縮の極みと申しますか、お話をいただいたときにはこんな僕でよろしいのでしょうか、と言う感じでした。山本雄一郎先生には毎回お世話になっておりまして、本当に感謝です。この場をお借りして御礼申し上げます。

ちなみに熊谷先生と、山本先生の対談記事はこちら

お二人に共通するのはやはり卓越した言語化能力にあるのではないかと僕は考えています。言語学で有名なソシュールは、コトバによって世界が編み上げられる、そんなふうに言葉を捉えました。言語化するというのは未だかつて存在しない新しい概念を生み出す力の原動力なんです。ブログに言葉をつづると言いうのは思考を具体化することに他なりません。
まずは僕が今まで取り組んできた活動を振り返るというところからスタートしました。
EBMとの出会い関して、これまでもいろいろなところに書いてきたのでご存じの方も多いかと思いますが、スピリーバ®レスピマットという薬剤の論文がきっかけでEBMと出会ったこと、その後さまざまな衝撃的な結果を報告する論文を読んで…

「これはもう論文をいろいろ読むしかないと思うわけです。それで、この問題(結果をどう取り扱うか)が解決するかは謎でしたけど、もう読まないといけない衝動にかられていた。読んでいるうちに今まで当たり前だと思っていた薬物治療が根底からひっくりかえるようなことの連続で、読むのが止まらなくなってしまったんですよね。」

論文を読むのが止まらなくなってしまい、そして継続して論文を読む中で

「(論文要約をノートにまとめるなかで)僕は字が汚くて、忙しい時に書くともうぐちゃぐちゃで…そこでブログにして毎日アップすることにしたんです。(薬剤師の地域医療日誌)」

これが僕自身の「思考の言語化」のスタートだったわけです。

さて、臨床医学論文の多くは英語で書かれていますが、英語の壁を乗り越えるというのがこの会のテーマでした。

僕は英語が高校時代から苦手で、当然大学時代もまともに英語を勉強してきませんでしたので、社会人になっても英語なんて読めるわけがありません。でも、それよりも何よりも、今まで学んできた「常識」が覆されていく、そういったことを妥当性の高いエビデンスは伝えてくれていて、それを読まずにはいられない、そして、それを多くの人と共有しそれについて議論したい、と言う思いが、英語論文と向き合い続けるということを駆動させました。
例えば地球は温暖化していると誰もが信じていたとして、でも観測データはこの10年全く温暖化を示していなかったとしたら、その事実を放置できる人の方が珍しいのではないでしょうか。
そこで、僕は中学英語から勉強し直しました。それでもいまだ英語を読むのはあまり得意ではありません。現在ではグーグル翻訳などのインターネットツールを併用しながら論文を読むことが多いですね。あとは論文を読みこなすスキルと言うか、そういったものでカバーすることで何とか、おおよその内容を読んでいけるようになりました。

薬剤師のEBMの具体的な話題を、というテーマでした。これは最初から話すともう語りつくせないぐらいのことなので、大まかに薬剤師のEBMと言うのはどういったことなのか、少し考え直してみました。

日常業務で遭遇する添付文書の併用注意、これは臨床判断、例えば疑義照会をするかどうかと言うような判断ですが、相当迷うんです。注意ってなんだよって。禁忌ならもうだめでしょ、って割り切れるんですけど、注意ってどうしろってことなんでしょうかね。
重大な副作用もいろいろ書いてあるんですけど、じゃどうすればいいのさ、と言う感じがしませんか?具体的で、リアルな頻度、どんな患者でどれだけ起こりやすいか、そうリスクファクターの詳細な記載がないからなんです。
薬物相互作用、重篤な有害事象の頻度とリスクファクター、これらの情報を臨床医学論文から得ることもできます。当然すべての薬剤に関する事象の情報を得ることは難しいですが、症例報告も含めて多面的に評価できることは間違えありません。

最終回は薬剤師のEBM今後の展望というテーマでした。

EBMは医療にかかわるその方法論として大変有用なものです。なぜなら答えの無い臨床疑問にどう向き合えばよいのかその一つの方法と示唆を明示してくれるからなんです。そしてこのEBM医療にかかわると言うだけでなく、薬剤師が薬の勉強をするその方法論としても大変有用なんです。このあたりはこのブログでも記事にしましたのでご参照いただければと思います。


4回にわたり、脈絡のないお話を、分かりやすくまとめてくださり、そして記事にしていただきました。貴重な機会を誠にありがとうございました。この記事をきっかけに、論文を読んでみよう、そう思ってくださる方がいらっしゃったらこれほどうれしいことはありません。

2014年12月8日月曜日

なぜ論文を読み続けるのか

学生時代、ほとんど勉強してこなかった僕が教育や学ぶこと、に関して何かを言う資格が、あるのか、ないのか、という2つの選択肢で答えなければいけないのであれば、まず間違いなく「ない」でしょう。そんな偉そうなことを言えるほどに何かについてすべてを学んできたわけじゃありません。ただいろんな好奇心から、広く多くの事柄から何かを学んだような気がします。そんな僕が述べる勉強論ですから、まあ軽く聞き流していただいて、あ、これ使えるかも、っていう所が一つでもあったら幸いです。

実は僕は車の運転が苦手、と言うかペーパードライバーです。なんというかハンドルを握ると手に汗が噴き出して、事故を起こしたらどうしよう、みたいな強迫観念が襲ってくるわけですが、教習所に通っていたころは、そんなこともなく、マニュアルで自動車免許を取得したわけであります。そんな僕が言うのもなんですが、自動車教習所での危険予測トレーニングってありますよね。実はあれ、学びの本質だと僕は考えています。冒頭の流れからすると、もう全く説得力ないですね。
 
危険予測トレーニングって、今現在事故が起こりそうな場面にいるわけじゃないですよね。モニター(あるいは絵でしたっけ?)の前に座っているわけですから。危険予測トレーニングは、実際にその事態が発生しそうな時に、同時的に次に何をすれば良いかがわかる、そういった能力を鍛えることなんです。もし、縦列駐車している車と車の間から子供が飛び出したら、間違いなくこのスピードでは止まれない、そういった危険を回避するために恐る恐る進む、そうして何事もなければそれでいいわけですし、もし本当に子どもが飛び出して来たら、恐る恐るという振る舞いが、車を徐行運転にさせ、注意深く駐車している車と車の間を意識することで、飛び出してきた子供を視線は的確にとらえます。そして同時的にブレーキを踏みこみ、安全に停車できる。そういった能力を鍛えるのが危険予測トレーニングなんですよね。

僕はお寺や神社が好きなのですが、歴史的なものや建築に興味があるだけじゃなくて、やはり祈りの姿勢というか、畏れの感覚というか、“恐る恐るというような振る舞い”、そういったものの感度を高めたいと思うのです。自分がいかに無力な存在であるか認識することで、自分の能力を超えたものにどう向き合うか、祈りを通して、そういった思考を鍛えたいと思うんです。

 何が起こるかわからない、何に遭遇するかわからないけれど、その事態が起きたときにどうすればよいのかわかる。そういった能力は重要です。例えば臨床現場でも、ある患者さんや医師からの問い合わせに、どう臨床判断すればよいかわかる、そういったトレーニングが臨床能力を鍛えることの根幹ではないでしょうか。どのような問い合わせが来るのかわからない中で、それに対する対応能力を如何に鍛えるのか。薬剤師の臨床教育に欠けているこのような「学ぶ仕方」なんだと僕は思います。

 医学論文を読みながら医療にかかわるその方法論をEBMと言いますが、薬について学ぶには、このEBMの手法が限りなく強力な手段になります。なぜ薬剤師が論文を読むのか、それも継続して読み続けなければいけないのか、そういったことを先月お話しさせていただく機会を得ました。これは僕が最近考えていたことなんですが、公にお話しするのは実は初めての経験でして、非常にわかりにくくなってしまったかもしれません。しかしながら大変重要なことだと思いますので、あらためてここで言語化していきたいと思います。

日々積み重ねられていく論文情報を全て学びつくすなんてことは到底不可能です。だから本来は、知識習得のために論文を読むわけではありません。論文情報を学ぶことでも暗記することでもなく、必要な時に、必要な情報を活用できるよう、整理しておくことなんですよね。これを僕は論文情報と臨床行動のスクリプト化とよんでいます。EBMの手法を用いた継続的な学習の本質とはいざその臨床現場に遭遇した時に同時的にスクリプトが引き出せるように、その能力を鍛えることろにあるわけです。

スクリプトと何か、ということですが、スクリプトとは、典型的状況で人間が想起する一連の手続きを表現する台本のようなもののことです。ヒトは社会生活で必要な知識をスクリプトの形で記憶にため込むと言われています。たとえばファミリーレストランで食事をするのは何もまごつくことなく食事をして帰ることができますが、高級ホテルではどうしたらよいかまごつきますよね。これは高級レストランで食事をするという仕方のスクリプトが形成されていないからなんです。

読んだ論文が、役にたつかどうかは今は分からないけれど、それが役に立つであろうものであると先駆的に知ることができる、そういった能力を鍛えることが『学ぶ』うえで大切なのではないかと考えています。論文を読み続けて何になる、そういわれたこともありました。ですが、いざその臨床現場に遭遇した時に同時的にエビデンスが引き出せるかどうかなんですよ。そのために、役にたつかどうかは今は分からないけれど、それが役に立つかもしれない。必要なものを調達するのではなく、これは何かの役にたつかもしれない。そんな感覚が大事なんです。自分が今していることの意味は事後的に分かる。後ろを振り向いたときに、はじめて点がつながる。そういう構造になっているんです。

だから臨床経験がなくても臨床を“危険予測トレーニング”のような仕方で学ぶことはできるんです。確かに実際の現場で経験することのほうが大事ですが、事実上経験できない環境にいるならば、EBMの手法で仮想臨床を学ぶことができる、そして学生でもある程度臨床能力を鍛えることができるるのではないかと思っています。何も大学附属病院の薬剤師だけが高度な臨床スキルを得られるわけじゃない。誰でも臨床能力を鍛えることができる。それがEBMの手法で学び続けることのすごさなのです。

では、なぜ教科書じゃなくて、臨床医学論文で学ぶのか。教科書のほうが分かりやすくきれいにまとまっているし覚えやすい、なんて思いますよね。ただ繰り返して言いますが、学びの本質は知識の暗記ではなく、学びの仕方を学ぶという事なんです。それともう一つ、臨床で遭遇する疑問、問題はその多くが前掲疑問です。教科書に記載されているような背景疑問に答えるものではありません。臨床医学論文は臨床疑問に対する一定の示唆を与えてくれるものです。そこから想定しうる臨床現場を容易に想像することが可能です。したがって論文情報に記載されている情報の信頼度を吟味し、類似情報を集め、これまで学んだ背景知識との融合を加え、そのテーマに対する臨床スクリプトをため込むというコトを継続的に行うことで、いざのそのテーマの問題が目の前に提起されてきたときに、同時的に臨床判断ができるということにつながるのではないかと考えています。


実際はそう単純じゃないのですが、少なくとも薬が効くとはどういうことかを学ぶためにはEBMの手法は必須であると断言できます。日常業務で遭遇しうる「重要な問い」に対してアンダーラインを引くこと、そしてそのことがなぜ「重要な」ものとして取り出されたのか、そのテーマに対する多面的な思考につながる、そういったことに気付くからです。

2014年12月1日月曜日

薬剤師のための医学論文の考え方・使い方[ランダム化比較試験]

日経DIオンラインさんに連載させていただいておりますコラム「症例から学ぶ 薬剤師のためのEBM」では、これまで5回にわたり、ランダム化比較試験の論文を扱いながら、薬が効くとはどういうことか、という事をまとめてきました。
薬剤効果を検討する際に、まずは参照すべき論文としてランダム化比較試験の論文を短時間で読みこなすことができれば、EBM実践における強力なスキルとなるでしょう。
第1回目から5回目に掲載させていただいた内容でランダム化比較試験を簡単に読む方法のほとんどを盛り込んだつもりです。NNTPROBE法について触れていませんが、それは今後の配信でカバーしていく予定です!

1回 PECOから始めるEBMfirst step
[ポイント]
・背景疑問/臨床疑問と疑問の定式化
・ランダム化について
・95%信頼区間の簡単な解釈

2回 患者の真のアウトカムを想像せよ
[ポイント]
・真のアウトカム/代用のアウトカム/複合アウトカム
・論文のトライアルプロフィールと患者背景

3回 臨床試験の盲検化と、実世界の「プラセボ効果」への考察
[ポイント]
・盲検化
・構造主義薬学論①薬剤効果の3要素

4回 「有意確率」を理解し認知症という疾患の捉え方を見直す
[ポイント]
ITT解析と追跡率
・統計的検定(スコア評価による統計的有意差と臨床的な有意差)
・構造主義薬学論②病名と時間(病気というコトとモノ)

第5回 論文検索の基本とサンプルサイズについて
[ポイント]
PubMed Clinical Queriesについて
・サンプルサイズの計算と統計的過誤
・構造主義薬学論③疾患を生み出す構造(ソシュール言語学×医療)


薬剤師のジャーナルクラブ(JJCLIP)でも「ランダム化比較試験をはじめからていねいに」をコンセプトに抄読会を配信しました。ご活用ください。

  

2014年11月7日金曜日

ポリファーマシーの是正がもたらすもの

ポリファーマシーに関して以前にまとめています。

コクランレビューがアップデートされています。
Interventions to improve the appropriate use of polypharmacy for older people.

[Patient]
65歳以上の高齢者
[Exposure]
評価ツールとしてMedication Appropriateness Index MAIスコア(8研究)、 Beers criteria1研究)、STOPP criteria2研究)、 START criteria1研究)を用いたポリファーマシー是正に関する介入やコンピューターによる意思決定支援
Comparison]
介入なし
Outcome
薬剤使用量
研究デザイン
メタ分析[統合研究数:12]
元論文バイアス
The GRADE (Grades of Recommendation, Assessment, Development and Evaluation) approach was used to assess the overall quality of evidence for each pooled outcome
エビデンスレベルはvery low low
評価者バイアス
Two review authors independently reviewed abstracts of eligible studies
異質性バイアス
抄録に記載なし
出版バイアス
抄録に記載なし

主な結果は以下の通りです。
・不適切な薬物使用量の減少をもたらした
・ベースラインと比較して、MAIスコアの減少(4研究) 平均差 -6.78, [-12.34 -1.22]
・入院対する影響や薬剤関連問題に関する影響はエビデンスの一致を見ない

不適切処方を減らすことは示されたようですが、臨床的なアウトカムについては不明な部分が多いと結論しています。確かに、ポリファーマシーの有害性は多数の研究報告がありますが、実際の介入によりどの程度臨床ベネフィットあるのか、よく分かっていません。個人的にも模索していたテーマだけに以下の論文にはやや肝を冷やしています。


Intervention with the screening tool of older persons potentially inappropriate prescriptions/screening tool to alert doctors to right treatment criteria in elderly residents of a chronic geriatric facility: a randomized clinical trial.

この報告はSTOPP/STARTクライテリアによるスクリーニングを主治医に提案することの臨床アウトカムを検討したランダム化比較試験です。
STOPP criteriaについては以下のブログに詳細がまとめられております。
栃木県の総合内科医のブログ:メモ:STOPP criteria

以下論文の概要をご紹介いたします。

[要約]
慢性の期介護施設居住の少なくとも1剤以上の薬物治療を受けている65歳以上の359人を通常の薬物療法と薬学的介入群にランダム割り付けた。薬学的介入群ではSTOPP/STARTクライテリアに従い、薬剤師が、潜在的に不適切な薬剤使用や投与の必要性があるにも関わらず、使用されていない薬剤のスクリーニングを行い主治医に提言した。

評価項目は介入開始から1年後までにおける、入院回数及び転倒回数であった。さらに機能的自立度評価表に基づく機能評価Functional IndependenceMeasure (FIM18の項目について日常生活活動(ADL)を17点で評価し、合計18点から126点で評価する自立度評価スコア。点数が高いほど依存度が高い。)健康関連QOLSF-1212-item Short-Form Health Survey12項目の質問からなる健康関連QOL評価のための包括的尺度。精神的側面サマリーMental component summaryMCS)と身体的側面サマリーPhysical component summaryPCS)を評価。0100点で評価。点数が高いほどQOL良好。一般集団の平均スコア50点、標準偏差10点)、薬剤コストであった。

1年後の平均薬剤数は介入群で有意に少なかった(P0.01)平均薬剤コストは介入群で1か月あたりUS29、有意に低かった(P0.001)平均転倒回数は研究開始前と比べて1年間で有意に減った。(P0.006FIMスコア、健康関連QOLは両群に差が見られなかった。

STOPP/START介護施設におけるクライテリアに基づく薬学的介入の実施は薬剤数の減少や骨折、薬剤コストを低下させる。

[背景]
STOPPクライテリアは潜在的に不適切な薬剤をスクリーニングするための基準であり、STARTクライテリアは、本来使用すべき薬剤が使用されていないことをスクリーニングするための基準です。プライマリケアにおける高齢者の薬物療法ではSTOPPクライテリアに該当する少なくとも1つ以上の不適切薬剤の使用は21.4%~39%までに上ると報告されており、入院している高齢者やナーシングケアホームに長期滞在している高齢者では70%まで上昇するとの報告もあります。一方、STARTクライテリア該当薬剤はプライマリケアのセッティングで22.7%、入院高齢者では41.9%~66%までに上るとも言われています。この研究ではSTOPP/STARTクライテリアに該当する薬剤を主治医に提言することで、その臨床アウトカムを検討した貴重な報告です。ランダム化前に薬剤師により患者データが取集されました。前年における入院頻度や骨折、最近受けた治療や既往歴などが精査されています。

[研究の盲検化への配慮]
STOPP/START各クライテリア該当薬剤は薬剤師から主治医に提言され、主治医がこの提言に基づき薬剤の使用可否を判断した。この研究では介入に関わる薬剤師と主治医には盲検化がされていなかったが、他の医師や介護職員には盲検化がなされました。

[研究のサンプルサイズに関して]
サンプルサイズは既存の研究報告をもとに、骨折割合として50%、入院割合として30%を想定し、薬学的介入群でそれぞれ30%、12%のリスク低下のもとに計算されたサンプルサイズは、各群134人。90%のパワーとαエラー5%までを許容した。15%の脱落を加味してサンプルサイズは最終的に各群191人とした。

[患者背景]
359人の患者(平均82.7歳、服用薬剤の剤数:13剤以上13.3%、91232.9%、5844.1%、5剤未満9.8%)のうち183人を介入群に、175人を対照群に割り付けました。最終的に解析に組み入れられたのは306人(85.5%)でした。

両群の患者背景において年齢、性別、チャールソン併存疾患指数、前年の転倒や入院、慢性疾患の有病率や医薬品の使用割合、平均使用薬剤数、月当たりの平均薬剤コストは同等でした。

[結果]
アウトカム
介入群(SD
上段:研究開始前
下段;研究開始後
対照群(SD
上段:研究開始前
下段;研究開始後
P
使用薬剤の剤数
8.8 3.4
7.3 2.7
8.2 3
8.9 3.2
0.01
コスト
Israeli shekels
382.7  279.3
279   (171.9
381.2  (281.2
402.3  291.2
<.001
転倒 (回)
1.32.4
0.81.3
1.42.5
1.32.4
0.28
入院 (回)
0.61.0
0.51.0
0.40.8
0.50.9
0.10
FIM
58.4  35.8
54.3  35.1
58.9  36.7
55.4  36.8
0.14
SF-12PCS
327.3
33.18.1
33.48.1
338.3
0.09
SF-12MCS
38.48.9
37.711.7
39.89.8
39.611.3
0.70
SDStandard Deviation 標準偏差


研究開始前年と比較して研究開始後1年後の変化に両群で差が出たのは剤数とコストのみでした。QOLも自立度評価も転倒も入院も明確な差は出ませんでした。サンプルがやや少ないようですが、ポリファーマシーの是正に関して、その臨床アウトカムをどうとらえていけばよいのか、薬剤師はいったい何をする職種なのか、再考するのに十分すぎる結果です。