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2013年9月30日月曜日

80歳超の高齢者に降圧薬による治療は開始すべきか? ~第1回 薬剤師のジャーナルクラブを終えて~

1回薬剤師のジャーナルクラブが無事に終了いたしました。おかげさまで総視聴数:659人の方にご視聴いただけました。誠にありがとうございました。
■詳細はこちらをご参照ください→お知らせ:第1 薬剤師のジャーナルクラブ

僕自身大変、勉強になりました。今後も是非継続して続けていきたいと考えております。よろしくお願いいたします。

初めて論文を読む方にとっては、なれない英語や、統計的な用語が出てきて、なかなか大変だったことと思います。また普段、論文を読みなれている方、どうでしょうか。このHYVETスタディ、味わい深い内容だったかと思います。

結果的に30%脳卒中リスクが減る傾向にあるということでしたが、絶対指標であるNNT189人でした。これは188人が無駄に薬を飲んでいるとも解釈できます。またプラセボ群の脳卒中発生は年間で1000人当たり17.7人となっており、80歳超えていますから、特に治療する必要があるのだろうか…。うん、でも30%減らすとはなかなか、薬も安価だし、本当に不安で毎日心配して生活するくらいなら薬を飲んでみるのもありか…。いやいや副作用やコストを軽視してはいけない、とりあえず食事療法等を提案してみたら…。いや漢方でしょう!などなど様々な意見や思いがあったかと思います。

結局のところどうすればいいのかと、思われること思います。結局のところどうすんのさ!と。それはもう明らかです。もう一度お題論文の1894ページのTable2を見てください。95%信頼区間と呼ばれるものがハザードリスク0.7の隣に記載されています。0.491.01ですね。薬の効果を多く見積もれば50%近くもリスクを減らすかもしれないですし、少なく見積もれば、ほんのちょっぴりリスクは増えるかもしれない、なんてことになっています。これはもう明らかです。明確な答えなど無いということが明確に分かります

付けくわえるなら、この試験、ランダム化される前に参加者は少なくとも2カ月以上すべての降圧薬を中止しています。(これをウォッシュアウトといい、今まで飲んでいた薬剤の効果をリセットするために行う。)すなわち薬をやめても大丈夫な人、潜在的リスクの低い人たちが対象となっているのです。したがって、その後の予後は一般的な人たちに比べて過小評価している可能性もありますよね。またNNT189人と計算されました。しかしながら、実際の患者さんではその脳卒中の潜在的リスクは大きく異なることもあると思います。たとえば喫煙をしていたら、やはり脳卒中リスクは高くなるので、薬を飲むことによる脳卒中抑制効果は大きくなるかもしれません。そうしたらNNTは半分の90近くまで下がる可能性もあるのです。目の前の患者さんのアウトカムに対する潜在的リスク、すなわち目の前の患者さんでは脳卒中リスクはどの程度なんだろうと、事前確率を見積もることで、論文のハザード比の95%信頼区間やNNTをひとつのファンクションとして活用し、最終的なリスクの程度を算出するという作業を患者さん個別に行うことこそが重要です。もはや有意差あり、なしなんて全く意味ありませんよね。論文の結果が目の前の患者にはたして適用できるのか、このあたりまで考えれば、一つの論文がその臨床行動を大きく変えることは少ないということに気づくでしょう。じゃ、論文を読むことに意味はないのか、そうではありません。


一つの論文ではこういう結果であった、じゃ他に似たような研究はないか、あるいは過去の自分の臨床試験で似たような事例はなかったか、その時はどのように行動していたか、患者の思いはどうか、薬の効果とは関係の無いところで、患者さんは薬を必要としているのか、いないのか、その患者さんを取り巻く家族はどうか。薬を飲むことで大きな安心が得られるということはないか、この介入で有害事象は何か。それは取り返しのつかないアウトカムであったか、薬にかかるコストや通院にかかる精神的負担はどうか、多種多様な価値観の中で、その行動を決めていかねばならないのです。その決断にほんの少しバリエーションをくれるのがエビデンス=臨床医学論文です。そう、あくまでエビデンスは臨床判断の一部でしかありません。是非これを機会に、他の論文で似たような報告はないか調べてみると良いでしょう。そして周りの同僚や医師・看護師を巻き込んで一緒に論文を読んでみてください。

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