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2012年6月1日金曜日

構造主義的EBMのススメ


“私たちにとって自明と思えることは、ある時代や地域に固有の「偏見」にほかならない。私たちは自分達が思っているほど自由に主体的に物を見ているわけではない”

内田 樹 氏 寝ながら学べる構造主義 (文春新書)

私たちにとって自明と思えることは、ある時代や地域に固有の「偏見」にほかならないことを問題提起してくれる一つの事例が、コレステロールであると考えています。
多くの人にとってコレステロールが高いことは「悪」であり
「不健康である」ということは常識となっていると思います。
コレステロールが高いということをどう思いますか?
と質問したら、多くの人は食事を気をつけたほうがいいとか
病院へ行って検査すべきだとか、薬を飲むべきだ、と答えると思います。
コレステロールが高いことが不健康であるということは
この世の中において常識なのです。

J Epidemiol. 2011;21(1):67-74 
Low cholesterol is associated with mortality from stroke,heart disease, and cancer
: the Jichi Medical School Cohort Study
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21160131
この論文との出会いによってコレステロール低下治療について
ずいぶんと考えさせられました。
この論文ににおいて高コレステロールは死亡リスクに関与しないばかりか
低コレステロールでは死亡リスクが増加するという結果です。

「ただの観察研究じゃないか。」
「スタチンの死亡リスク低下は臨床試験で証明されているぞ、」
と主張される方は以下の2つの「偏見」に陥っていると個人的に思います。

エビデンスにおいてRCTやそのメタ分析が最も信用できる情報で観察研究は仮説でしかないという「偏見」とスタチンの死亡リスク低下効果はコレステロール低下作用によるものだという「偏見」です。

観察研究は信頼性が低く軽視するべき、と主張される方は高血圧ガイドラインにおける高血圧の定義に関しても軽視すべきです。
ガイドラインにおける高血圧の定義は本邦における観察研究からはじき出されています。
ガイドラインから抜粋すると
「本邦の疫学研究において14090mmHg以上で北海道の端野・壮瞥町研究では心血管死亡が,福岡県の久山町研究では脳卒中発症率が有意に増加してくることが示されており,本ガイドラインでは同様に14090mmHg以上を高血圧としている。」
ただ軽視することが間違えでも正解でもないと思いますしそれが正解かもしれませんが。。

またスタチンはHMG-CoA還元酵素を阻害することでコレステロールを低下させるといわれておりますが、それ以外の独立した生理作用があるかもしれないという側面を無視しています。
私は薬理学の専門家ではないので詳しいことは知りませんが、代謝経路中の一つを阻害すれば末端の生成物阻害作用は1つとは限らない、というのが私の考えです。

このようにコレステロールを下げることを自明のことと、とらえるのはわれわれが自分達が思っているほど自由に主体的に物を見ているわけではないことの証であると考えます。

EBMを実践するうえでエビデンスの批判的吟味も大事であると思いますが、
医療者の臨床判断は必ずしも患者にとって「自明」ではないということを十分認識する必要があります。「偏見」が間違えであると断定することもまた「偏見」ですが、
多角的視点を維持するうえで構造主義的なEBMの実践が求められていると思います。

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