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2013年10月18日金曜日

2型糖尿病の治療に今更メトホルミンは使用に値しますか?

メトホルミンは2型糖尿病における経口血糖降下剤として、古くからある薬剤です。UKPDSUnited Kingdom Prospective Diabetes Studyにおける肥満型の2型糖尿病患者の大血管合併症抑制効果は有名です。近年、DPP4阻害薬の販売ラッシュで糖尿病治療における新薬のインパクトは凄まじいものがあります。しかし、糖尿病治療の真のアウトカムを意識した場合に、このような新薬はいまだ詳細な情報にかけています。今更メトホルミン、その有効性は現在でも第一選択薬として使用に値するものでしょうか。
心血管イベント抑制効果に関しては観察研究において、同じく古くから使用されているSU剤との比較研究が多く報告されています。最近の研究をご紹介いたします。

[メトホルミンとSU剤の比較①]
Oral hypoglycemic agents the development of non-fatal cardiovascular events with type 2 diabetes mellitus.
【論文は妥当か?】
研究デザイン:後ろ向きコホート研究
[Patient]台湾の National Health Insurance Research データベースから30歳以上の新規発症糖尿病患者1159例。ベースラインで心血管疾患を有さない人を対象
[Exposure]メトホルミン使用595
[Comparison] グリメピリド使用234例またはglyburide使用330
[Outcome]非致死的心血管イベント(冠動脈疾患、末梢動脈疾患、脳卒中、心不全)
■追跡期間▶1998年から2007
■調節した交絡因子▶抄録に記載なし。
【結果は何か?】
メトホルミンは他の薬剤に比べて非致死的心血管イベントが少ない
使用薬剤
心血管イベント頻度
Glyburideに対する
ハザード比
グリメピリドに対する
ハザード比
glyburide
169.1/1000人年


グリメピリド
95.2/1000人年
メトホルミン
49.1/1000人年
0.52[0.400.69]
0.31[0.240.40]


類似の報告は2012年にも報告されています。こちらは死亡リスクを検討した大規模な観察研究です。

[メトホルミンとSU剤の比較②]
Increase in overall mortality risk in patients with type 2 diabetes receiving glipizide glyburide or glimepiride monotherapy versus metformin :a retrospective analysis

【論文は妥当か?】
研究デザイン:後ろ向きコホート研究
[Patient]HERシステム(academic health centre enterprise-wide electronic health record)のデータから18歳以上の2型糖尿病患者を対象 (ベースラインで心血管疾患の既往なし、インスリンの使用なし)
[Exposure]メトホルミン使用12774
[Comparison] グリピジド使用4325グリメピリド使用2537glyburide使用4279
[Outcome]死亡リスク
■調節した交絡因子▶抄録に記載なし
■傾向スコアマッチング▶あり
【結果は何か?】
メトホルミンに比べてSU剤では死亡リスクが増加する
使用薬剤
ハザード比
[95%信頼区間]
グリピジド
1.64[1.391.94]
glyburide
1.59[1.351.88]
グリメピリド
1.68[1.372.06]

[メトホルミンとSU剤の比較③]
そのほかにも以下のような類似の観察研究があります。
Comparative Effectiveness of Sulfonylurea and Metformin Monotherapy on Cardiovascular Events in Type 2 Diabetes Mellitus:A Cohort Study
糖尿病の初期治療のためにメトホルミンと比べてSU剤の使用は、CVDイベントや死亡の危険性1.21倍増加という結果でした。さらにランダム化各試験でもメトホルミンはSU剤に比べて心血管イベントが少ないことが示されています。
Effects of Metformin Versus Glipizide on Cardiovascular Outcomes in Patients With Type 2 Diabetes and Coronary Artery

こちらは冠動脈疾患の既往のある人が対象ですが、再発はハザードリスクで0.54[0.300.90]
となっています。症例数が少ないので実際の有効性は46%減というインパクトほどは無いにしても、少なくともメトホルミンはSU剤に比べて心血管イベント抑制に有効である可能性が示唆されています。

近年販売ラッシュが続いたDPP4阻害薬との比較も報告されました。

[メトホルミンとDPP4阻害薬との比較]
All-cause mortality and cardiovascular effects associated with DPP-inhibitor sitagliptin compared with metformin a retrospective cohort study on the Danish population
総死亡はメトホルミンに比べてシタグリプチンで27%多い傾向にある。(ハザード比:1.27[95%信頼区間0.931.73])というなかなかインパクトのある結果でした。

メトホルミン単独のベネフィットはどうでしょうか。最近の報告を中心にご紹介いたします。メトホルミンと脳卒中リスクを検討した台湾の観察研究が報告されました。

[メトホルミンと脳卒中]
Metformin-Inclusive Therapy Reduces the Risk of Stroke in Patients with Diabetes: A 4-Year Follow-up Study.
【論文は妥当か?】
研究デザイン:コホート研究
[Patient] Taiwan National Health Research Institute,のデータから糖尿病患者14856人。
[Exposure]処方記録からメトホルミンの使用
[Comparison]処方記録からメトホルミンの非使用
[Outcome]脳卒中発症
■調整した交絡因子▶年齢、性別、高血圧、心房細動、高脂血症、冠動脈疾患、抗血栓薬、ワーファリン、スタチン、エストロゲンの使用
■追跡期間▶4年間
【結果は何か?】
E群はC群に比べて脳卒中リスクが低い
調整ハザード比0.46895%信頼区間の記載は抄録に無い]
アウトカム
メトホルミン使用
メトホルミン非使用
調整ハザード比
脳卒中発症
994/10857
9.2%)
701/3999
17.5%)
0.468

有意な差が出ているとすれば、なかなかインパクトのある結果だと思います。信頼区間がどうなっているのか、対象患者の詳細は抄録に記載がないのが残念です。

また心不全合併患者へのベネフィットも報告されています。
[メトホルミンと心不全]
Comparative safety and effectiveness of metformin in patients with diabetes mellitus and heart failure: systematic review of observational studies involving 34 000 patients
心不全を合併した糖尿病患者において全原因死亡はメトホルミン非使用に比べて有意に少ないという結果でした。これは観察研究のメタ分析となっており、治療効果の解釈に注意が必要です。


[メトホルミンの癌に対する有用性]
メトホルミンには癌抑制作用なども報告されており、その臨床応用が期待されています。

[メトホルミンと乳酸アシドーシス]
メトホルミンで注意すべきは腎機能、高齢と言ったファクターではあるものの他の薬剤と比べてとりわけリスクの高い薬剤ではないようです。ベネフィットに関する報告は多く、少なくともSU剤や高価なDPP4阻害薬、高リスクなピオグリタゾンをファーストで用いるよりは選択する価値が十分にある薬剤と言えそうです。メトホルミンの代表的な副作用である乳酸アシドーシスについては以下の文献でレビューされています。
Risk of fatal and nonfatal lactic acidosis with metformin use in type 2 diabetes mellitus
観察研究のレビューですが、致死的、非致死的乳酸アシドーシスの発症はプラセボや他の糖尿病薬に比べて決して多いものではないようです。

[結局のところメトホルミンは第一選択で使用すべきですか?]
■メトホルミンはSU剤に比べて心血管イベントや死亡を抑制する可能性が高い。
■メトホルミンは高価なDPP4阻害薬に比べて死亡を抑制するかもしれない。
■ピオグリタゾンはハイリスクな薬剤である(参考)ピオグリタゾンの適正使用を考える
■心不全合併患者においてはメトホルミンが有用な可能性がある。
■脳卒中リスクに関してそのリスクを抑制するかもしれないという報告がある
■メトホルミンは癌抑制リスクが報告されている
■メトホルミンの乳酸アシドーシスリスクは他の薬剤に比べてとりわけ高いものではない。
■メトホルミンは後発医薬品も含めてとても安価である。


以上のような観点から第一選択として、考慮する価値は十分あると考えます。少なくともSU剤、ピオグリタゾン、DPP4阻害薬(サキサグリプチンでは心不全入院リスクが示唆されているN Engl J Med.2013 Sep 2. [Epub ahead of print] PMID:23992602)と比べれば、それら薬剤よりも優先的に使用すべき薬剤だと個人的には思います。ただ、メトホルミンに関する報告はベネフィットに関するものがとても多く、何となく話がうますぎるという感じもします。乳酸アシドーシスに関しては決して軽視するものではなくやはり患者個別に警戒する必要が有ります。具体的には飲酒習慣のある人、腎機能に問題のある人、ヨード造影剤、脱水を起こしやすい環境に従事している人等は十分に注意する必要があります。

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