小児の夜間の咳は、その親の心配な原因の一つかと思います。咳が収まりとりあえず寝付いてくれればその不安も和らぐことが多いでしょう。小児の風邪の症状では発熱も心配ではありますが、夜間の咳に対する治療が子供も含めた両親の安心感につながる重要な治療だと思います。
小児外来ではツロブテロールテープ剤が処方されることも多いと思いますが、本来は気管支喘息,急性気管支炎,慢性気管支炎,肺気腫による気道閉塞性障害に基づく呼吸困難症状の改善に適応があります。明らかな適応がない場合については、風邪の咳止めとして安易な使用は控えるべき薬剤ではないかなと思います。
医療機関の診療が終了してしまった夜間、救急外来へ行くまでもないけれども咳がつらそうなので、市販の咳止めOTC薬の購入を検討するケースもあるかと思います。OTC咳止めは効果があるのでしょうか。
【OTC咳止めは本当に効くのか?】
Over-the-counter medications for acute cough in
children and adults in ambulatory settings.
Cochrane Database Syst Rev. 2012
Aug 15;8:CD001831.
急性咳嗽に対する経口OTC鎮咳薬の効果を検討したシステマテックレビューです。
P:小児または成人患者に
E:OTC咳止め薬を投与すると
C:プラセボに比べて
O:咳の症状はどうなるか
ランダム化比較試験のシステマテックレビューで2名のレビューアーが評価しています。
これによれば、鎮咳薬(2研究)、抗ヒスタミン薬(2試験)、抗ヒスタミン薬+充血除去(2試験)及び鎮咳薬/気管支拡張剤の組み合わせ(1試験)は、いずれもプラセボに比べて明確な差が出なかったとしています。市販のOTC医薬品の咳に対する効果は明確なエビデンスに乏しいという衝撃的なレビューです。【子供の咳には、はちみつが効く?】
インターネットで咳に対する民間療法をしらべてみると蜂蜜が効果があるような記載があります。小児の咳に関してアメリカ小児学会誌に興味深い論文が掲載されています。
Effect of Honey on
Nocturnal Cough and Sleep Quality: A Double-blind, Randomized,
Placebo-Controlled Study
Pediatrics. 2012 Sep;130(3):465-71
P:小児上気道感染症、夜間の咳、が続く1から5歳までの300人の小児
E:ユーカリ蜂蜜10g就寝前投与64例
E:柑橘類の蜂蜜10g就寝前投与62例
E:シソ科の蜂蜜10g就寝前投与73例
C:プラセボの就寝前投与71例
O:咳の症状
2重盲検ランダム化比較試験です。
3種類全ての蜂蜜製品およびプラセボ群では、治療の夜に、治療前の夜から有意な改善があり、その改善は蜂蜜グループのほうが大きかったという結果でした。
小児における蜂蜜の咳に対する効果はコクランでもレビューされていました。
Honey for acute cough in childrenCochrane Database Syst Rev. 2012 Mar 14;3:CD007094.
P:外来における2歳~18歳の小児
E:蜂蜜単独または抗菌薬と蜂蜜の併用
C:無治療またはプラセボあるいは他の鎮咳OTC薬
O:小児の急性の咳症状
ランダム化比較試験のシステマテックレビューです。
2名のレビューアが独立して評価しています。このレビューでは蜂蜜は咳の症状緩和に無治療、あるいはジフェンヒドラミンよりも良いかもしれないがデキストロメロルファンより効果が優れているといえないとして、蜂蜜の使用について明確な根拠が不足しているという結論でした。
咳の症状に対して7ポイントのリッカート尺度を用いて検討した蜂蜜の効果は、無治療に比べて咳の頻度を減らしていますが、論文のバイアスが高いとしています。
■mean difference (MD) -1.07; 95% CI -1.53 to -0.60; (2試験154例を対象)
蜂蜜は無治療に比べて、そして市販薬のリスク、ベネフィット、コストを考慮すれば、市販薬よりその使用を検討する価値は十分あるのかなと思います。ただ、蜂蜜の中には芽胞を形成し活動を休止したボツリヌス菌が含まれている場合があり、1歳未満では乳幼児ボツリヌス症を引き起こすことがあるため注意すべきです。
【ベポラッブって本当に効くんですか?】
テレビのCMでもおなじみで昔からある、胸に塗る外用薬剤ですが、これって本当に効くのでしょうか?その有効性分は以下のような感じです。■dl-カンフル■テレビン油 ■l-メントール ■ユーカリ油 ■ニクズク油 ■杉葉油 添加物:チモール、ワセリン
いまいちピンときません。実はこの薬剤、検証された臨床試験がアメリカ小児学会誌に掲載されていました。
Vapor Rub, Petrolatum, and No
Treatment for Children With Nocturnal Cough and Cold SymptomsPediatrics. 2010 Dec;126(6):1092-9.
http://pediatrics.aappublications.org/content/126/6/1092.long
P:2から11歳の138例の小児
E:ベポラッブ44例
E:ワセリン47例C:無治療47例
O咳の症状はどうなるか?
2重盲検ランダム化比較試験です。
症状スコアは無治療群に比べてベポラップ群ではスコアが改善したが、ワセリンは、各症状に対して無治療よりも有意に良好ではなかった。刺激性の副作用は、ベポラップ使用の参加者でより多くみられた。という結果でした。さらに小児やその両親の睡眠障害も改善しています。
【ベポラッブは安全な薬なのでしょうか?】
本邦ではこの薬剤6カ月から使用できるとされています。外用剤ですし、含まれている有効成分を見てもそれほど危険な薬剤ではなさそうですが・・。ただ少し気になる報告が、CHEST誌に掲載されています。
Vicks VapoRub Induces Mucin Secretion, Decreases
Ciliary Beat Frequency, and Increases Tracheal Mucus Transport in the Ferret
TracheaCHEST. January 2009;135(1):143-148. doi:10.1378/chest.08-0095
論文のイントロダクションで18カ月の健康患児が鼻の下に塗ったことで呼吸困難を引き起こした症例報告の記載があります。この論文自体は動物実験ではあるものの薬剤の刺激で気道粘液の分泌が亢進し、抹消気道閉塞を示唆した文献で、軽視できないものかなと思います。先のアメリカ小児学会誌の報告も対象患者が2歳以上からでしたので、基本的には2歳未満の患者への使用や鼻の下には塗布しない、7日以上使用しないという点に留意すべきだと思います。
【結局のところ、どうしましょうか】
個人的な結論ですが、基礎疾患(喘息等)がないと仮定した場合を考えてみます。
市販の総合感冒薬、多数の薬剤が配合されておる点が少し問題かなと思います。ポリファーマシーのde-escalation“薬をいかに使用しないか” でも触れましたが、小児においても多剤併用は薬剤による有害事象が増加します。Br J Clin Pharmacol. 2010 Sep;70(3):409-17.
またOTC咳止めに明確な効果が期待できないとすると、2歳以上で夜間急な咳の発症で寝付けない時、市販薬を買うのであればベポラッブ、あるいは、はちみつを寝る前に飲ませるのも良いかもしれません。ただはちみつは、1歳未満には使用するべきではありませんし、ベポラッブは2歳未満での使用は私はお勧めしません。また鼻の下には直接塗布しないこと、7日以上連用しないことが基本です。
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