[お知らせ]


2015年1月3日土曜日

平成26年度第9回薬剤師のジャーナルクラブの開催のお知らせ

ツイキャス配信日時:平成27125日(日曜日)
■午後2045分頃 仮配信
■午後2100分頃 本配信
なお配信時間は90分を予定しております。

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※ツイキャス配信はこちらから→http://twitcasting.tv/89089314
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ツイキャス司会進行は、精神科薬剤師くわばらひでのり@89089314先生です!
ご不明な点は薬剤師のジャーナルクラブフェイスブックページから、又はプロフィール記載のメールアドレスまでご連絡下さい。

[症例16:新しい経口抗凝固薬はワルファリンよりも優れているのでしょうか?]

【仮想症例シナリオ】
あなたは, とある保険薬局に勤務する薬剤師です.
冬の寒さが身にしみるある日の朝早くに, 一人の患者さんが薬局を訪ねてきました.
69歳女性. 身長155cm, 体重40kg, 血清クレアチニン値0.67mg/dL.
4
年前より永続性心房細動にてワルファリンを服用中.
高血圧の既往もあって, 現在はカルシウム拮抗薬を1剤併用している.
規則正しく薬は飲んでいるが,
毎回診察時に実施される採血がやや面倒と薬局でぼやくこともある.
ある時突然, 新しい血液サラサラの薬に切り替えてみようかとDr.から打診された.
けれど, 症状が落ち着いている状態でなぜ薬を変えるのかイマイチ納得できないので, 次回まで考えるとDr.には伝えている.
「薬のことならあなたに相談するのが一番と思って. 先生だったらどう思います?」
ワルファリンから新しい抗凝固薬に変更した方が, この方にとって有益なのかどうか, さっそく調べてみることにしました.

[文献タイトルと出典]
Rivaroxaban vs. warfarin in Japanese patients with atrial fibrillation – the J-ROCKET AF study –.
Pubmed : http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=PMID%3A+22664783
PDF → https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/advpub/0/advpub_CJ-12-0454/_pdf


[非劣性試験をどう読む?]
本年、第1回目の配信となります。シナリオ作成は山本雅洋先生です。お忙しい中、シナリオを作成いていただき、誠にありがとうございました。

今回はリバーロキサバンとワルファリンの直接対決試験です。この研究はプラセボ比較のランダム化比較試験ではなく、介入群、比較対象群ともに実薬を使用しています。通常であれば「リバーロキサバンの(アウトカムに対する)有効性はプラセボ差がない」という“帰無仮説”を統計的検定という手続きにより“棄却”し、「リバーロキサバンの(アウトカムに対する)有効性はプラセボと同等ではない」ことを示すわけですよね。ややこしい言葉を取り除きシンプルに言えば「リバーロキサバンはプラセボと比較して優れた有効性を有することを示したい」というわけです。

この論文の研究は実薬、すなわち比較対象がワルファリンです。そのために「リバーロキサバンはワルファリンに比べてその有効性はどの程度なのか」というクリニカルクエスチョンに対する示唆をこの研究で示すことが目的であります。

さて心房細動患者に対する抗凝固療法の効果はおおむねワルファリンにてリスクベネフィットが検証されていますし


The net clinical benefit of warfarin anticoagulation in atrial fibrillation.

心房細動+リスクファクターと脳卒中リスクの関連も有意であることは疫学的研究からも現代医療ではほぼ常識に登録されていいます。

リスクファクター
点数
CHADS
スコア
脳卒中年間発症率%
95%信頼区間]
心不全
1
1.91.23.0
高血圧
1
2.82.03.8
75歳以上
1
4.03.15.1
糖尿病
1
5.94.67.3
脳卒中・TIAの既往
2
8.56.311.1

12.58.217.5
18.210.527.4

CHADSスコアと年間脳卒中発症率JAMA. 2001 Jun 13;285(22):2864-70 PMID: 11401607より作図

その為に、心房細動を有する脳卒中リスクの高い患者を対象とした臨床試験を計画する際には、ランダム化によりプラセボ群に割り当てられた人は、リスクの高いまま治療されないことを強いられてしまうわけです。現代社会ではこれは倫理的に許容されません。こういった問題を回避するために行われるのが、アドオン試験、もしくは実薬対照試験と呼ばれる研究デザインです。

アドオン試験はその名の通り、検討したい薬剤を上乗せ治療する群と、上乗せ治療しない群を比較します。具体的には脂質異常症患者に対して行われたMEGAstudyが有名でしょうか。
Primary prevention of cardiovascular disease with pravastatin in Japan (MEGA Study): a prospective randomised controlled trial.
この試験は食事療法+プラバスタチンと食事療法単独を比較した研究でした。この場合、当然ながら比較対象群を食事療法+プラセボとし、2重盲検法を用いた研究デザインも可能ですが、コストの観点等(事実上血液検査などの情報についても盲検化する必要があったり、プラセボを作成する手間などが増える)からオープンラベルで行うPROBE法を採用した臨床試験でした。

そしてもう一つが今回のような実薬対象試験です。実薬に比べて優れているかを検討するケースもあるかと思いますが、ワルファリンはすでに心房細動患者に対するベネフィットが現代医療の常識的に確立された薬剤です。少なくともワルファリンと比較して、その有効性が劣っていないことを示すことができればよいわけですよね。このような目的で行う研究を非劣性試験と言います。

実は臨床試験においては「差があるとこを示すより、差が無いことを示す方が難しい」という事は覚えておいて損はないでしょう。膨大なサンプルを集めていくと有意差が非常に出やすくなるからです。すなわち、膨大なサンプルを集めて、それでも有意差がないことを示すのは現実問題不可能です。通常の臨床試験のサンプル規模では大規模試験でさえも、有意差なし=同等と言うわけではありませんし、既存の薬に比べて差が無いという事を示すにはどうすれば良いのか、そういった問題をクリアするために生まれたのが非劣性試験や同等性試験です。

非劣性試験は介入間の違いの95%信頼区間が、臨床的に劣ると事前に定義された基準値を下回るかどうかに基づいて判断であり、劣っていないことのみ焦点を当てる片側性の検討です。臨床的に劣ると事前に定義された基準値、非劣性マージンはあらかじめ設定された数値で、この値を95%信頼区間上限が下回れば非劣性が示されたこととなります。

少し実例を見てみましょう。
Tiotropium Respimat Inhaler and the Risk of Death in COPD

この試験はスピリーバカプセルとスピリーバレスピマットを比較して死亡を含む安全性を検討した実薬対照の非劣性試験です。論文のPECOを簡単に示すと以下のようになります。
[Patient]
40歳以上の慢性閉塞性肺疾患を有する17315人(平均65歳、男性71.5%、現在喫煙者38.1%
[Exposure]
スピリーバレスピマット2.5μg 5730
[Exposure]
スピリーバレスピマット5μg 5711
[Comparison]
スピリーバハンディヘラー18μg 5694
Outcome
死亡(非劣性検討)
統計解析はITT解析ではなく修正されたITT解析です。非劣性試験では必ずしもITT解析が良い手法だとは言えないというところも大きなポイントです。

ITT解析とはIntention-to-treat解析の頭文字をとったものですが、一度特定の群に割り付けたら、実際の治療が行われなくても、あるいは他方の群の治療を受けたとしても、最初に割り付けた群のままで統計解析を行い、最初に意図したとおりの群のまま解析するという事です。一方Per protocol解析は実際に治療を受けた人のみ解析対象にする手法です。
試験から脱落してしまって、薬を飲まなくなってしまった人を、薬物治療群とするか、プラセボ群とするか、どちらの治療群として扱うべきかという問題が起こった時に、最初に割り付けた治療群のままで解析をしましょうというのがITT解析です。最初に割り付けたグループと異なるグループとして解析してしまうと、せっかくランダム化により患者背景を偏りなくそろえたのに、それを保持することが難しくなってしまうことがあるのです。すなわちITT解析はランダム化を保持する目的で行います。

ITT解析はランダム化を保持する、と言う意味で有用な解析方法ですが、一般的にはもう一つ利点があるとされています。試験からの脱落は、何らかの理由があって発生します。副作用がきつい、とか介入治療にともなう精神的苦痛など研究プロセスへの不満なども影響してきます。試験終了まで元の群にとどまったとしてもアドヒアランスはかなり低下しているかもしれません。割り付け重視のITT解析を用いることで、実臨床に近いアドヒアランスを再現することができます。これにより、治療効果の過大解釈を防ぐ(有意差が出にくくなる)ことができます。したがってITT解析を行うと差なし仮説の側に片寄りやすくなります。そのため非劣性という結果に陥りやすくなるため、非劣性試験では修正されたITT解析などPer protocol解析に近い手法で統計解析されることが多いのです。

では結果はどのようなものだったのでしょうか。差なし仮説に偏らないためのより厳しい評価と言う点で、結果の信頼区間には97.5%信頼区間を用いることも多いです。95%信頼区間に比べて信頼区間の幅が狭くなるため、有意差が出にくくなるのとは逆の方向に振れやすいわけですね。

アウトカム
E
C
ハザード比
95%信頼区間]
死亡
(非劣性マージン1.25
E
440
7.7%)
439
7.7%)
1.00
0.871.14
E2
423
7.4%)
0.95
0.841.09
事前定義された非劣性マージンは1.25でした。結果のハザード比はいずれも25%を下回っており、スピリーバレスピマットの安全性はスピリーバレスピマットに比べて劣っていないという非劣性が示されたという結論になっています。

個々で議論の余地が残るのが死亡リスクが25%増加するというマージンを臨床的に許容できるのか否か、そんな問題も残りますよね。非劣性試験、これは奥が深い研究デザインですね。特に安全性検討においては一つの非劣性試験で安全性が示されたといえど、これをもって安全と結論するのはどうかなぁなどと考えてしまいます。

話が大きく脱線しましたが、非劣性試験について、基本的な概要がつかめたでしょうか。では続きは本配信でまた議論しましょう!


薬剤師のジャーナルクラブ(Japanese Journal Club for Clinical Pharmacists:JJCLIPは臨床医学論文と薬剤師の日常業務をつなぐための架け橋として、日本病院薬剤師会精神科薬物療法専門薬剤師の@89089314先生、臨床における薬局と薬剤師の在り方を模索する薬局薬剤師 @pharmasahiro先生、そしてわたくし@syuichiao中心としたEBMワークショップをSNS上でシミュレートした情報共有コミュニティーです。

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