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2013年1月18日金曜日

ジゴキシンとマクロライド系抗菌薬の「併用注意」を考える。


薬剤の“「併用注意」を考える“はシリーズ化していきたいなあと考えています。
ワーファリンと抗菌薬の「併用注意」を考える。

ジゴキシンはジギタリスに含まれる強心配糖体の一種です。心筋収縮力増強作用、除脈作用、抗不整脈作用を有しており、うっ血性心不全や心房細動・粗動による頻脈等に適応を持ちます。古くからある薬剤で、本邦では処方頻度もやや多く、薬剤師の多くが目にする機会の多い薬剤だと思います。

ジゴキシンは多くの薬剤との相互作用が報告されています。相互作用によりジゴキシンの作用が増強した場合、ジギタリス中毒として高度の除脈、発作性辛抱性頻拍等の不整脈症状、さらに重篤な場合は房室ブロック、心室性頻拍症、心室細動に移行することがあるため、その初期症状である嘔気・嘔吐・不整脈等のアセスメントは重要です。

ジゴキシン特有の、このジギタリス中毒は添付文書によれば重大な副作用として記載があるものの、頻度不明となっており、どの程度警戒すべきかが明確ではありません。薬物動態の個人差、基礎疾患、併用薬によってもそのリスクが大きく変わりますので毎回TDMを行えばより安全だとは思いますが、ある程度、そのリスクを定量的に把握しておきたいものです。

  最近、ジゴキシン自体の有害性に関する報告もありました。
Increased mortality among patients taking digoxin-analysis from the AFFIRM study

この薬剤は冒頭述べましたように心房細動に適応を持つ薬剤でありますが、心房細動のレートコントロールにジゴキシンを使用すると全原因死亡リスクが増加するという衝撃的な報告でした。
推定ハザードリスクHER1.4195CI1.19-1.67
この結果は対象患者の心不全の有無にも関係せずリスクが増加しました。また不整脈死亡、心血管死亡だけを検討しても有意にリスクが上昇しました。このように単剤だけでもリスクが存在する薬剤ですが、本邦ではよく使用される薬剤であることに変わりはありません。

さて前置きが長くなりましたが、201212月ジゴキシンの添付文書が改定され、相互作用・併用注意にアジスロマイシン等が追加されました。今回はジゴキシンとマクロライド系抗菌薬の併用に関して、そのリスクについて簡単にまとめたいと思います。

 今回の改訂で併用注意に追加されたのはアジスロマイシンですが、以前より添付文書にはマクロライド系抗菌薬ではエリスロマイシン、クラリスロマイシンがP糖タンパクを介したジゴキシンの排泄抑制によりジゴキシンの血中濃度が上昇する上昇すると記載がありました。今回のアジスロマイシンもほぼ同様の機序だと思われます。引用文献は2009年のもので、なんで今更という感じがします。

Macrolide-induced digoxin toxity :a population-based study

この論文のpubmed抄録はあまりに簡潔すぎて詳細はよくわからないのですが、15年にわたる人口ベースの症例対照研究で、マクロライド系抗菌薬の暴露とジゴキシン中毒による入院リスクを検討した報告です。これによれば各マクロライド系薬剤と中毒による入院リスクは以下の通りです。

■クラリスロマイシン:調整OR 14.8(95%CI 7.9-27.9)
■エリスロマイシン :調整OR 3.7(95%CI 1.7-7.9)
■アジスロマイシン :調整OR 3.7(95%CI1.1-12.5)
ちなみにセフロキシムではリスクに関連しなかったという結果でした。
■セフロキシム   :調整OR 0.8(95%CI 0.2-3.4)

この結果を見ますとクラリスロマイシンのリスクがずば抜けて高いことがわかります。大目に見積もれば約28倍ですから、状況次第では併用は避けたい薬剤です。対象患者の背景や人数、調整された交絡因子が全く分からないので、難しいところですが、アジスロマイシンでも最大で12.5倍ですし、エリスロマイシンでも約8倍という数値は、とんでもないことになっていそうです。

さらにクラリスロマイシンとジゴキシンの相互作用についてpoubmedで検索してみますと以下の論文が見つかりました。

Risk of intoxication caused by clarithromycin-digoxin interactions in heart failiure patients:a population-based study

台湾における心不全患者を対象としたコホート内症例対照研究で、595例が症例に27020例が対象に割り付けられています。クラリスロマイシンの処方とジゴキシン中毒による入院リスクは暴露期間ごとに以下の通りです。

■クラリスロマイシン7日間処方:4.36倍(95CI 1,28-14.79
■クラリスロマイシン14日間処方:5.07倍(95CI 2.3610.89
■クラリスロマイシン30日間処方:2.98倍(95CI 1.595.36

この結果には用量反応相関がみられています。規定量(DDD)に対する処方量(PDD)の比(PDD/DDD)とジゴキシン中毒による入院リスクの関係は以下の通りです。

PDD/DDD2  :55.41倍(95CI 9.31-329.9
PDD/DDD124.81倍(95CI 1.88-12.30
PDD/DDD1   0.78倍(95%CI 0.19-3.20

ジゴキシン服用中の心不全患者にクラリスロマイシンを通常量の倍投与すると、ジゴキシン中毒による入院リスクは最大で300倍以上というすさまじい数字です。当然ながら代替え薬剤がある限りは併用を避けるべきだと思いますし、たとえ、規定量処方されたとしても、患者さんが誤って2回分服用してしまった場合などは、中毒リスクに十分警戒する必要があるでしょう。

 クラリスロマイシンやアジスロマイシンでは抗菌薬そのものに心血管死亡リスクが報告されています。
■クラリスロマイシンBMJ 2006 jan 7:332(7532):22 HR 1.45(95%CI 1.09-1.92)
■アジスロマイシンN Engl J Med 2012;366:1881   HR 2.88(95%CI 1.79-4.63)

 ジゴキシンを服用しているような心血管リスクの高い患者さんでは抗菌薬単独でも、心血管リスクに関して軽視すべきではないと思いますし、ジゴキシンとの相互作用による中毒リスクも警戒が必要です。

ジゴキシンとマクロライドの併用に関するリスクの定量的把握は、処方時のアセスメントにも有用だと思いますが、外来で使用する頻度の多い薬剤であるがゆえに、その後患者さんの、飲み間違えで発生した、過量服用に対する警戒レベルの設定・対処に有用だと思います。

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