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2012年9月30日日曜日

EBMについて(3) メタ分析論文の吟味


複数の研究を系統的に集めて複合的に評価したものをシステマテックレビューと呼びます。1つのランダム化比較試験から得られる情報が臨床判断を決定づけたりその判断を大きく変えることは少ないです。システマテックレビューにより、個々の研究を統合的に評価して情報の妥当性を上げることができます。さらに個々の研究結果の統計量を統合して統計解析を行い一つにまとめて解析することをメタ分析といいます。メタ分析が行われていないシステマテックレビューは個々の研究結果が陀列されているだけのことも多く、総合判断に当たり、読み手の考え方や著者の考え方にばらつきが出ます。それに対して、メタ分析まで行われていると、数値として客観的に評価できるメリットがあります。このようにシステマテックレビュー&メタ分析では個々の研究ではデータ不足のために有意な結果がでなかったとしても、より精度の高い結果を得ることが出来ます。

メタ分析では様々な研究を統合して解析しますが、個々の研究は様々なものが対象となります。ランダム化比較試験のほか、コホート研究や症例対照研究などの観察研究も対象となり、メタ分析だからといっても必ずしも信頼性が高いとは言い切れません。この項ではランダム化比較試験のメタ分析についてその読み方をご紹介いたします。

 メタ分析で確認するべきことはまず論文のPECO(これはRCTでも同じです)とアウトカムが真のアウトカムを評価しているかという点ですが、必ず確認したいバイアス(偏り)があります。

■元論文バイアス・・統合された研究の質。妥当性は十分か
■評価者バイアス・・複数の著者で評価されているか
■出版バイアス・・非出版データ等も今日慮されているか
■異質性バイアス・・ごちゃまぜ統合すれば有意差は消える。極端に効果のあるものと効果のないもの、合わせれば“0”になることもありますよね。
4項目です。

 では実際に論文のsummaryを読みながら確認したいと思います。以下の示すのは私がEBMとの出会いのきっかけとなった論文です。

Singh S, Loke YK, Enright PL, Furberg CD.et al Mortality associated with tiotropium mist inhaler in patients with chronic obstructive pulmonary disease: systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials.
BMJ. 2011 Jun 14;342:d3215. doi: 10.1136/bmj.d3215. PMID:21672999

OBJECTIVE:
To systematically review the risk of mortality associated with long term use of tiotropium delivered using a mist inhaler for symptomatic improvement in chronic obstructive pulmonary disease.

DATA SOURCES:
Medline, Embase, the pharmaceutical company clinical trials register, the US Food and Drug Administration website, and ClinicalTrials.gov for randomised controlled trials from inception to July 2010.

STUDY SELECTION:
Trials were selected for inclusion if they were parallel group randomised controlled trials of tiotropium solution using a mist inhaler (Respimat Soft Mist Inhaler, Boehringer Ingelheim) versus placebo for chronic obstructive pulmonary disease; the treatment duration was more than 30 days, and they reported data on mortality. Relative risks of all cause mortality were estimated using a fixed effect meta-analysis, and heterogeneity was assessed with the I(2) statistic.

RESULTS:
Five randomised controlled trials were eligible for inclusion. Tiotropium mist inhaler was associated with a significantly increased risk of mortality (90/3686 v 47/2836; relative risk 1.52, 95% confidence interval, 1.06 to 2.16; P = 0.02; I(2) = 0%). Both 10 µg (2.15, 1.03 to 4.51; P = 0.04; I(2) = 9%) and 5 µg (1.46, 1.01 to 2.10; P = 0.04; I(2) = 0%) doses of tiotropium mist inhaler were associated with an increased risk of mortality. The overall estimates were not substantially changed by sensitivity analysis of the fixed effect analysis of the five trials combined using the random effects model (1.45, 1.02 to 2.07; P = 0.04), limiting the analysis to three trials of one year's duration each (1.50, 1.05 to 2.15), or the inclusion of additional data on tiotropium mist inhaler from another investigational drug programme (1.42, 1.01 to 2.00). The number needed to treat for a year with the 5 µg dose to see one additional death was estimated to be 124 (95% confidence interval 52 to 5682) based on the average control event rate from the long term trials.

CONCLUSIONS:
This meta-analysis explains safety concerns by regulatory agencies and indicates a 52% increased risk of mortality associated with tiotropium mist inhaler in patients with chronic obstructive pulmonary disease.

まずは論文のPECOを確認します。STUDY SELECTIONCOPD患者へチオオトロピウムミストインヘラー(レスピマット)とプラセボを比較したRCTを解析していることが記載されています。(赤字参照)また総死亡をfixed effectモデルを用いてメタ分析したと記載があります。fixed effectモデルとはメタ分析する時の総計解析の手法の一つです。通常異質性(後述)が低い場合はこのモデルで解析していても問題がないといわれていますが、研究間の異質性が高い場合はrandom effectモデルという手法が適しているといわれています。
まとめると論文のPECOは以下のようになります。

PCOPD患者に
E:チオトロピウムレスピマットで30日以上治療するのは
C:プラセボと比べて
O:総死亡はどうなるか
ちなみにアウトカムは死亡という真のアウトカムを評価しています。

 次に妥当性を評価するために4つのバイアス(偏り)が無いか確認します。

1)元論文バイアス
この論文では観察研究ではなくランダム化比較試験のメタ分析です。RESULTS冒頭にFive randomised controlled trials were eligible for inclusionと記載があり5つのランダム化比較試験が統合されています。個々のRCTの妥当性は本文を見ないとsummaryに詳細が記載されているケースは少ないです。本文RESULTSの最初のほうにAll the trials were double blind,all five trials were judged to be at low risk of biasとの記載があり、まず問題ないといえます。

2)評価者バイアス
Summaryには残念ながら記載がありませんが本文のStudy selectionTwo reviewers (YKL and SS) independentlyとあり2名のレビューアーが独立して評価していることが分かります。

3)出版バイアス
Medline Embase FDAの情報やベーリンガーの臨床試験等も検索しているようです。この論文には明確な記載がありませんが、英語以外の言語の文献や非出版の報告なども検索されているとなおベストです。

4)異質性バイアス。
いわゆるごちゃまぜバイアスと覚えてしまうといいかもしれません。異質性は本文にある結果の表=フォレストプロットの下のほうに記載があります。これは数値でわかるので見安いです。
Heterogeneity:P値やI値が記載さてていることが多いはずです。P値は有意差の時と同様にP=0.05以下であれば異質性ありといえます。I2値は25%以下では異質性が低く2550%では中等度、5075%では高く、75%以上では極めて高いと評価します。異質性が高い結果は、妥当性が低くなり、信頼性が低くなります。この論文では本文のフォレストプロット
http://www.bmj.com/highwire/filestream/422812/field_highwire_fragment_image_l/0.jpg
の下部、test for Heterogeneity P=0.59 I2=0%とあり異質性はありません。

ちなみにフォレストプロットの見方は、一番左に統合した個々のRCTが縦に記載されており、その結果が右に記載されています。一番下が統合された結果です。 右側、図中の縦線が効果なしRRで言うところの「1」です。■が個々の研究結果で■を横に貫く横線“―“が95%信頼区間を示します。、右下のひし形がメタ分析で統合した統計量を示します。縦線、右側で効果が大きくなり、左側で小さくなります。縦線と横線が交わっていると95%信頼区間が1をまたいでおり、有意差が無いと解釈できます。

妥当性はまずまずの論文といえそうです。では結果を見てみましょう
significantly increased risk of mortality (90/3686 v 47/2836; relative risk 1.52, 95% confidence interval, 1.06 to 2.16; P = 0.02; I(2) = 0%).との記載があり
チオトロピウム群で90/3686人、プラセボ群で47/2836
RR1.52(95%1.06-2.16)という結果です。有意に死亡リスクが152倍増加するという結果でした。ステップをまとめると、妥当か4つのバイアス確認)何か(結果は死亡が1.5倍増加)役に立つか(死亡という真のアウトカムな臨床に反映させるべき)という感じです。

この論文、死亡という取り返しのつかない真のアウトカムを評価しており、臨床に反映させるべき論文といえます。

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