[お知らせ]


2014年7月7日月曜日

ロドデノール(rhododendrol)誘発性白斑に関する基礎研究について

ロドデノール配合の化粧品を使用して肌がまだらに白くなったという事例が報告され、2013年カネボウ化粧品とその関連会社は、化粧品と白斑との関連性が懸念されるとしてこの成分を配合する8ブランド54製品を自主回収しました。この有害事象は現状十分に解明がされていない状況でありましたが、ロドデノールの毒性に関する詳細な基礎研究が報告されていましたので一部主要部分をご紹介いたします。なお訳には自信がありませんので、詳細は原著論文をご確認ください。

Sasaki M1, Kondo M, Sato K et al Rhododendrol, a depigmentation-inducing phenolic compound, exerts melanocyte cytotoxicity via a tyrosinase-dependent mechanism. Pigment Cell Melanoma Res. 2014 May 29. PMID: 24890809

[はじめに]
Rhododendrol (4-(4-hydroxyphenyl)-2-butanol, Rhododenol®)ロドデノールは白樺など天然に存在するフェノール化合物で、化粧品として肌の美白を目的に研究開発がなされてきました。その後、ロドデノール2% (w/w)を含有する製品が市販化され、本邦では約5年にわたり、入手が可能でした。しかしながらロドデノールがdepigmentary disorder(ロドデノール誘発性白斑)を引き起こしている可能性を示唆する報告が相次ぎ市場から消えました。

有害事象 発表後約6ヶ月の時点では、色素脱色の症状はロドデノールを含む化粧品の推定使用者800000人のうち約 160002%)で確認されていました。症状は、主に薬品と繰り返し接触した部位で観察され、6ヶ月間使用を中止していた被害者の79%は改善傾向を示しました。臨床的および病理学的詳細はまだほとんど知られていない、このロドデノール誘発性白斑の病因は、緊急の明確化が必要でした。

化学物質による白斑は、表皮メラニン細胞に損傷を与える特定の物質への反復暴露によって引き起こされた色素の脱色と言われています。原因となる化学物質は、フェノール、カテコール類など大部分は芳香族または脂肪族誘導体ですが、例えば、スルフヒドリル、水銀、ヒ素、桂皮アルデヒド、p-フェニレンジアミン、ベンジルアルコール、アゼライン酸、コルチコステロイド、エセリン、チオテパ、クロロキン、およびフルフェナジンなども同様に脱色効果を引き起こすことが可能であると言われています。ただ致命的であることを示唆する根拠はありません。

ヒドロキノンのモノベンジルエーテル(MBEH)及び4-tert-ブチルジフェノール(4-TBP)は特発性白斑を引き起こすことが知られているフェノール系化合物として広く知られていました。MBEHにさらされた患者は、一般的に永久的な脱失を受けると言われています。また、4-TBP化合物は、ゴム、皮革業界で働く個人に職業白斑の原因となり、特にメラニン細胞に対して細胞毒性であることが示唆されています。これらのフェノール化合物の作用メカニズムは不明確な部分が多いもの、化合物の特徴としてチロシンにたいして構造的類似性を持つことからメラニン生成の律速酵素であるチロシナーゼに対する基質として作用することが考えられています。メラニン細胞チロシナーゼの触媒作用により、フェノール化合物からの反応性のo-キノンラジカルの生成をもたらし、これが酸化的ストレスや細胞毒性を誘導する可能性が考えられています。具体的には4-TBPは、アポトーシスを引き起こし、一方、MBEHは、非アポトーシス細胞死(壊死性の細胞死)を誘導すると言われています。

本研究では、フェノール化合物との繰り返しの接触によって引き起こされた可能性のあるロドデノール誘発性白斑のメカニズムを理解するために、培養ヒトメラノ細胞に対するロドデノールの影響を調べた

[結果]
ロドデノールは培養ヒトメラニン細胞のチロシナーゼ活性を抑制する。
ロドデノールはマッシュルームチロシナーゼに対し、競合阻害を引き起こす

ヒトメラニン細胞におけるチロシナーゼ活性を抑制効果とともに、マウスメラノーマ細胞におけるメラニン生成の抑制が確認されています。ラインウィーバー·バークプロット分析1)より阻害様式は競合阻害を示しており、チロシナーゼの基質として作用している可能性があります。

ロドデノールはマッシュルームチロシナーゼのための良好な基質として働く
チロシナーゼ活性はロドデノール細胞毒性のために必須である
ロドデノールは、ヒトメラニン細胞において検出可能な活性酸素種(ROS)を誘導しなかった

(ロドデノール⇒(チロシナーゼ)⇒代謝産物の細胞毒性)
L-チロシンのKmに匹敵値するほどの反応速度で基質として働く可能性が示唆されました。ロドデノールはメラニン細胞内のチロシナーゼ活性によってキノンロドデノールに酸化されることを示唆しています。ロドデノールはチロシナーゼ活性を阻害し、メラニン形成を阻害しますが、阻害様式は競合阻害のため、自身が酸化され、そのキノンロドデノールが細胞障害を引き起こす可能性が見いだされ、同時にロドデノール細胞毒性作用はチロシナーゼ活性に依存していると言えます。一方で、活性酸素の有意な検出はできませんでした。

ロドデノールはチロシナーゼ依存的に小胞体ストレス応答を活性化させる
ロドデノールはカスパーゼ3を活性化するが、チロシナーゼsiRNAによりその活性化が阻害される
ロドデノールは、ヒトメラニン細胞におけるカスパーゼ-3の活性化2を誘導し、チロシナーゼsiRNA3は、その活性化を阻害することからロドデシノールに誘導されるカスパーゼ3活性化はチロシナーゼに依存していることが示唆された。

[結論]
以上より、ロドデノールのメラニン細胞毒性は活性酸素などによる細胞障害の可能性は低く、チロシナーゼによる酸化をうけたロドデノール代謝物が小胞体ストレス応答の活性化、あるいはカスパーゼ3を活性化、もしくはその両方の経路でアポトーシスを誘導することにより、細胞毒性を発現する可能性が示唆された。


[訳者注釈]
1)酵素の阻害証式はラインウィーバーバークプロットという手法を用いることで判別できる。競合阻害様式は、本来のチロシナーゼの基質であるチロシンにロドデノールが構造的に類似しているため、チロシナーゼ反応物の生成が阻害される様式である。ロドデノールもチロシナーゼと良好に反応することがミカエリス定数(KM値)より推測され、容易にロドデノール代謝物が生成される。本事例における細胞毒性はこの代謝物によるものと考えられている。

2)カスパーゼや小胞体ストレス応答はいずれもアポトーシスに関わる重要な経路。


3)siRNAとはRNA干渉することで配列特異的にタンパク発現を阻止する小さなRNA。実験的にはsiRNAを細胞内へ注入し、配列特異的にタンパク合成を抑制することができる。チロシナーゼを発現するための遺伝配列に対するsiRNAを投与することにより、チロシナーゼの発現を抑制することが実験的に可能となります。チロシナーゼ抑制でアポトーシス誘導経路の一つであるカスパーゼ活性化が阻害されたことから、ロドデノールのアポトーシス誘導にはチロシナーゼが関わっており、かつ細胞障害機構はネクローシスではなくアポトーシスである可能性が示唆されています。

2014年7月4日金曜日

DPP4阻害薬と新たな有害事象の懸念

[DPP4阻害薬と急性膵炎]
本邦発売当時より海外でも報告があったことから、DPP4阻害薬の有害事象として僕が注目してきたのが急性膵炎リスクでした。しかしながら最近の報告ではDPP4阻害薬と急性膵炎との関連は低いという印象です。

(個人レビュー:20143月)DPP4阻害薬と急性膵炎に関する考察  
DPP4阻害薬が原因と思われる症例報告が多数存在する
DPP4阻害薬と急性膵炎との関連が示唆される症例対象研究が報告されている
ランダム化比較試験のメタ分析では関連性は示唆されなかった

この時点では因果関係が示されているわけではありませんが、関連がないことも示されておらず、現時点では関連性・因果関係は不明でした。しかしながらDPP4阻害薬群は承認され間もない薬剤であり、今後の症例報告や疫学的研究の報告に注視するとともに、DPP4阻害薬服用中の患者では上腹部痛や嘔気などの臨床症状に十分留意し、薬剤による急性膵炎を長期的に警戒すべきと結論しました。そしてその後、観察研究での報告が相次ぎました。

Glucagon-like peptide 1-based therapies and risk of pancreatitis: a self-controlled case series analysis.Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2014 Mar;23(3):234-9.PMID: 24741695
セルフコントロールドケースシリーズという個人的にはリスクの分析において非常に重要視している研究デザインの報告です。急性膵炎発症はシタグリプチンで245例、エキセナチドで96例、いずれにおいても95%信頼区間が1をまたぎ、明確な差はないという結果でした。

Incretin treatment and risk of pancreatitis in patients with type 2 diabetes mellitus: systematic review and meta-analysis of randomised and non-randomised studies BMJ. 2014 Apr 15;348:g2366. PMID: 24736555
こちらは観察研究を含むメタ分析。この報告でも膵炎発症に明確な差は出ませんでしたが、より入念にデザインされた観察研究で検討されるべきという印象は残ります。

Incretin based drugs and risk of acute pancreatitis in patients with type 2 diabetes: cohort study BMJ. 2014 Apr 24;348:g2780PMID: 24764569
この文献は膵炎リスクをSU剤との比較検討したコホート研究です。急性膵炎発症に差は見られませんでした。

これらの臨床報告を踏まえると、インクレチン関連薬に限らず、糖尿病治療全般において急性膵炎リスクを念頭に置くべきなのではないかと考えています。とりわけDPP4阻害薬のリスクが高いということではなく、膵炎リスクはすべての糖尿病患者とその薬物治療において念頭に入れるべきではなかろうかと、最近ではそのように思います。

[DPP4阻害薬と心不全リスク]
DPP4阻害薬と心不全に関しては2013年に報告されたサキサグリプチンのSAVOR-TIMI53試験でその関連性が示唆されました。

Saxagliptin and Cardiovascular Outcomes in Patients with Type 2 Diabetes Mellitus
N Engl J Med.2013 Sep 2. [Epub ahead of print] PMID:23992601

この報告では心不全による入院が有意に上昇するかもしれないという新たな有害事象の可能性が示唆され衝撃的でした。入院のアウトカムでの評価でしたので軽症例が見逃されている可能性や、プライマリアウトカムではないのであくまで仮説生成という事を踏まえ、その後の臨床報告に注目していました。DPP4阻害薬と心不全リスクを検討したメタ分析は今年に入り既に報告されています。

Dipeptidyl peptidase-4 inhibitors and cardiovascular outcomes: Meta-analysis of randomized clinical trials with 55,141 participants. Cardiovasc Ther. 2014 Apr 21PMID: 24750644
RCTのメタ分析[統合した研究数50]で総死亡や心血管死亡、脳卒中などのアウトカムを改善することなく心不全が有意に上昇すると言う結果でSAVOR-TIMI53試験での結果を概ね支持するものとなりました。

PECO論文の)
[Patient]
100人以上で24週以上フォローアップしたDPP4阻害薬の前向き試験に参加した患者55,141人(平均フォローアップ45.3週)
[Exposure]
DPP4阻害薬の投与
Comparison]
プラセボまたは実薬の投与
Outcome
総死亡、心血管死亡、急性冠症候群、脳卒中、心不全

(結果)
アウトカム
症例数
リスク比[95%信頼区間]
総死亡
50,982
1.01[0.911.13]
心血管死亡
48,151
0.97[0.851.11]
急性冠症候群
53,034
0.97[0.871.08]
脳卒中
42,737
0.98[0.811.18]
心不全
39,953
1.16[1.011.33]

さらにランダム化比較試験のメタ分析が報告されていました。
Dipeptidyl peptidase-4 inhibitors and heart failure: A meta-analysis of randomized clinical trials. Nutr Metab Cardiovasc Dis. 2014 Jul;24(7):689-97. PMID: 24793580

(背景)
SAVOR TIMI-53試験ではプラセボに比べてサキサグリプチンを投与された患者において心不全入院リスク増加が示唆された。このメタ分析はDPP4阻害薬のランダム化比較試験からDPP4阻害薬と急性心不全との関連を検討したものである。

(研究デザイン)
[Patient]
24週以上DPP4阻害薬を使用した2型糖尿病患者
[Exposure]
DPP4阻害薬(ビルダグリプチン、サキサグリプチン、シタグリプチン、アログリプチン、リナグリプチン、dutogliptin)の投与
Comparison]
プラセボまたは実薬(DPP4阻害薬以外)の投与
Outcome
急性心不全の発症
研究デザイン
メタ分析[統合研究数84]
元論文バイアス
ランダム化比較試験のメタ分析
The quality of trials was assessed using some of the parameters proposed by Jadad et a
評価者バイアス
data extraction were performed independently by two of the authors (ID, MM), and conflicts resolved by the third investigator (EM).
異質性バイアス
heterogeneity across trials was tested by using a I2 test
No heterogeneity was detected (I2 0.0, p = 0.89; Begg's tau 0.14, p = 0.22)
出版バイアス
also searched for retrieval of unpublished trials.
利益相反
received speaking fees from Bristol Myers Squibb, Merck, and Takeda, and research grants from Astra Zeneca.

(結果)


アウトカム
オッズ比[95%信頼区間]
I2統計量
急性心不全
1.19[ 1.031.37 ]
0.0%

DPP4阻害薬による治療は、心不全のための入院の発生率の増加と関連付けられることを示唆しているとしています。イベントの多くはSAVOR-TIMI53試験及びEXAMINE試験で報告されておりこの2つを統合解析したサブグループ解析ではオッズ比が1.24[1.071.45]と有意な関連を示唆しました。薬剤別サブ解析では、やはりサキサグリプチンに有意な関連がみられますが、これはイベント発生症例数の問題で、他のDPP4阻害薬でも同様のリスクが懸念されます。

著者に利益相反がありますので評価者にバイアスがかかっている可能性もあり、リスクの過小評価がなされてる懸念もあります。

現時点で、DPP4阻害薬と因果関係は不明ですが関連性は示唆されており、低血糖のリスクが少ないなどの理由から安易に使用すべき薬剤ではありません。特に心不全リスクの高いピオグリタゾンとDPP4阻害薬の併用(アログリプチン/ピオグリタゾン合剤が既に薬価収載されている…)や、心不全患者においては十分警戒すべきと考えます。

[急性膵炎・心不全リスクのまとめ]

①急性膵炎
重篤なものを含めDPP4阻害薬との関連性が疑われる報告は多いものの、因果関係は決定的なものではない。しかしながら、糖尿病治療全般において念頭に置くべき有害事象と思われる。

②心不全
サキサグリプチンを含むDPP4阻害薬と心不全発症リスクとの関連性が示唆されている。軽症例を含めるとそのリスクとの関連性が強いことも考えられ、現時点で心不全あるいはその既往のある患者、あるいはピオグリタゾンとDPP4阻害薬の併用(20147月現在添付文書上規制なし)には浮腫等の副作用に十分警戒すべきと思われる。

2014年7月3日木曜日

平成26年度第4回薬剤師のジャーナルクラブの開催のお知らせ

本年度第4回抄読会を以下のとおり開催いたします!
ツイキャス配信日時:平成26713日(日曜日)
■午後2045分頃 仮配信
■午後2100分頃 本配信
なお配信時間は90分を予定しております。

※フェイスブックはこちらから→薬剤師のジャーナルクラブFaceBookページ
※ツイキャス配信はこちらから→http://twitcasting.tv/89089314
※ツイッター公式ハッシュタグは #JJCLIP です。
ツイキャス司会進行は、精神科薬剤師くわばらひでのり@89089314先生です!
ご不明な点は薬剤師のジャーナルクラブフェイスブックページから、又はツイッターアカウント@syuichiaoまでご連絡下さい。

[メタ分析をはじめからていねいに]
本年度は3回にわたり、ランダム化比較試験の考え方使い方を取り上げてきました。第4回目はいよいよメタ分析の読み方を解説していきます。
メタってなんでしょうかね。メタ的なんて言葉がありますけど…。
メタとはより「高次の」と言うような、理論を解釈するための理論(メタ理論)というイメージでしょうか。すなわち一つのランダム化比較試験だけでなく複数の研究結果を統合して解析したものをメタ分析と言います。
詳しくは昨年度第4回薬剤師のジャーナルクラブのお知らせをご覧ください。

症例11:溶連菌感染症に用いるべき抗菌薬とは?

[仮想症例シナリオ]
あなたは小科の方箋を受けることの多い保険薬局の局長です。どうやら、溶連菌の感染症が流行しており、本日もみ合っています。あなたの局に今年の4月新入社員として配された薬剤師のAさんは、だいぶ業務にも慣れて、今月から服指導も担しています。午前の外が終わり、MRさんの対応ませたあなたは、休憩室へ入ると、Aさんが話しかけてきました。

局長、ちょっと質問よろしいでしょうか!岩先生の、抗菌え方い方、という本にはA群“溶連菌は100%ペニシリンに感受性がある”と書いてありまして、溶連菌にしてはペニシリン耐性を考慮しなくて良いと思っていました。今日の溶連菌感染症の患者さん、小ではパセトシン細粒(アモキシシリン)でしたけど、成人ではバナン錠(セフポドキシム)が出ていましたよね、あれってどうなんですかね。小とおなじく、パセトシン錠でよいと思うのですが…。3世代セフェムって吸いし、そもそもグラム陰性菌狙いじゃないですか。理論的に考えたら余計な抗菌スペクトルもあるし、確かに服用回は少なくてみますが、あまり良い選だとは思えないんですけど…」

確かに成人の溶連菌感染症患者さんにはバナン錠が方されていました。投量は400mg/日分2と添付文書上の最大用量でした。吸いとはいえバナン錠のバイオアベイラビリティは501)3世代セフェムの中では良い方であり、そもそもペニシリンで10日間治療しても除菌失敗による再152) あると知っていたあなたは、成人での溶連菌感染症において、バナン錠での治療果がペニシリンとくらべてどの程度差があるものなのか、Aさんと一に調べてみました。

1)バナン®錠インタビュフォ
2)感染症レジデントマニュアル第2版(2013医学書院)

[文献タイトル・出典]
Casey JR1, Pichichero ME. Meta-analysis of cephalosporins versus penicillin for treatment of group A streptococcal tonsillopharyngitis in adults.  Clin Infect Dis. 2004 Jun 1;38(11):1526-34. Epub 2004 May 11. PMID: 15156437


[ワークシートはこちらを使用します!]

[プライマリケアのセッティングにおける抗菌薬の適正使用]
溶連菌はグラム陽性球菌ですよね。A群β溶連菌は急性咽頭炎の原因微生物として有名です。ペニシリンやアモキシシリンへの感受性は良好でほぼ100%と言われています。ちなみにマクロライドでは感受性は60%~70%となっており、肺炎球菌ほどでないにしても耐性菌はかなり深刻な状況です。これらをふまえて、通常抗菌薬はペニシリンを用いますよね。本邦ではバイシリンGやパセトシンなどを用いることが多いかと思いますが、薬局薬剤師であれば実際にはセフェムやペネムが処方されるケースも多く経験するのではないでしょうか。
抗菌薬の適正使用、薬剤師とって重要なテーマだと思います。ただ抗菌薬の適正使用は感染症診療と一体となっている部分も多くあり、薬局で取り扱う外来処方箋というセッティングでは、なかなか薬剤師が抗菌薬の適正使用に介入していくことが難しいと思います。今回はあえて、薬局薬剤師という設定で感染症治療について取り上げてみました。外来処方における薬剤師としての感染症治療への関わり方、そして「抗菌薬の適正使用」という名のバイアスはないか、メタ分析の論文を取り上げながら様々な視点で考えていきたいと思います。ポイントは溶連菌感染症における真のアウトカムとは?です。


薬剤師のジャーナルクラブ(Japanese Journal Club for Clinical Pharmacists:JJCLIPは臨床医学論文と薬剤師の日常業務をつなぐための架け橋として、日本病院薬剤師会精神科薬物療法専門薬剤師の@89089314先生、臨床における薬局と薬剤師の在り方を模索する薬局薬剤師 @pharmasahiro先生、そしてわたくし@syuichiao中心としたEBMワークショップをSNS上でシミュレートした情報共有コミュニティーです。

2014年7月2日水曜日

学問を好きになるという事

このブログ趣旨とは全く関係ありませんが、たまには自分のことでも書いておきます。まあ薬学部を受験する際は化学の成績をあげなくてはいけませんので、化学嫌いの高校生にはほんの少し参考になるかもしれません…。

[高校化学]
高校化学は大きく「理論化学」、「有機化学」、「無機化学」の3分野に分かれています。このうち無機化学はその多くが暗記、知識量がモノを言う分野で、有機化学はある程度の法則性、規則性から異性体の数や置換基の配向性などを推測し反応経路を予測できる点ですべてが暗記分野と言うわけではありません。しかしながら、高校化学の基本的な部分は理論化学分野に集約されていると言ってもよく、この分野でつまずくと、化学全体の理解に支障が出てくる可能性があります。大抵の参考書はこの理論化学から解説されており順番通りに進めていけばよいわけなのですが、この理論化学分野、化学が苦手な人にはかなりしんどい部分です。計算問題も多く、数学が不得意な人や“物理が苦手だから化学を選択した”という人にとって、理論化学を最初にマスターしなくてはいけないというミッションは、化学の苦手意識を助長するのに十分なインパクトです。

[化学第1回目の講義]
そんな僕も高校時代、よほど成績が悪かったせいもあり大学進学など半ばあきらめていましたが、ふとしたきっかけで薬学部なるものをこころざし、それまで文系だと思っていた進路(と言っても国語の成績も悪く、まともなのは日本史の成績くらいでしたが…。)を無理やり理系に転向させました。化学なんてさっぱりで、もうどうしようもない状態だったのですが、当時通い始めた、予備校の第1回目の化学の授業(当然ながら理論化学の一番最初の内容、そう周期表です)この授業が僕を理系の世界へ踏み出させた一歩となる衝撃の授業でした。

[ドミトリ・メンデレーエフさんの偉業]
周期表の生みの親と言われているのはロシアの化学者、ドミトリ・メンデレーエフ(18341907)です。周期表には110種類以上の元素が表示されていますが、メンデレーエフの時代にもすでに元素なる認識は存在し、当時、約60種類ほどの元素が見つかっていました。
メンデレーエフは元素の持ついろいろな化学的性質に注目して、性質のよく似た元素どうしをグループにまとめたことから後に大きな発見をします。それはグループに属する元素の周期表上での繰り返し方から考えて、いくつか元素がまだ未発見らしいという事です。メンデレーエフのすごいところは同じような性質の元素をグループ化することで見えてきた周期律という特性から、いまだ存在しない元素を予測して、これを未知の元素として取り扱ったところにあります。
メンデーエフは1869年に周期表として、彼の知見をまとめますが、未知の元素はその周期表では空欄で示され、その空欄はのちの化学者たちによってメンデレーエフの予測通り、次々と埋められていくことになります。

[メンデレーエフが予測した世界]
例えばメンデレーエフが予測した元素の例としてエカアルミニウム、エカホウ素、エカケイ素があります。これら元素はそれぞれ ボアボードランドが発見したガリウム 、ニルソンとクレーヴェが発見したスカンジウム 、ウィングラーが発見したゲルマニウム に当たります。「エカ」とはサンスクリット語の数詞「1」を意味すると言います。エカケイ素というのはケイ素の一つ下の元素、すなわちゲルマニウムを意味しています。
メンデレーエフは当時未知の元素の存在だけでなく化学的性質が類似しているという仮説のもと、未知の元素の性質をも予測しました。原子量や密度、沸点、化合物の特性まで、のちに発見され研究された結果とほぼ類似していたというから驚きです。

[学問を好きになるという事]
科学的データから同一性を抜出し未知なる世界を想像する。周期律という“ルール”から“世界”を類推するというこの思考は、高校時代の自称文系の僕にとって大変衝撃的なものであり、未発見の物体の存在を意識しながら世界全体を見つめるというメンデレーエフの視線は僕を理系に引き付けるに十分なインパクトでした。
ある学問を好きになるというきっかけは、たった一つの衝撃で事足ります。講義の内容が良くまとまっていて、とてもわかりやすいものであったとか、効率よくまとめられた内容であったか、そのような“コンテンツ”はさしあたって重要でない気がします。理解できると勉強が楽しいという事はありますが、それを生涯続けていこうとは多くの場合、思いません。「勉強になりました」、と言うようなコンテンツは多くの場合、学習者本人の自己学習という意味で、その継続・発展性を失っているのかもれない。
しかしその内容が、勉強になっているかどうかは別としても、自分にとって、今までの思考ががらりと変わるような、とても衝撃的なものであればその学問を継続して学んでいきたいという衝動に駆られていく、そういうものだと思います。化学をこうやって整理すれば良い点をとれる、大事なのはこの部分だと言ったような効率的な学習方法は成績向上には大きな貢献をしますし、おそらく受験勉強という枠組みの中では驚異的な威力を発揮します。効率的な学習なしでは受験は乗り切れないでしょう。

ただこのような効率的な学習方法を提示することが仕事である大手大学受験予備校の講師が第1回目の授業であえて、その時間の多くをメンデレーエフと周期表についての話題に割いたことそのものが重要なメタメッセージだったのだろうと、今でも思い出すことがあるのです。学生のうちにそのような衝撃に出会っておくことにどれほどの意味があったか、多くの場合、その後の人生を経てようやく気づきますよね。