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2013年7月10日水曜日

病気と検査とヒトの価値観

専門的な話の中ではなく、あくまで一般的な状況での話の中で、スクリーニング検査で本来は病気のはずなのに検査で陰性であった、「偽陰性」という概念は何となくわかりやすいのですが、本当は病気がないのに検査で陽性が出てしまった「偽陽性」という概念はあまり意識されていないように思います。“検査をしても病気は完全には拾えない”これは納得できるんです。どんな優れた検査でも拾えないことはある。絶対なんて検査はないというのは非常に分かりやすいんです。でも「検査をすることで病気でない人が病気になる」という確率が確かに存在することを想像してもらうのは一般の方には時に困難です。
しかも、不安だから検査をすればするほど、偽陽性の確率は上がかもしれません。毎日検査を受ければ病気はなくともいつかは病気となってしまうかもしれない。検査を受けたほうがよいという考えは、この偽陽性確率というものが集団的価値観から排除されていると思うのです。
逆に感度60%~70%の検査でインフルエンザが陰性でもインフルエンザを除外できるわけではなく、事前確率によっては偽陰性の確率がかなり高いのに、なぜか抗菌薬が処方されることも。検査で(+)ならタミフル、(-)なら抗菌薬みたいな現実もあります。
スクリーニングで○か×かなんて、はっきり分かることは少ないという事実、検査の精度というものを偽陽性という概念も含めて理解しておかないと、とりあえず、検査をしておけば安心だなどという、大きな誤解を生むことになります。薬剤師は診断をするわけではありませんが、検査の性能を知ることは、検査の負の側面の理解を助ける上で非常に大事だと思います。

ヒトは多くの場合で集団的価値観にとらわれていることが多いと思います。会社で健康診断を実施する、健康診断は病気を早期発見するために「良いこと」なのでしょうか。これは人それぞれの文脈に依存することが多いと思いますが、一律に健康診断を受けることが「善」という思考停止は避けたいなと考えています。確かに賭けだと思います。検診を受けることで救われる人もいるし、病気でない人が本来は不要な治療を強いられることもある。ただこ、うした負の側面を思考から欠如することだけはしたくないと思います。だから検査を受けましょうという一方的な考えではなく、患者さんの文脈というものを大事にしたい、そう思うのです。

この50年、日本人の食生活は確実に欧米化しました。そして「メタボ」という言葉ができて、メタボをスクリーニングするシステム、特定健診なるものまでできました。
高血圧や、高コレステロール、高中性脂肪が「悪」という集団的価値観の世の中で、平均寿命は世界一の国となりました。
この50年、食生活は欧米化してメタボが増えました。高血圧や、高コレステロール、高中性脂肪が「悪」という集団的価値観の世の中で、実は年齢調整した脳血管疾患や心疾患は減っている、という側面がこのような価値観から欠如されているような気もしています。
http://ganjoho.jp/data/professional/statistics/backnumber/2012/fig12.pdf

ヒトの集団的価値観は全体を見ているようで見ていないし、また詳細を知っているようでまるでわかっていない、とても不完全な存在なのかもしれません。生活習慣を改善することが、どういったアウトカムをもたらすのか、そもそも生活習慣は悪かったのか、食の欧米化がもたらしたものといことが、負のイメージ=価値観として先行するこの世の中でもう一度、考えてみたいと思います。本当にリスクなのは世界一長寿となった事実そのもの、すなわち加齢ではないかと。いいかえれば生きるということそのものだと。

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