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2014年7月2日水曜日

学問を好きになるという事

このブログ趣旨とは全く関係ありませんが、たまには自分のことでも書いておきます。まあ薬学部を受験する際は化学の成績をあげなくてはいけませんので、化学嫌いの高校生にはほんの少し参考になるかもしれません…。

[高校化学]
高校化学は大きく「理論化学」、「有機化学」、「無機化学」の3分野に分かれています。このうち無機化学はその多くが暗記、知識量がモノを言う分野で、有機化学はある程度の法則性、規則性から異性体の数や置換基の配向性などを推測し反応経路を予測できる点ですべてが暗記分野と言うわけではありません。しかしながら、高校化学の基本的な部分は理論化学分野に集約されていると言ってもよく、この分野でつまずくと、化学全体の理解に支障が出てくる可能性があります。大抵の参考書はこの理論化学から解説されており順番通りに進めていけばよいわけなのですが、この理論化学分野、化学が苦手な人にはかなりしんどい部分です。計算問題も多く、数学が不得意な人や“物理が苦手だから化学を選択した”という人にとって、理論化学を最初にマスターしなくてはいけないというミッションは、化学の苦手意識を助長するのに十分なインパクトです。

[化学第1回目の講義]
そんな僕も高校時代、よほど成績が悪かったせいもあり大学進学など半ばあきらめていましたが、ふとしたきっかけで薬学部なるものをこころざし、それまで文系だと思っていた進路(と言っても国語の成績も悪く、まともなのは日本史の成績くらいでしたが…。)を無理やり理系に転向させました。化学なんてさっぱりで、もうどうしようもない状態だったのですが、当時通い始めた、予備校の第1回目の化学の授業(当然ながら理論化学の一番最初の内容、そう周期表です)この授業が僕を理系の世界へ踏み出させた一歩となる衝撃の授業でした。

[ドミトリ・メンデレーエフさんの偉業]
周期表の生みの親と言われているのはロシアの化学者、ドミトリ・メンデレーエフ(18341907)です。周期表には110種類以上の元素が表示されていますが、メンデレーエフの時代にもすでに元素なる認識は存在し、当時、約60種類ほどの元素が見つかっていました。
メンデレーエフは元素の持ついろいろな化学的性質に注目して、性質のよく似た元素どうしをグループにまとめたことから後に大きな発見をします。それはグループに属する元素の周期表上での繰り返し方から考えて、いくつか元素がまだ未発見らしいという事です。メンデレーエフのすごいところは同じような性質の元素をグループ化することで見えてきた周期律という特性から、いまだ存在しない元素を予測して、これを未知の元素として取り扱ったところにあります。
メンデーエフは1869年に周期表として、彼の知見をまとめますが、未知の元素はその周期表では空欄で示され、その空欄はのちの化学者たちによってメンデレーエフの予測通り、次々と埋められていくことになります。

[メンデレーエフが予測した世界]
例えばメンデレーエフが予測した元素の例としてエカアルミニウム、エカホウ素、エカケイ素があります。これら元素はそれぞれ ボアボードランドが発見したガリウム 、ニルソンとクレーヴェが発見したスカンジウム 、ウィングラーが発見したゲルマニウム に当たります。「エカ」とはサンスクリット語の数詞「1」を意味すると言います。エカケイ素というのはケイ素の一つ下の元素、すなわちゲルマニウムを意味しています。
メンデレーエフは当時未知の元素の存在だけでなく化学的性質が類似しているという仮説のもと、未知の元素の性質をも予測しました。原子量や密度、沸点、化合物の特性まで、のちに発見され研究された結果とほぼ類似していたというから驚きです。

[学問を好きになるという事]
科学的データから同一性を抜出し未知なる世界を想像する。周期律という“ルール”から“世界”を類推するというこの思考は、高校時代の自称文系の僕にとって大変衝撃的なものであり、未発見の物体の存在を意識しながら世界全体を見つめるというメンデレーエフの視線は僕を理系に引き付けるに十分なインパクトでした。
ある学問を好きになるというきっかけは、たった一つの衝撃で事足ります。講義の内容が良くまとまっていて、とてもわかりやすいものであったとか、効率よくまとめられた内容であったか、そのような“コンテンツ”はさしあたって重要でない気がします。理解できると勉強が楽しいという事はありますが、それを生涯続けていこうとは多くの場合、思いません。「勉強になりました」、と言うようなコンテンツは多くの場合、学習者本人の自己学習という意味で、その継続・発展性を失っているのかもれない。
しかしその内容が、勉強になっているかどうかは別としても、自分にとって、今までの思考ががらりと変わるような、とても衝撃的なものであればその学問を継続して学んでいきたいという衝動に駆られていく、そういうものだと思います。化学をこうやって整理すれば良い点をとれる、大事なのはこの部分だと言ったような効率的な学習方法は成績向上には大きな貢献をしますし、おそらく受験勉強という枠組みの中では驚異的な威力を発揮します。効率的な学習なしでは受験は乗り切れないでしょう。

ただこのような効率的な学習方法を提示することが仕事である大手大学受験予備校の講師が第1回目の授業であえて、その時間の多くをメンデレーエフと周期表についての話題に割いたことそのものが重要なメタメッセージだったのだろうと、今でも思い出すことがあるのです。学生のうちにそのような衝撃に出会っておくことにどれほどの意味があったか、多くの場合、その後の人生を経てようやく気づきますよね。

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