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2013年1月28日月曜日

花粉症とドーピングについて。


注意:以下の記事はドーピングに関する情報の正確性・信頼性を保証するものではありません。情報の利用は利用者個人の責任においてご利用下さい。また知識不足の観点から誤った記載がある可能性があります。間違えがございましたら、ご指摘いただければ幸いです。

個人的に僕がスポーツファーマシストの認定資格を取ろうとしたきっかけが、花粉症の治療薬である鼻噴霧ステロイドの使用はドーピング検査で問題ないかという質問でした。当時は調剤薬局薬剤師として耳鼻咽喉科の門前で勤務しておりました。そのため、耳鼻科関連の講演会に行く機会が多く、地域の耳鼻科セミナーの質疑応答の中でこのような質問があったと記憶しています。この質問に対して明確な答えが出なかったのが印象的でした。

花粉症の薬物療法に関して外来で多く処方されるのは基本的に以下の薬剤だと思います。
■抗アレルギー薬内服
■鼻噴霧ステロイド剤
■小青竜湯等の漢方薬
■抗アレルギー剤点眼
これに症状がひどい場合にステロイド内服や血管収縮薬である、塩酸テトラヒドロゾリンの局所使用がされる場合があると思います。

アスリートが薬剤を服用せざるを得ない場合、禁止薬物であるなしにかかわらず、競技パフォーマンスや副作用リスクの観点から、できる限り最小限の薬物で治療を行うのが僕の基本的な考えです。花粉症そのものが競技パフォーマンスを低下させることがあると思いますので、治療は継続したほうがメリットもあるかと思います。

では実際にどのような薬物療法が効果的でかつ安全なのでしょうか。これは僕の個人的な考えで、他にも異論があると思いますし、この方法なら絶対にドーピング検査に引っ掛からないというものではありませんが、可能性としてかなり低く、かつ効果を最大限に引き出す方法を考えてみたいと思います。

各薬剤がWADA2013年禁止表に該当するか確認してみます。

まずは、市販薬でも最近はスイッチが多い抗アレルギー剤です。実臨床でごく一般的に使用される薬剤で使用可能な薬剤の例は以下の通りです。目のかゆみや鼻症状に効果が期待できます。1)
■アレジオン ■アレグラ ■ジルテック ■ザイザル ■アレロック
■クラリチン ■タリオン ■エバステル ■オノン
これが全てではありませんが、これら薬剤は禁止表に記載がなく使用が可能です。ただし、抗アレルギー剤の中には中枢抑制作用が強く出るものがあり、眠気等で競技パフォーマンスが低下し、競技種目によっては影響がかなり出るものもあるかもしれません。花粉症のひどい方は個人的にはこれら抗アレルギー剤はあまりお勧めしません。前述のとおり、競技パフォーマンスへの影響もありますが、これら薬剤単独で中等度から重度の花粉症コントロールは、不可能に近いです。もちろん、これで症状が抑えられる方は、眠気の出にくい抗アレルギー剤を単独で使用する分には禁止表にも該当せず、ドーピングに関しては不安なく使用可能です。

問題なのは抗アレルギー剤単独ではまったく症状をコントロールできない方のケースです。通常の治療では鼻噴霧ステロイドによる治療が中心です。ドーピングを意識した場合、このステロイドというのはなんだか危なそうな感じです。
WADA2013年禁止表によればステロイド=糖質コルチコイドは競技会時禁止薬物に該当しており、以下の記載があります。
「糖質コルチコイドの経口使用、静脈内使用、筋肉内使用または経直腸使用はすべて禁止される」
したがって花粉症で内服使用されるセレスタミンは競技会時禁止薬物(ただし、競技会外の糖質コルチコイドの使用は監視プログラムに掲載されるためにモニターされるとなっています。)となりますが、鼻噴霧によるステロイドは該当していません。

競技会外においてステロイド鼻噴霧剤を使用することはまず問題ないと考えられます。具体的には有効成分がステロイド単独の薬剤である、ナゾネックス点鼻液やアラミスト点鼻液、フルナーゼ点鼻液などです。

問題なのは競技会時ですが、投与経路としては禁止に該当していませんので、使用は可能だと思われます。ただし用法用量を逸脱すればドーピングを疑われる可能性もありますので、定められた用法で使用することが前提となります。効果はやや劣りますが、抗アレルギー剤の点鼻剤(ザジテン点鼻薬、インタール点鼻薬)であれば、禁止薬物に該当していないため安全に使用可能です。

症状がさらにひどい場合は薬もたくさん服用したくなりますが、ステロイド鼻噴霧と抗アレルギー剤の併用はそのメリットが期待できないためまったくお勧めしません。2)3)

症状がひどい場合の頓用として使用される薬剤に関しては、その服用は個人的にはお勧めしません。ステロイド内服は競技会時禁止薬物となります。競技会外は使用可能となりますが、ステロイドは抗炎症効果があり、怪我をしてもその炎症をおさえ競技を継続できてしまうリスクや、免疫抑制作用により感染症に罹患しやすくなるリスクなど、副作用も多い薬剤です。花粉症は早期から治療することで症状軽減につながるといわれておりますので、なるべく早く医療機関受診をお勧めします。またプリビナ液などナファゾリンの局所使用は禁止されていませんが、多量に使用するとドーピングが疑われる可能性が否定できないためにこれら薬剤の使用もお勧めしません。

花粉症治療において良く使用される漢方薬の小青竜湯は構成生薬に麻黄を含んでおり、これがエフェドリンを含有しています。エフェドリンは競技会時禁止薬物にしてされており、こらの服用もお勧めできません。小青竜湯の服用で尿中にエフェドリンが検出されたという報告があります。4)

花粉症に対する薬物治療とドーピングに関してまとめてみますと、

■抗アレルギー剤は軽度の花粉症であれば効果が期待でき、禁止薬物にも該当せず、使用可能。ただし、眠気の強く出る薬剤は競技パフォーマンスに影響が出る場合がある。
■中等度~重度の花粉症の場合は抗アレルギー剤単独でのコントロールが難しく、ステロイド鼻噴霧剤を用いることで効果が期待できる。ステロイドは競技会時禁止薬物に指定されており、経口使用、静脈内使用、筋肉内使用または経直腸使用はすべて禁止されている。そのため競技会外であればまず問題なく使用可能。競技会時は局所使用で禁止されていないため点鼻の使用は可能と考えられるが、過量使用すればドーピングを疑われる可能性も否定できないため用法用量を厳守する。
■抗アレルギー剤とステロイド鼻噴霧剤の併用はあまりメリットがなく勧められない。
■局所血管収縮薬は大量使用でドーピングが疑われる可能性があるため勧められない。
■小青竜湯はエフェドリンが含有されているうえ、明確な成分特定ができないため、お勧めできない。
■市販薬には複数の薬剤が配合されており、禁止薬物に該当するリスクも増加しますので、花粉症により競技パフォーマンスが著しく低下する方は市販薬ではなく耳鼻咽喉科の受診を推奨。シーズン早期の受診が症状をひどくしないポイント。

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