[お知らせ]


2014年6月2日月曜日

健康食品と偽性Bartter症候群

[Bartter症候群と偽性Bartter症候群]
Bartter症候群(バーター症候群)は低カリウム血症と代謝性アルカローシスを呈する先天性尿細管機能障害で、これらに加えて低マグネシウム血症、低カルシウム尿症を呈する先天性尿細管機能障害をGitelman症候群(ギテルマン症候群)といいます。Bartter症候群は太いHenleループの尿細管上皮細胞膜に発現するチャネルあるいは輸送体をコードする遺伝子の変異で発症し、またGitelman症候群は遠位尿細管上皮細胞膜に発現する輸送体をコードする遺伝子の変異で発症すると言われています。現在Bartter症候群は遺伝子異常により14b(5)型に分類されることが一般的で、電解質異常にともなう脱力感や筋症状、多飲・多尿などが主症状です。一部の病型では末期腎不全に進行することもあり現段階で、特異的な治療法は存在せず、電解質補充など対症療法が中心です。

Bartter症候群は遺伝子変異によりNa-K-2Cl共輸送体がうまく作動しない疾患ですが、 フロセミドなどのループ利尿薬はこのポンプを阻害し利尿作用をもたらします。したがって、ループ利尿薬の不適切連用により、Bartter症候群にきわめて類似した症候を呈すことが知られおり、体液量減少を引き起こす誘因の明らかなものは偽性Bartter症候群(pseudoBartter syndrome)と呼ばれています。主な原因として利尿薬の他に、下剤、慢性下痢、神経性食欲不振症などが挙げられるといわれています。[Lancet. 1968 Feb 10;1(7537):257-61.]

偽性Bartter症候群を発症する背景としては精神的な問題を抱えているケースもあり、原因薬物の中止を行っていてもなかなか低カリウム血症や代謝性アルカローシスが是正されることが難しいと言います。このような精神的な問題を抱えている患者にとって病識や治療意欲に欠けているケースも多く、治療上必要な情報を得ることが難しいという事が原因のようです。本邦でもいくつか症例が報告されていますので具体的に症例を見てみます。

[フロセミド長期服用によるpseudo-Bartter症候群の1症例]
症例は29才女性で14年間のフロセミド服用歴と浮腫増悪に対する習慣性の食塩制限が背景にありました。15歳の時に特発性浮腫のためフロセミドを服用して以来、薬剤中止によりむくみが発生したことや、塩分によりむくみが悪化するという経験からフロセミドを常用するようになったという経緯があります。その後、痛風発作や脱毛症状が発現し29歳の時点で低カリウム、アルカローシスの精査入院となりました。
入院時持続性低K血症および代謝性アルカローシスを呈しており、身長154cmに対して体重重28.5kgと著明なやせ型でした。Bartter症候群類似の病態を示したものの、約420mEqK欠乏にもかかわらず、ネフロン希釈部のCl再吸収は正常で、K欠乏補正後も不可逆性の濃縮障害を示し、本例は利尿薬長期服用、食塩制限、 K欠乏により不可逆性濃縮障害を伴った偽性Bartter症候群としています。

[Furosemide混入健康茶の飲用による偽性Bartter症候群の1]
症例は32歳女性で嘔吐、倦怠感、四肢の筋痛と脱力、そして起立不能のため入院となりました。慢性便秘のため長期にわたり漢方薬のセンナを常用していた背景があるようです。入院時、低ナトリウム血症、低カリウム血症に加え、高尿酸血症も呈していました。
本症例では尿中にフロセミドが検出されたことにより偽性Bartter症候群の診断に至りました。フロセミドの1日服薬量は20270mgと推定され、患者は服薬を否定いました病院食以外に 口にしていた食品について尋ねたところ、5年前より毎日飲用していた健康茶を、入院中にも摂取していたことが分かりました。健康茶ティーバッグの中身には茶葉のほか白色粒状物が多数混在し,高速液体クロマ トグラフィによる医薬品分析の結果すべてフロセミドに一致し、フロセミドを含んだ錠剤を破砕したものと断定されました。 ティーバッグ1袋にはおよそ90mgのフロセミドが混入されていた計算になります。
フロセミドが混入された健康茶の長期飲用が偽性Bartter症候群その誘因の一つと考えられ、診断の後は良好な経過が得られました。尿中フロセミド陽性患者の診察時には、フロセミドを健康食品から摂取している可能性にも注意することが必要としています。

[偽性Bartter症候群による電解質異常は患者背景が重要]
ダイエット食品と称する健康食品には症例②のような事例も報告されており、健康食品と言えど、恐ろしいものがあります。またこのような、ダイエット目的や体型へのコンプレックスなどを抱える背景(特にむくみに対するコンプレックス)を有する可能性のある、若年女性の電解質異常には、このような利尿薬等による偽性Bartter症候群を疑う事も重要ではないかと思います。 嘔吐による低K血症やアルカローシスでは過食症/拒食症が患者背景にもある可能性があり、付随所見として、頻回の嘔吐による手の吐きダコや歯の腐食(胃酸による)等にも注意を払いたいところです。
ただなかなか難しい点は、②の症例報告にも記載がありますが、Furosemide濫用者には、その服薬を頑固に否定する例が多いようです。尿中furosemide陽性の本邦報告例15例については11例が服薬を否定している、としています。

[健康食品に含有される無承認無許可薬物]
痩身効果をかかげた健康食品にはフロセミドの他にもセンナ、マジンドール、エフェドリンなどを無承認無許可で含有しているものがインターネットなどを通じて流通しており、こういった健康食品での健康被害にも注意が必要です。
       
商品例
添加されていた医薬品および化学物質の種類
痩身効果をかかげた健康食品
センナ フェノールフタレイン フロセミド
フェンフルラミン マジンドール
N-ニトロソフェンフルラミン シブトラミン
エフェドリン 乾燥甲状腺
強精効果をかかげた食品、雑貨
男性ホルモン薬
シルデナフィル(バイアグラ)
リドカイン
美肌効果をかかげた化粧品
水銀、ステロイド薬

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