[お知らせ]


2013年4月15日月曜日

誰も教えてくれなかった、健康食品の考え方使い方


に続きます。

[健康食品のあいまいさ]
これまでに2つの仮想症例の中で、血圧に対する健康食品や物忘れ予防に対する健康食品を例に挙げ、有効性の評価を臨床研究に基づいたエビデンスを用いて、その情報の考え方と使い方を模索してきました。実際に健康食品というものを扱う場合は、この症状には、こういった健康食品がお薦めです、という思考過程ではなく、その症状そのものに対してどう向き合うかという思考過程に切り替えることが大切だと思います。病気と診断される前の段階で、気になる症状があるものの医療機関へ受診するほどではない、とか将来病気にならないように、という思い、このような主観的な情報を一つの「現象」として捉えることが必要です。そもそも病気と診断される前の段階での症状やあるいは今現在症状が無いものに対して医薬品ですらその有効性がよくわからないものが多いわけであって、健康食品に関して言えば、エビデンスに基づく客観的データなんてほとんどあいまいで、おおよそ役に立つものは少ない印象です。最後にウコンを含む健康食品やノコギリヤシを例にその客観的データのあいまいさを考えてみます。

[ウコンとノコギリヤシ]
ウコンはショウガ科に属する熱帯性植物で、原産地はインド、中国、台湾、西インド諸島などと言われているそうです。天然の黄色色素のクルクミン(Curcurmin)はカレー粉の香りの原料としても知られています。ウコンを使用した健康食品は様々な効果が期待されており、その臨床応用も興味深いものがあります。主成分のクルクミンはアルコール飲料の飲みすぎから生じる胃腸障害への有効性や、その抗炎症効果から変形性関節症への効果[1][2]や潰瘍性大腸炎への効果[3][4]、も期待されています。アルツハイマー型認知症に対する有効性も期待されているようですが、明確な根拠はないようです。[5] このウコンに含まれるクルクミンですが、驚くべきことに糖尿病発症抑制効果も示唆した、なかなか妥当性の高いランダム化比較試験があります。

【文献タイトル・出典】
Curcumin extract for prevention of type 2 diabetes.
【論文は妥当か?】
試験デザイン:ランダム化比較試験
[Patient]糖尿病前段階の基準を満たした240例の患者(平均年齢569歳~57.9BMI26.6 HbA1c5.8、高血圧既往の割合67%~70%)スタチンや血糖降下剤、ARBACE阻害薬を服用している等の患者を除外
[Exposure]クルクミンの投与(250mgカプセルを16カプセル分2119
[Comparison]プラセボ116
[Outcomn]ADAAmerican Diabetes Associationガイドラインによる2型糖尿病の発症
■患者背景は同等か?▶両群に統計的有意差なし。
■盲検化されているか?▶2重盲検
intention-to-treat解析されているか?▶されている
■サンプルサイズは十分か?
▶有意差5%、統計検出力80%を達成するためのサンプルサイズは各群117例で全体で234例。
■追跡期間▶9カ月
■追跡率▶98.7%(237/240人)
【結果は何か?】
2型糖尿病の発症はクルクミン投与群で0人、プラセボで16.4% P値<0.001
【結果は役に立つか?】
糖尿病前段階においてクルクミンの介入は糖尿病発症抑制に有効かもしれないと結論しています。割と明確に結果が出ていて、この文献は衝撃的でした。ただ、クルクミンの投与量は、市販の健康食品に含まれる量をはるかに上回る量が使用されています。ウコンサプリメントから症状改善に期待される十分な量のクルクミンを摂取することはおそらく不可能でしょう。だからと言ってウコン健康食品を大量摂取することは、他の成分による有害事象の恐れもあり全く推奨できません。

このように、ある食品に含まれている主成分で症状の改善効果が期待できるという報告があったとしても、その投与量は、はたして市販の健康食品と同等の量なのかということも重要なポイントです。多くの場合健康食品そのものを対象としたデータは臨床試験自体が無いものも含め、有効性はほとんどがあいまいか、臨床効果はわずかに期待できる程度、と言えます。食品なのですから、当たり前と言えば当たり前なのですが。これで明確に効果があるなら医薬品になっているでしょう。

ノコギリヤシの有効性というのも、これもあいまいなエビデンスでした。2011JAMAです。全文フルテキストで読めます。

Barry MJ,et al Effect of increasing doses of saw palmetto extract on lower urinary tract symptoms: a randomized trial.JAMA. 2011 Sep 28;306(12):1344-51. PMID:21954478

45歳以上の男性369人(平均年齢60.1歳)に対して、ノコギリヤシ抽出物はプラセボとくらべて下部尿路症状の症状スコア改善に明確な差がないという、なかなか妥当性の高いランダム化比較試験です。症状スコアはプラセボでも低下しており、もはや健康食品じゃなくてプラセボでも十分みたいなことになっています。

[健康食品をどう取り扱うべきか…今後の課題]
では、結局、効果の期待できない健康食品はあまり意味がないので患者さんに勧められるものなんて、何もないんじゃないか…ということになってしまいますね。健康食品の客観的データも基づけば、その結果があいまいすぎて、これは摂取するに値しないただの高価な食品になってしまいます。この症状にはこの健康食品がお薦めです、という思考回路は多くの場合で客観的なデータの前に否定されることになってしまいますね。では僕ら薬剤師は健康食品をどう取り扱えば良いのでしょうか。
これは僕自身も模索段階で、以下に示す内容は、今後も修正を加えていかなければ、いけないと考えていますが、現段階での課題を探りながら、この話題のまとめに入ります。

EBMはしばしば客観的データに基づく量的なアプローチと考えられていますが、これは大きな誤解です。医療者の経験的なものや、患者さんの思い、それを取り巻く環境も含めて臨床判断することが大切です。医薬品も含めてエビデンスは多くの場合であいまいで、これのみを実際の現場に適用するには無理があることの方が多いと感じています。今回の仮想症例の様に、薬剤師が健康食品を用いた健康相談において、エビデンスを活用する際は、病気の診断がつく前の段階という、あいまいな現象を、健康食品というさらにあいまいなものを用いて考えいくわけで、客観的データ(臨床検査値や健康食品のエビデンスデータ)はその判断材料の一部ととらえることを前提にしないと、これはエビデンスの押し付けになってしまい、健康食品なんて意味がない、気になるなら、病院へ行ってください、という一方向の答えしか導き出されません。このような状況を打開するために僕は主観的情報をより考慮に入れた質的アプローチが重要であると考えています。患者さんの訴えや症状という現象そのものを捉えていくこと。そして健康食品は選択肢の一つであり、現象そのものを解決する完璧な手段にはなり得ないということを前提に、その現象をどう構造化していくかが僕の今後の課題です。

[終わりに]
3回にわたり健康食品の考え方使い方をまとめてきました。その過程で、だいぶ思考の整理ができた気がします。結局答えは出ませんでしたが…ここまで長々書いてきて落ちは無し、みたいな。ごめんなさい。薬学部教育の中で健康食品をどう扱えばよいか、誰も教えてくれなかった気がします。でも薬剤師にとって健康食品の取り扱い方は重要な職能の一つです。だれも教えてくれなかった健康食品の考え方使い方、EBMの手法を用いることでその解決の糸口を探してきました。僕自身まだまだ理解できていない部分が多すぎるこの分野ですが、この3回のエントリで、健康食品の取り扱いについて考えることに関して、ほんの少し、そのお手伝いができたら幸いです。
あらためて健康食品のエビデンスを探すと、以外にも多くの報告があり、少し驚いています。今回は情報検索というところに説明は加えませんでしたが、ご紹介したエビデンスは全てpubmedwww.pubmed.gov)の「clinical queries」を使用して検索しています。まずは気になる健康食品のエビデンスを読むことから始めると、以外にも面白い研究が見つかるかもです。僕もそうですが、英語が苦手な方は、グーグル翻訳を同時に立ち上げて、これにコピーペーストするか、グーグルクロームというブラウザを使うと、自動で翻訳してくれたりします。めちゃくちゃな訳になってしまうこともありますが、文章を細かく区切ると、案外わかりやすく訳してくれることもあります。薬剤師が実践するEBMにおいて重要な領域である健康食品の取り扱いは今後もいろいろと考えていきたいと思います。

[引用文献]
[1] Inflammopharmacology.2013 Apr;21(2):129-36PMID:23242572
[2] J Altern Complement Med.2009 Aug;15(8):891-7PMID:19678780
[3] Cochrane Database Syst Rev.2012 Oct 17;10:CD008424. PMID:23076948
[4] Clin Gastroenterol Hepatol.2006 Dec;4(12):1502-6PMID:17101300
[5] Alzheimers Res Ther.2012 Oct 29;4(5):43. PMID:23107780

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