[お知らせ]


2013年2月6日水曜日

シャンプーや液体石鹸ボトルの詰め替え連用とセラチア菌


■ボトルディスペンサーの詰め替え連用と細菌汚染
 
ハンドソープやシャンプーのボトルディスペンサーの詰め替え用ボトルの衛生面に関して、空ボトルを洗浄、乾燥しないまま継ぎ足し連用すると、緑膿菌やセラチア等の温床になり、感染源になり得るといわれています。

固形石けんは、液体石けんに比べて、使用中に細菌汚染する頻度が高いといわれているそうでが、液体石けんであっても、細菌汚染が起こり得るといわれています。
Applied and Environental Microbiology 48(2):338-341.1984

実際に、ボトルディスペンサーからセラチアが検出されたとする報告は数多くあります。
J Hosp Infec, 72:17-22, 2009など)

健常者であれば細菌汚染されたシャンプーや液体石鹸を使用しても、その後洗い流すため、汚染された菌による感染症はまず起こりませんが、免疫力の低下した患者さんでは、汚染された細菌に感染し、肺炎などの感染症を発症するリスクが増加すると考えられます。

■セラチア菌の脅威

セラチアはグラム陰性桿菌で空気中や水中など自然界に多く存在する常在細菌です。数種類の菌種が確認されておりますが、感染症として問題となるのはセラチアマルセッセンスです。家庭環境でも比較的高頻度で生息しており、洗面台などにピンク色のバイオフィルムを形成していることもあります。

本来、病原性はとても弱く健常者が摂取しても感染症を発症することは稀です。しかし、免疫力の低下した患者さんでしばしば日和見感染症の原因菌となります。呼吸器感染や尿路感染、髄膜炎など様々な感染症に関与するといわれています。特にライン感染で菌血症から敗血症を起こした場合は死亡するケースもあるので注意が必要です。実際にインターネット上では過去にセラチアによる院内感染での死亡例を報道した記事も散見されます。

セラチアは特に湿潤環境を好み、いったん定着してしまうと、消毒薬に馴化しやすく、消滅させることが難しいといわれているそうです。厄介なことにβラクタマーゼを産生する菌が数多く分離されており、ペニシリン系抗菌薬や第1世代のセファロスポリンに抵抗性を示します。治療には第3世代セフェムやカルバペネムが有効とされています。

■実際に詰め替え連用したボトルディスペンサーは感染源になり得るのか?

では、実際に、シャンプーや石鹸液の詰め替え用ボトルを連用することで、これが感染源となり、院内感染を引き起こすことがあるのでしょうか。調べてみると、その可能性を示唆する報告は多数あります。

(1)手洗い石鹸によるセラチアのアウトブレーク例①
Infest Control Hosp Epidemiol 18:704-709 1997

NICUにおける32例の小児患者にセラチアマルセッセンス院内感染が発生した施設にて石鹸ボトル中にセラチアが検出された。洗い場からもセラチアが検出され、電気泳動によるDNAパターンを解析したところ、患者、石鹸ボトル、洗い場のセラチアは同一のものである可能性が示唆された。なおこの石鹸はクロロキシレノール配合の抗菌石鹸であった。

(2)手洗い石鹸によるセラチアのアウトブレーク例②
 (Acta Paediatre 97(10):1381-1385.2008

NICUにて9例のセラチアマルセッセンス院内感染(呼吸器感染)が発生。このうち7例の患者のセラチア菌のDNAと非抗菌石鹸液のボトルから検出されたセラチアのDNAは同一のものであり、ボトルディスペンサーが感染源であることが示唆された。

(3)手洗い石鹸によるセラチアのアウトブレーク例③
  (J Hosp Infc 72:17-22,2009

5例の乳児の気管吸引物、および消化管内容物からセラチアが検出され、パルスフィールド電気泳動法でDNAを解析したところ5例とも同一のものであった。病室にある非薬用石鹸のボトルディスペンサーから同じ株のセラチアマルセッセンスが検出され、このディスペンサーが感染源であるとこが示唆された。

小児での院内感染報告ですが、汚染されたボトルディスペンサーは感染源になり得ることを示唆しています。セラチアは接触感染、あるいは感染症を発症した患者による飛沫感染で伝播します。したがって感染対策には接触感染予防策、飛沫予防策と湿潤環境の衛生管理が重要です。

■セラチアと感染対策のポイント整理
※感染源:湿潤環境(実際にシャンプーや石鹸の詰め替え用ボトルからセラチアが検出された報告が存在する。)
※感染経路:接触感染、飛沫感染(特にライン感染に注意)
※宿主:免疫力の低下した人は感染症を引き起こすこともある。実際にセラチア感染症での死亡例や、石鹸液のボトルが感染源となり呼吸器感染を引き起こした可能性を示唆する報告が存在する。
※治療:グラム陰性菌であり、もともとペニシリンや第1世代セフェムが効きにくいうえに多くの場合これらの抗菌薬に耐性を有する。3世代セフェムあるいはカルバペネムの使用を考慮。
※感染対策:接触感染予防策、飛沫予防策と湿潤環境の衛生管理が重要。

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