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2013年3月15日金曜日

禁煙すると心臓病は予防できますか?


僕の個人的な論文要約サイト「薬剤師の地域医療日誌」のための原稿でしたが、なかなか興味深い報告なので、こちらに取り急ぎ掲載しておきます。

喫煙インパクトに関してはこちらをご参照ください。
(参考)禁煙すると長生きできますか?
禁煙が心血管イベントに与える影響を検討した貴重な報告です。

【文献タイトル・出典】

Association of Smoking Cessation and Weight Cange With Cardiovascular Disease Among Adults With and Without Diabetes
JAMA. 2013 Mar 13;309(10):1014-21 PMID:23483176

【論文は妥当か?】
 
  ■Patient:フラミンガム研究から心血管疾患を有しない11148例(本文p.1017 Tabl.1から推定した平均BMIは27前後、女性割合54.8%、ベースラインの平均年齢は56歳前後)
  ■Exposure:喫煙者2203
  ■Comparison:最近の禁煙(禁煙してから4年以下)683
  ■Comparison:長期間の禁煙(禁煙してから4年超)4364
  ■Comparison非喫煙3898
  ■交絡因子:アルコール消費量、年齢、性別、自己報告糖尿病既往歴、HDL値、LDL値、トリグリセリド値、血圧、ベースラインBMI、コレステロール低下療法、高血圧治療
  ■Outcome:心血管疾患イベント
  ■研究デザイン:前向きコホート研究
  ■追跡期間:25

【結果は何か?】

追跡期間中心血管疾患イベントは631件(3251/11148人)で発生。糖尿病ありとなしで分けて解析。結果は以下の表の通り。

[糖尿病なし]


アウトカム

喫煙者

1924人)

禁煙4年以下

591人)

禁煙4年超

3761人)

非喫煙者

3392人)

心血管疾患発症

調整ハザード比

[95%信頼区間]

143例(7.4%)

1

(Reference)

29例(4.9%)

0.47

[0.230.94]

218例(5.8%)

0.46

[0.340.63]

116例(3.4%)

0.30

[0.210.44]

[糖尿病あり]


アウトカム

喫煙者

279人)

禁煙4年以下

92人)

禁煙4年超

603人)

非喫煙者

506人)

心血管疾患発症

調整ハザード比

[95%信頼区間]

23例(8.2%)

1

(Reference)

8例(8.7%)

0.49

[0.112.20]

59例(9.8%)

0.56

[0.281.14]

35例(6.9%)

0.49

[0.221.08]

【結果は役に立つか?】

いずれの解析群でも体重は増加傾向ですが、体重変化を加味しても結果は大きく変わりませんでした。糖尿病を有しない参加者では禁煙することで体重増加にかかわらず心血管疾患を予防することができる可能性が示唆されていますが、糖尿病患者ではかなり減少傾向にあるものの、明確な差が出ませんでした。ただ、禁煙年数が長いほど95%信頼区間の上限が低下しており、禁煙によるリスク低下の可能性は十分示唆されていると考えられます。糖尿病が与える心血管インパクトや、症例数が少ないことも関連しているかもしれません。もちろん禁煙による健康影響は循環器疾患以外にも呼吸器等、多岐にわたりますので、禁煙による健康メリット大きいといえ、これは冒頭記載したように喫煙による寿命への影響からも想像できます。

この結果で興味深いのは糖尿病を有する人では喫煙者と非喫煙者で心血管疾患イベントに有意差が出ていない点だと思います。もちろんかなり減少傾向にあり、煙草を吸っていてもいなくても変わりない、なんてことは全く無いのですが、糖尿病が与える健康へのインパクトは、喫煙に次ぐ可能性が示唆されていると思います。


もう少しこの結果を見ていきます。この研究の対象患者における、心血管予後を推定できます。年齢性別で調整した心血管疾患発生頻度は以下の通りです。


糖尿病の有無

喫煙状況

心血管疾患(100人年[95%CI]

×

現在喫煙者

5.89[4.867.11]

×

禁煙4年以下

3.22[2.064.50]

×

禁煙4年超

3.06[2.563.67]

×

非喫煙者

2.43[1.953.03]


現在喫煙者

7.03[4.5410.63]


禁煙4年以下

6.11[2.8912.37]


禁煙4年超

6.53[4.738.96]


非喫煙者

4.70[3.176.89]

 

ここでは発生頻度の95%信頼区間上限に注目したいと思います。喫煙と糖尿病という因子が心血管イベントに与える影響が推測できます。

また別の視点で見てみますと、喫煙をしている糖尿病患者と比べて非喫煙者の糖尿病患者での心血管疾患リスクは調整ハザードで0.49[95%信頼区間0.221.08]で有意な差は出ていませんが、かなり減少傾向です。経口糖尿病薬を服用し、ここまで心血管疾患リスクが減るかといわれれば、明確な回答がないのが現状ではないでしょうか。[(参考)薬の効果を考える。

この研究から僕が思うのは、喫煙をしている糖尿病患者における、薬物治療を否定するわけではないものの、仮に本気で糖尿病による心血管イベント抑制を目指すなら、経口糖尿病薬を服用するかどうかよりも煙草をやめることが最良の選択肢である可能性が示唆されていることだと思います。当たり前のことなのかもしれませんが…。

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