[お知らせ]


2013年3月3日日曜日

花粉症に効果的な薬は何ですか?

 
鼻アレルギー診療ガイドラインでは抗ヒスタミン薬をベースに鼻噴霧ステロイドやロイコトリエン拮抗薬を重症度に応じて追加していく方式を推奨しています。症状がひどくなると、薬価の高い薬剤が多いため、患者さんの負担も大きくなってきます。実際に費用対効果があるのか、耳鼻咽喉科の門前薬局勤務経験で学んだことや花粉症治療薬に関連する文献をもとにまとめてみました。

(注意)花粉症の治療効果は多くの場合で症状スコアで評価されています。プラセボ効果も含めた有効性は患者個別に判断されるべきで、有効性が認められたエビデンスがすべての患者に当てはまるわけではありません。また以下の内容は臨床研究論文に基づいた記載となっておりますが、個人的な意見や経験上の結論も含まれております。

■抗ヒスタミン薬
本邦における季節性のアレルギー性鼻炎、いわゆる花粉症の治療において、圧倒的に認知度が高いのが抗ヒスタミン薬などの経口抗アレルギー剤です。ガイドラインでもベース治療に抗ヒスタミン薬が推奨されています。花粉症の症状に対する抗ヒスタミン薬の効果はプラセボに比べても有意に症状を改善するといわれています。1)2)
 
※抗ヒスタミン薬はプラセボに比べて花粉症の症状を有意に改善する。1)2)
※抗ヒスタミン薬は眠気の副作用があり日常生活に支障をきたすケースもある。
※比較的眠気の少ない薬剤は、フェキソフェナジン、ロラタジンだと考えられる。3)

抗ヒスタミン薬は人によってはどうしても眠気がでてしまうことがあります。花粉症の薬物治療で良く使用されます漢方薬の小青龍湯には麻黄という生薬が配合されており、これにはエフェドリンが含有されています。エフェドリンには中枢興奮作用があり、小青龍湯の副作用にも不眠の記載があります。明確なエビデンスはありませんが、抗ヒスタミン剤と小青龍湯の併用は抗ヒスタミン薬による眠気の副作用を相殺する効果が期待できるといわれています。

 
※抗ヒスタミン薬の眠気の副作用に対して漢方の小青龍湯を併用するのも一つの方法。

■鼻噴霧ステロイド剤
花粉症治療ではステロイドの鼻噴霧剤もしばしば使用されます。鼻に噴霧するという操作自体が少々面倒であり、使用感もあまりよくないという声も聞きます。また症状がひどいときのみ使用しているなんてことも実際あるようです。
内服抗ヒスタミン薬と鼻噴霧ステロイド、どちらが効果があるのでしょうか。少し古いメタ分析によれば、鼻閉、鼻汁、くしゃみなどいずれの症状改善においてもステロイド鼻噴霧剤が有効という結果でした。4

※鼻噴霧ステロイド剤は抗ヒスタミン薬よりも圧倒的に花粉症の症状への効果に
  優れる4)
※鼻噴霧ステロイド剤は人によって使用感を好まない患者がいる。
  11回タイプやドライパウダータイプの鼻噴霧ステロイド剤もあり選択肢は広が
 りつつあります。)
  ※服薬アドヒアランスが悪いことがある(症状のひどい時だけしか使用していな
  い 等)  

ステロイド鼻噴霧は毎日しっかり使用し続けることでその効果を最大限に発揮でき、抗ヒスタミン薬よりも有効性が期待できる可能性があります。

■抗ヒスタミン薬と鼻噴霧ステロイドの併用

抗ヒスタミン薬とステロイド鼻噴霧剤の併用はとてもよく行われており、鼻アレルギー診療ガイドラインでも推奨されているようですが、実際に鼻噴霧ステロイド単独と比べても併用による効果増大は期待できないようです。56アレルギー性鼻炎における抗ヒスタミン薬と鼻噴霧ステロイドの効果を比較すると、鼻噴霧ステロイド剤が優勢であり、アレルギー性鼻炎の治療に抗ヒスタミン薬と鼻噴霧ステロイドを組み合わせることは鼻噴霧テロイド単独効果にさらなる有益な効果を提供していないとするレビュー7もあり、このことから花粉症治療の核となる薬剤は鼻噴霧ステロイド剤だと言えそうで、抗ヒスタミン薬をさらに追加併用しても有用性は期待できないようです。
 

※鼻噴霧ステロイド剤単独治療と鼻噴霧ステロイド剤と抗ヒスタミン薬併用治療の効
 果はほぼ同等5)6)
※鼻噴霧ステロイド剤に抗ヒスタミン薬を併用しても効果は増強しない。7)

■花粉症における目の症状に対する治療

花粉症における、つらい鼻症状に有効な鼻噴霧ステロイド薬、眠気の副作用もなくアドヒアランスさえ良好であれば、かなり有効です。さらに鼻噴霧ステロイド薬には目の症状にも有効である可能性が示唆されています。特に近年発売された11回タイプのモメタゾンは花粉症における目の症状を改善したとする報告が多数あります。8)9)10)
フルチカゾンではロラタジンに比べても目の症状に同等以上に有効とする報告もあります。11)ただし抗アレルギー薬の点眼薬よりは有効性が落ちるようです。12)目のかゆみに対する症状がひどい場合には眼薬は必要だと言えます。



 
※鼻噴霧ステロイド剤は花粉症による眼の症状にも効果が期待できる。8)9)10)
※鼻噴霧ステロイド剤の目に対する効果は抗ヒスタミン薬と同等以上の可能性がある。11)
※目のかゆみがひどい場合は点眼薬の方が有効。12)

■鼻噴霧ステロイドが苦手な方への治療アプローチ

薬剤効果の優れた鼻噴霧ステロイド薬ですが、使用感や操作性の問題、ステロイドというイメージからアドヒアランスも悪いのが現状ではないかと感じています。どうしても内服のみで治療したいという方には抗ヒスタミン薬とロイコトリエン拮抗薬の併用はロイコトリエン拮抗薬単独に比べて症状スコアを有意に改善したとする報告3があります。ただロラタジンとモンテルカストの併用はフェキソフェナジンと同等という報告14)もあり、明確な併用効果が得られるかどうか、少し疑問な部分もありますが、ロイコトリエン拮抗薬単独では鼻噴霧ステロイド剤よりも効果は劣るが、抗ヒスタミン薬との併用では抗ヒスタミン薬単独よりも有効性が高くなる13)といえそうです。


※鼻噴霧ステロイド剤を好まない患者さんは多い。
※ロイコトリエン拮抗薬は鼻噴霧ステロイドよりも効果は劣る13)
※抗ヒスタミン薬とロイコトリエン拮抗薬の併用はそれぞれの単独治療よりも有効性が高い可能性がある。13)

■鼻噴霧抗アレルギー薬

鼻噴霧抗アレルギー剤(ケトチフェン点鼻やレボカバスチン点鼻など)は花粉症の症状に対して効果が期待できます。そして鼻噴霧ステロイド薬との併用でさらなる効果が期待できるとする報告もあります。15)16)


 
※鼻噴霧アレルギー薬と鼻噴霧ステロイド薬の併用は効果増強が期待できる。15)16)
 

■授乳婦の花粉症治療17)

授乳中の花粉症治療においてその安全性に関して以下にまとめます。

(※1) 添付文書
・禁授乳:投与中は授乳を中止させる、もしくは投与中は授乳を避けさせる
・投与回避:投与することを避けやむを得ず投与する場合は授乳を中止させる
・慎重、注意:慎重に投与する。投与する場合には注意する
(※2) Hale.TWThomasW.Hale2008Medication and Mother’sMilk 13th
・L1(最も安全)・L2(比較的安全)・L3(安全性は中等度)・L4(有害の可能性)・L5(禁忌)
(※3) 成育センター:国立成育医療センター
投与可能・・・授乳中に使用しても問題ないとされる代表例
(※4) AAP:アメリカ小児科学会(American Academy of Pediatrics
評価は16までの6段階。6は最も安全評価で「通常母乳育児中の母親へ投与可能」


薬剤名

添付文書 (※1)

Hale.TW (※2)

成育センター (※3)

AAP (※4)

ジルテック錠

禁授乳

L2:比較的安全

投与可能

 

アレグラ錠

禁授乳

L2:比較的安全

投与可能

6

クラリチン錠

投与回避

L1:最も安全

投与可能

6

シングレア錠

慎重・注意

L3中等度

投与可能

 

パタノール点眼

投与回避

L2:比較的安全

 

 

インタール点眼

 

L1:最も安全

投与可能

 

フルナーゼ点鼻

 

L3:中等度

投与可能

 
                             (授乳婦における各薬剤の安全性:文献17より作図)

表の中で青字で示したクラリチン錠、インタール点眼液は授乳中でも安全に使用できるといえます。またインタールは分子量が大きいため、消化管からの吸収がとても低く母乳中への移行したとしても乳児への影響はほぼ問題ないと考えられます。従いましてインタール点鼻薬の使用も安全と考えられます。
 

※授乳婦への治療薬で最も安全と考えられる薬剤17)

内服:クラリチン錠、点眼:インタール点眼液、点鼻:インタール点鼻液                   

[引用文献]
1)    Ann Allergy Asthma Immunol. 2010 Mar;104(3):259-67PMID:20377116
2)    Clin Ther. 2009 May;31(5):921-44PMID:19539095
3)    谷内一彦 岡村信行 田代学 脳内に移行する抗ヒスタミン薬の小児に与える影響 小児科 2007 48:1435
4)    BMJ. 1998 Dec 12;317(7173):1624-9. PMID: 9848901
5)    Allergy Asthma Proc. 2006 May-Jun;27(3):248-53. PMID:16913269
6)    Ann Allergy Asthma Immunol. 2008 Mar;100(3):264-71 PMID: 18426147
7)    Am J Respir Med. 2003;2(1):55-65. PMID:14720022
8)    J Allergy Clin Immunol. 2010 Jun;125(6):1247-1253 PMID:20434199
9)    Allergy. 2011 May;66(5):686-93 PMID:21261661
10) Ann Allergy Asthma Immunol. 2008 Mar;100(3):272-9 PMID:18434976
11) Clin Exp Allergy. 2004 Jun;34(6):952-7.
12) Clin Ther. 2003 Aug;25(8):2245-67. PMID:14512132
13) Drugs. 2007;67(6):887-901. PMID:17428106
14) Clin Exp Allergy. 2002 Jan;32(1):126-32. PMID:12002729
15) Ann Allergy Asthma Immunol. 2008 Jan;100(1):74-81. PMID:18254486
16) Ann Allergy Asthma Immunol. 2010 Aug;105(2):168-73PMID:20674829
17) 大分県「母乳と薬剤」研究会編集:母乳と薬のハンドブック2010年版

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